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イナカオブザデッド  作者: ロボロフ鋤井
STAGE 02:九十九林の集落
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MISSION 02:安全な拠点を設営せよ その16



道路交通法。略して道交法。


車とかバイクとかの運転や、あと多分なんか破っちゃった時の罰則的なやつを云々する系の法律であり、違反者はポリスメンに怒られたり罰金喰らってゴールド免許じゃなくなって自動車保険が高くなるやつ。

俺はあの時ちゃんと一時停止したのに…あのポリスメンめ…!待てよ?一時停止って何秒以上だったっけ?あれじゃ短かかったのか?


……脱線した。

まあ、ふわっとそんな感じのヤツだ。詳しくは知らん。



ともかく、そこには免許に関する決まりも定められており、例えばバイクとかだと16歳でいけた気がするし、車は18…いや、17歳で教習所に行ってた奴もいたような…あれは取得時に18歳になるからゴールを調整したってことか?…まあ、多分18歳くらいからOKだ。

デカいトラックとかだともう少し年齢が必要だったような気がするが、どうだったっけ。


何が言いたいかっていうと、中学生、14~15歳(おこさま)である十々瀬さんは車運転しちゃダメってこと。

原付、バイクすら多分ダメだ。

公道じゃなきゃセーフ説とか聞いたことがあるけど、運転できるような広い土地持ってる金持ち以外は関係なさげ。



「で、今踏んでるブレーキから足を離してみてください。あ、アクセル…右のペダルはまだ踏まないで」


「……」


「大丈夫、サイドブレーキでいざとなったら俺が止めますから。アクセル踏まずにブレーキだけ離して…そう、OKそんな感じです」


「…動きましたね」



というわけで現在。道交法違反をしています☆


富士原家の探索を終え、俺作のシーチキン小松菜ご飯での昼食後、十々瀬さんに車の運転を教えることになった。


探索で玄関先に車のキーを発見、表に停めてあった軽自動車のエンジンも問題なく掛かったため、有難く頂戴するはこびとなったのだが…その時に「今後のことも考えて、十々瀬さんも運転できたらいいんじゃね?」と思い立ち、馬銜澤教習所が開校したのだった。


拠点である十々瀬家から遠出するつもりはないけど、それでも車はあって損するもんでもないし、移動手段としても運搬手段としても、徒歩より安心安全大容量だ。

もしこの先、動く車を発見したとして、運転できるのが俺だけだと回収できないけど、十々瀬さんが多少でも運転できれば回収できるかもしれないし、



「このアクセルを踏まなくても進むやつを、クリープ?クリーク?まあとにかく、何かそういう現象といいます。オートマ車だったら標準装備?です。進む速度はノロノロですけど前には進むんで、これでハンドル捌きを覚えましょうか」


「……」



集中しているのだろう、無言で前をガン見しながらハンドルを握る十々瀬さん。

男の子なら遊園地的なやつでゴーカートとかに乗ったこともあるかもだが、明らかにインドアかつそういうのに興味なさそうな彼女は、多分ハンドル的なモノを握るのも初めてだろう。

十々瀬家に自転車がなかったから、自転車も乗ったことないかもしれない。


馬銜澤教習所の練習場はガチ公道上、十々瀬家~九十九林のバス停までの、見通しがよくほぼ真っ直ぐな広い2車線道路だ。

アクセルを思い切り踏んだり、それでパニくったりしなければ、事故ることはない。


それに教習に使う車は十々瀬カーでなく富士原軽自動車。

ハンドルミスしてどっかにぶつけたとしても最悪諦められる。


ゆっくりと…多分10km / h以下くらいの速度で左右に曲がりながら進む富士原カー。

初運転だけど、この凄まじい速度(ノロノロ運転)なら事故る可能性はないだろう。

ハンドルを動かす十々瀬さんの表情もそこまで緊張していない…いや元から感情表現アレだから分かんねえ。


「じゃあ、このままバス停まで好きに運転しましょう。大丈夫、対向車も来ないですし、裏から煽られる心配もゼロなんで」


「…少し、面白いですね。運転」


運転というか、ハンドルを動かしてるだけだが。

まあ、辛いとか退屈とかネガティブな感想じゃないからヨシ。



「お、そろそろバス停ですね。ブレーキはいきなりグイっと踏むと、このスピードでもガクンって結構な衝撃になりますから、ゆっくり静かに踏んでいきます」


「……」


「そうそう、そんな感じ……はい、止まりました。止まったらサイドブレーキを引いて、シフトレバー…この棒のボタンを押しながら上に、Pって表示の所にセットするように押し上げて…はい、これで停車です」


十々瀬カーのシフトレバーが若干ガチャガチャやらないといけないタイプなのに対し、富士原カーはP~Lまで一直線のシンプルなやつだ。

これも富士原カーを教習車にした理由の1つだったりする。



「馬銜澤さん。これでちゃんと停まれましたか?」


「はい、バッチリです。もう足の方のブレーキも踏んでなくていいですよ」



十々瀬さんは「ふう」と小さく息をつき、握りしめていたハンドルから手を離した。

そしてようやく視線をこちらに向けると、両手のひらを開いて見せる。


「ゆっくりでしたけど、緊張しますね。手汗がこんなです」


うん、そうやって手のひら見せてくれても、見た目じゃ分かんないね。

触って確かめるのもアレだし、うん。心の目で見たことにしよう。


「ですね。じゃあいったん降りてもらって、向きを変えますね」


「お願いします」



今回、馬銜澤教習所で教えるのは発車と停車、あと前進だ。

バック運転とか駐車場に入れるやつとか、カーブとかクランク?とか、そういうのはいずれでいいし、最悪覚えなくてもいい。

とにかく前に進むことができればとりあえずOKって方針だ。


道路標識の見方?道交法?…そんなモノ、ウチにはないよ?

ホンモノの車校の教官とか見たら卒倒レベルの杜撰な教育だぜ☆


一旦車から降りると、俺が運転席に座り車の進行方向を入れ替える。

そしてエンジンを切り、キーを外すとまた車から降りた。


「じゃあ、今度はこのバス停から富士原家の前まで戻ってみましょうか。エンジンをかけるところから、さっきやった通りに挑戦してみましょう。分からなければ何度でも教えますんで大丈夫ですよ」


「はい。お願いします」


再び十々瀬さんが運転席へ、俺は助手席に乗り込みながらキーを手渡す。

運転席に座った十々瀬さんは、キーをシリンダーに差し込み…一時停止(フリーズ)

表情は全く変わらないが、頭の上に「?」が見えるようだ。


「ブレーキを踏みながら回してください」


「そうでした」


エンジンが掛かる。

サイドブレーキを外し、シフトレバーをゆっくり P から R、N、D … L あ、行き過ぎだ。


「行き過ぎです。D のところで止めましょうか」


「はい」


シフトレバーを一段階戻して D の位置へ。

そっとブレーキから足を退けると、富士原カーは再びゆっくりと進みだした。


「ちなみに、Lはどういうものなんですか?」


進行方向をガン見したまま十々瀬さんが質問してくる。


「ローですね。ギア比とかなんとかで、遅いけどパワーが必要な時に使うっぽいです。まあ、実際あんまり使わないんで覚えなくていいですよ」


「そういうものなんですか?」


「パーキングとリバース、ドライブの3つだけ覚えておけば大丈夫ですよ。十々瀬さんところの車はコイツよりもっと他にも選択できるヤツがありますけど、基本は使わないです。停車(P)バック(R)、そして進むやつ(D)だけ使えればまず問題ないです」


「なるほどです」


数字だったり S だったりホントいろいろある。

社用車でも車種によって多少の違いはあったし、実際いろいろ機能とかあるんだろうけど。

俺も別に車に詳しわけじゃないし興味もないんで知らんだけだ。オートマ万歳。


「今度はアクセルに挑戦してみましょう。ブレーキの横にある、右足で踏むやつです。これも急に踏むとガクンってなるし、加減しないと思った以上に加速するんで、そっと、じんわりと踏んでください」


「…やってみます」


車がゆっくりと加速していく。


「十々瀬さんが運転する際の最高速は、目の前のメーターで40km / hくらいを目途にしましょうか。速くなりすぎたら踏み込みを抑えて…そうそう、いい感じです」


ほぼ直線の広い道でコレはノロいけど、さっきのクリープ?現象より断然早い。

それに初めて運転する十々瀬さんの体感だともっとスピードを感じているだろう。


「減速もゆっくりと。ブレーキを踏むかアクセルから足を離すか、どっちでも減速できますけど感覚で覚えていきましょう。ただスピードがある分、さっきより停車に距離がいりますよ」


「……」


「うん、そろそろ減速して富士原家の前くらいに停めましょう。アクセルから足を離して、ブレーキはゆっくりです。大丈夫、ちゃんと停まれるんで急ブレーキしないように……よし、完璧ですね」


ゆっくり運転はノロノロ運転になり、やがて静かに停車した。


「…このレバーを引いて、こっちをPの位置にして…ブレーキから足を退ける……馬銜澤さん、これで…?」


「ばっちりです」


「ふぅ。ありがとうございます」



安堵の息をつく十々瀬さん。

まあ上出来だ。


「運転のコツはアクセルもブレーキも静かに踏むことです。そして何かヤバくなったらパニックにならずブレーキ…はたまに間違えてアクセル踏んだりする人もいるので、とにかく足を離しましょう。動画とかで見たことないです?事故った車がなぜか余計に暴走して走るやつ。あれはパニクってブレーキ踏むつもりでアクセル踏んでるんですよ」


「そういうものなんですね。もしもの時はそうします。…それにしても、馬銜澤さんは車の運転を教えるのが上手ですね。自虐じゃないですが、私は自分が運転するようになると思ってなかったですよ」


「うーん、ホントはもっと難しいし厳しいですよ。筆記試験とかあるし、教官も人によってはアレな人もいますし。俺のはそう、テキトーなんです。いわゆる“パンデミック特別・動けばとりあえずヨシ!講習”ってやつです」


「なら、余計に平和な世の中でも私は馬銜澤教官に教わりたかったです」


「それは卒業試験官も俺でないと確実に落ちるヤツですね。あと卒業しても公道は走っちゃダメな運転手が爆誕しそうです」



そんな冗談を言い合う。

まだ日も高いし、あと何回か繰り返せば十々瀬さんも慣れるだろう。

バックとかそういうのはまあ、本人がやりたいって言えばやってもいい程度の感じで。





拠点…十々瀬家周辺の安全はこれで確保され、物資もだいたい確認した。

今夜にでもまた十々瀬さんと話し合い、それらを踏まえて今後の方針とかを決めていこう。



食料品とかいろいろ収穫できたけど、その殆どがもう二度と手に入らないモノだし、衣類とかも(特に男物)いずれは消耗して使えなくなるだろうし。

う~ん、問題山積みですな!



ああ、食料と言えば。


この富士原カーにステフィちゃんの餌が積まれていた。

いわゆるひとつのドッグフードってやつ。

カリカリタイプのが1kg×4袋にビスケットみたいなヤツが180g袋×10袋、そして柔らかいササミスティックみたいなの160g袋×5袋。

コイツらが人間の食用としてイケるかどうか、十々瀬さんと暫く話し合った結果、いざという時にってことで、一応十々瀬家のキッチンに保管してある。


まあ、食って死ぬことはないと思うけど…うん。いざという時には、ね?



いよいよな状況になり、ドッグフードを仲良く貪る俺と十々瀬さんか。

いよいよな状況になったとしてもそんな食い方はしないんだろうけど、なぜか床に置いた皿から犬みたくカリカリをボリボリ食らう2人の姿を想像してしまう。



人の尊厳ンン…。




せめて缶詰であればよかったかも。





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