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イナカオブザデッド  作者: ロボロフ鋤井
STAGE 02:九十九林の集落
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Extra Mission:十々瀬家に安らかな眠りを その1



夕飯は昼に焚いたご飯で作った握り飯(具は鰹節)だった。


ちなみに俺が握ったやつで、限りなく丸に近い三角。昨日十々瀬さんが作った奴はもう少しちゃんと三角形だったんで、何かコツがあるんだろうか。

俺の方が手は大きいし、包む面積的に考えるとより三角に握れるはずなんだが…。


まあ、食えば一緒。

形あるものはいずれ壊れる運命…というやつだ。キャラ弁がいい例だ。

…なんて、無駄に悟ったふうなオニギリへの言い訳。



食事を終え、ハミガキして居間に集合。

恒例となった夜のお喋り(作戦会議)だ。



「残りの食料品をリスト化しました。一応賞味期限も横に書いてありますけど…あくまで目安程度ですね。あと個数はともかく、グラム数はちゃんと測ったわけではないので、ざっくりです」


「賞味期限は、美味しく召し上がれる期限…でしたっけ。過ぎても問題ないですね。消費期限の方だとアレですけど、現状そんなの気にしてられないし。ていうか俺も賞味期限が1、2日切れてたのも普通に食ってましたし」


「そんなすぐに味が変わるわけないですよね。徐々に劣化していき、一定のボーダー以下の味に落ちたら賞味期限、という感じかもしれません。ただ、食べて体調を崩すとなると本末転倒どころかマイナスですので、消費期限の方はあまり過ぎすぎないようにはしたいですね」


そう思うと食品たちの期限はそこまで長くない。

十々瀬さんがノートに書いたリストを見ると、パスタ乾麺が最長の2年ちょい、次いで缶詰とレトルト介護食&レトルトカレーが1年くらい。乾燥してるから長いだろうと勝手に想像していたカップ麺や袋麺は意外と短く、4カ月くらいしかなかった。

缶詰も保存食なんだから10年くらいは余裕でイケそうだとか思ってたし…何というか嬉しくない新知識ゲットだ。

ちなみに米は年産?と精米日?とかいうのは書いてあったけど、賞味期限や消費期限は未記載。実に不親切だった。


「まあ、どんなに節約しても期限前に消費しそうですけどね」


「ですね」


そうなのだ。

食料は長持ちさせることが目的ではなく、食って消費するもの。

頑張って切り詰めまくって節約したところで何ヵ月も保つものじゃない。栄養失調からの病気コースで余計に栄養とか薬とかプリーズになってしまう。

これらの食料はいずれ消費し尽くし、そしてもう二度と同じ場所から手に入れることはできない。


「この戦利品…食料があるうちに、継続的に食べ物を得られる手段を見付けておかないといけませんね」


「やっぱアレですか。富士原さんの家庭菜園をどうにか活用…ですかね。確か、なんかありましたよね?」


「今生えている小松菜とミニトマトの他に、例の園芸小屋にあった種ですね。確か…ハツカダイコンとオクラ、きゅうりでしたっけ。あとしわしわで芽が出た、食べられそうにないジャガイモは多分、種芋というやつですね」


「やつらを植えて、収穫までどれくらいかかるか。そして果たして農業シロウトの俺たちで収穫までイケるか、何とも前途多難な感じです」


「富士原さんも農家っぽくなかったですし、多分あの種とかは素人でも簡単に栽培できる野菜なんだと思います。…であって欲しいです」


「まあ、案ずるより植えるが易しってコトですね。とりあえずは家庭菜園の空いている場所で試しに植えてみますかね」


現状、食料に対して何も行動しないのは悪手でしかない。

やらないよりやっといた方が全然マシだし、それで上手くいけばなおグッドだ。

それに確か小学生のガキンチョ時代、学校の畑で何か育てる授業があったような気がしなくもないから、ひょっとするとその時の記憶を農作業するうちに思い出すかも。


…いや、作業せずに友達とふざけてて世話をサボりまくり、枯らせて先生に叱られたような記憶が薄っすらとある気もする。

全然ダメじゃん。過去の自分を殴りてえ。


「特にジャガイモはどうにか栽培できるようにしたいですね。その他の野菜はおかずにはなりますけど、それだけで空腹を満たせるかというと…難しいですから」


「あー、確かにイモ系はボリューム的にも主食になりますよね。ジャガイモだったかどうかはアレですけど、外国とかだとそういう感じだったような気がします」


「一応、鍬みたいな農具の一式もありましたし、やるだけやってみましょう。それと手押し車みたいな機械も、多分耕したりできる機械ですよね?」


「多分。…どっかに取扱説明書とかあるでしょうし、また探してみましょうか。富士原さんでも使えてた機械でしょうから、俺らでも何とかなりそうです。燃料が残ってればですけど。あと、家庭菜園の本とかもあったら参考にできるかもですね」


今時、調べ物はスマホとかパソコンでコト足りる。

…いや、正しくはコト足りた、か。

手元にあるちっこい端末(スマホ)とかで何でもかんでも秒で調べられるようになり、多くの人は重くて嵩張る紙の辞書やら専門書みたいなのを持たなくなった。

取扱説明書も紙ペラ1枚のにQRコード的なのが載ってて、詳しいのはネットで見る前提なヤツとかもそれなりに浸透した世の中は、それ自体は技術の進歩とかエコ的やアレとかで全然悪いことじゃない。


しかしパンデミくった世の中でそういう便利ツールは軒並み使用不能の失われた智慧(ゴミ)となり、古き良き紙媒体の資料が返り咲いている。

全然嬉しくない回帰だけど。


「いいですね。本とかそういうモノは生活に直接関係なさそうとスルーしていましたけど、いろいろ使えそうなものが見付かるかもしれませんね」


「じゃあ明日以降、また富士原家の探索をしてみますか。この周辺も安全になったことですし、ちょっと生活基盤の改善的なやつに集中しましょう」


「野菜は家庭菜園で、とすると…あとはタンパク質ですか」


「大豆とか作ることができたら何とかって思いますけど、富士原さんとこに大豆はなかったですよね。あってもどう栽培するかも知らないし。…となると、狩り?それとも養殖的なヤツですか」


以前も肉についてちょっと話し合ったけど、動物や鳥を狩るなんて技術的に無理だし、奇跡的に捕まえたとしても精肉とかどうやんのって感じだ。

魚なら串にぶっ刺して焼くだけだから何とかなるけど、釣り経験値ゼロだから多分ムリ。


他に何かあるか?素手で捕まえられて危険じゃないタンパク源。

できれば養殖可なやつで。

両生類…カエルとか?アレ食えんの?種類によっちゃヤバい毒とかありそうだし、夏に田んぼにいるくらいで他の季節にはいなさそう。

養殖はまあ、水たまりがあればオタマジャクシを育てることくらいできるか?


あとは……虫か。

………虫かぁ…。


「…そっちはおいおい考えましょうか。まずは野菜です」


「そうですね。一度に全部は無理なので、できることから始めましょう」


「周囲のゾンビも多分全員やっつけて、とりあえず安全になったことですし、日中なら農作業とかも多少は集中してやれそうですしね」


うん、タンパク質の件は保留。

まだ一応食料はあるし。ドッグフードにもタンパク質入ってるだろうし。

やらないよりやっといた方が全然マシとは言うものの、コレに関してはちょっと具体的なのが思い付かないんだよね。

富士原さんも犬じゃなくてニワトリとか飼ってたら卵をどうにかできたかもなんだけど。




薄いお茶を飲んで一息。



……安全、ね。


これまで「不安の元は、それがほんの僅かな可能性でも排除すべき」という十々瀬さんの考えのもと、十々瀬家周辺の脅威を排除してきた。

動き回ってた村役場職員オブザデッド、ワイヤーで繋がれて動けないけど念のために始末した村役場職員オブザデッド2。そしてセルフ封印状態にあった富士原さんオブザデッド。

十々瀬家近隣のゾンビは、これで全て倒したはずだ。

加えて危険度は限りなくゼロに近い『 下草 』地区の山本家夫妻オブザデッドも念のために排除している。

ゾンビの存在を確認したら問答無用で確殺。不安の元は確実に排除、の言葉通りの徹底っぷり。


十々瀬さんがネットが生きている頃に保存した航空写真の地図によると、ここ『 九十九林 』地区にある残りの建物は、十々瀬家からメイン道路を南下した先にある3、4件の住宅と、山の中にある『 九十九林神社 』、『 森林組合分室 』のみ。

住宅はここからそこそこ離れており、見通しもいいからゾンビがいれば一瞬で分かるし、神社やら森林組合は森の中だ。

いずれその離れた住宅群は攻略すべきだとは思ってるけど、周囲の安全という面ではもう達成できたと言っていいだろう。


十々瀬家近隣のゾンビは多分、もういない。全て排除した。

十々瀬家“近隣”よりも、“一番近い場所”を除いて。



「……」


「……」



沈黙。


“一番近い場所”にある危険。

それがあると知っていながら、頭から除外していたモノ。先送りにしていたモノ。

でも、昨日の夜に改めて知覚し、思い知り、田中家の攻略完了で他の懸念事項がとりあえず払拭されたせいで、頭の片隅にしつこい錆みたくこびりついている。


……。

いやいや、でも俺から言うのは流石にアレでしょ?

ちょっと何か違うっていうかナイーブな問題というか、アンタッチャブル的なアレですよ。


いやちゃんと封印してるって本人も言ってるし?

今までも別になんも問題なかったし?

だからまあ、心情的にというか何というか、まだそっとしといた方がいい的な?

まだ時期じゃない的な?

ねえ?


うん。

もう寝て忘れよう。

先送りの倍プッシュや!未来の自分にまかせてGO!!


「……さて、明日からの予定もざっくり決まったことですし、そろそろ、」


「馬銜澤さん」


そろそろ寝ましょうか、と言おうとした声を十々瀬さんが遮る。

さっきまで手にしたお茶に注がれていたハイライト不在の瞳は、真っ直ぐに俺を見つめていた。


「はい」


「ありがとうございます」


「…何かお礼を言われるコト、しましたっけ?」


「昨日から、気を遣ってくれてますよね」


「あー、まあその、はい。でも、別に俺はいいと思いますよ。いろいろそう、いろいろ思うところもあるでしょうし。そんなに対応を急ぐ必要もない気もしますし」


「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」


ほんの少しだけ、目を細める十々瀬さん。

微笑っていえば微笑になるんだけど微小すぎて微妙な微笑。

それが普通に笑ってるのか気丈に振舞ってのやつなのか、微妙過ぎてちょっと判別つかなかった。


「…こういう場面での“大丈夫”って、実は結構大丈夫くないやつだったりしそうですけど…」


「いえ、本当に大丈夫な方の大丈夫なので、大丈夫ですよ」


「…“大丈夫”って言葉がゲシュ?なんとか崩壊しそうですね」


「ふふ、そうですね。でも本当に大じょ…いえ、問題ないですよ。そろそろちゃんと話さなきゃとは思っていましたから」


今度のはちゃんと笑った、と思う。笑い声的なやつも漏れてたし。

何にせよ、こう食い下がるってことは本当に大丈夫なのかもしれない。

俺も居住まいを正し、十々瀬さんを真っ直ぐに見る。


「まだネットが繋がっていた頃、掲示板か何かでどこかの誰かが言っていましたが、ヒトは基本的に“やらない理由”を探す習性がある生き物だそうです」


少し目を伏せ、記憶を吐き出すように続ける。


「その人は自分が働かない理由をつらつらと。私も学校に行ってない理由をあれこれ考えて、“行けない理由”があるから“行かない”んだと自分に言い訳していましたから、結構ぐさっと心に刺さりました。結局それでも不登校のままでしたけど」


「…」


「この問題も“ちゃんと閉じ込めてあるから”“今のところ問題ないから”“多分2人のゾンビがいるから確実にやれるとは言い難いから”とか、そんな“やらない理由”を大義名分っぽく持って、加えて馬銜澤さんが言い出し辛い話題なのをいいことに、放置していました。いえ、目を背けていた…ですね」


…うん、俺が思ってたことは全て言ってくれてるから、口を出す必要がない。

でも、こうやって中二病ムーブで冷静沈着な女サバイバーを演じ続けているとはいえ、十々瀬さんも所詮はJC。まだまだ未成年のお子様だ。

妹オブザデッドはやるしかない状況だったから仕方なくやったとはいえ、現状封印で問題のない両親オブザデッドをわざわざ部屋から引っ張り出して始末するとか、わりと鋼の精神が必要なムーブメント。


俺も相棒にそこまでは望まないし、望めない。

俺が同様の立場だったら、きっと全力で目を背け続けるだろうから。


でも十々瀬さん自らが覚悟を持って言うんなら話は別だ。

逆に俺が無駄に“やらない理由”を言ったりするのはダメなやつだ。だから。


「…まあ、仕方ないですよ。というかこのタイミングで話し合うのが実は最も正解だった気がしません?ほら、外でのゾンビ戦と富士原家の室内でのゾンビ戦をやって経験を積んだわけですし、信頼関係的なやつも組んだばっかとかだとアレですし。機を伺っていた的なやつ、いわゆる高度な戦略的静観?ってヤツですね」


だから、下手くそだけどフォローしつつ肯定する。

しかし直接的な表現は避ける日和見ムーブ。あくまでその先は十々瀬さんに言ってもらわねば。


「そう…ですか?」


「そうですよ。そういうことにしときましょう。なに、どうせ俺しか聞いてない話ですし、大丈夫、誰にもバレないですよ」


2人しかいないのに、他に何がどうバレるんだ、とかいうツッコミはなしの方向で。わざとらしいジョーク。

しかし、十々瀬さんはさっきよりも若干分かりやすく笑ってくれた。若干だけど。


「……そうですね。ふふ、ならひと安心です。私のヘタレ具合を内緒にしてもらえそうで、助かりました」


「どういたしまして。このイカれた世界に共に挑む相棒ですから、相棒の弱み的なのを守秘義務するのは当然です。ガッツリ安心しちゃってください」


無駄にわざとらしいセリフを吐き、互いの軽口に笑う。

微妙に重くなりかけていた空気はこれで霧散した。



そして。




「馬銜澤さん。そろそろ両親を、この家にいるゾンビを。動く死体から“本来あるべき正しい姿”に戻そうと思います。…手伝って、いただけますか」



「もちろん。ご両親が安らかに眠れるよう、お手伝いしますよ」




“一番近い場所”にある危険。

先送りにしていたモノを清算する時が、目を逸らし続けていたモノへ向き直る時が。



十々瀬家の2階にいる2人のゾンビを“あるべき姿に戻す”作戦が、始まったのだった。





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