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イナカオブザデッド  作者: ロボロフ鋤井
STAGE 02:九十九林の集落
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MISSION 02:安全な拠点を設営せよ その15



昭和的な家屋である田中家にもインターホンは付いていたが、今時のカメラ付きなやつじゃなく、何かプラスチック製の四角い箱に緑のボタンがついてるだけの、超絶シンプルなやつだった。


まあ、インターホン自体が電力ないから使えないんだけど。

だから、



「すみません、斜向かいの十々瀬です!田中さん、いらっしゃいますか!」



ドンドンドン!



「田中さん!無事かどうかだけでも教えてください!田中さん!」



ドンドン!



だから、こうしてノック&声掛けが必要になるってわけだ。うーん、原始的☆


はい、富士原家の焼き回しというか再現。

今回も十々瀬さんの迫真の演技(声だけ)が光る。

表情は相変わらずの無表情フェイスで、前回同様、凄くアンバランス。



「……」



「……」



「何となく分かっていましたが、やはり反応はないですね。富士原さん同様にセルフ監禁状態になっているか、既に無人なのか。何とも言えないです」


ピタッと玄関を叩く動作を止めてこちらに向き直る十々瀬さん。

相変わらず極端な切り替えだ。オンオフがしっかりしているのは素晴らしいね。


「外からじゃ全然中の様子が分かりませんね。1階のカーテンとか少しでも開いててくれたらよかったんですけど」



家の周辺はぐるりと回って確認済だ。

1階の窓は全てカーテンが閉めてあり、中の様子は窺い知れない。息を潜め、勝手口のドアも廻してみたが鍵が掛かっていた。

2階は一部カーテンを閉めていないっぽかったけど、下からでは見えるのは天井の一部だけ。その位置が部屋なのか、廊下なのかすら分からない。

パンデミック前なら電気メーターとか見れば空き家かどうかくらいは判断できたけど、現状では使えないし。


ちなみに半分くらい塗装のハゲた屋根だけのカーポートがあり、これまた古そうな軽トラと、多分もう長いこと放置されたままのオンボロスクーターが置いてあった。


スクーターは明らかに廃車だろうから、田中家の“足”はこの軽トラってことになる。

加えて農機具系のモノは全然見当たらないし、荷台には畳んだブルーシートが積んであるだけなので、農業用に使うために買った車両ってコトではないだろう。

…それらを踏まえて予測するに、住人は中年~老人の可能性が高いってところか。


うん、まあ限界集落っぽい楽設村には若者なんて絶滅危惧種だろうから、こんなの予測するまでもなく周知の事実か。



「玄関ドアの鍵は…うん、さすがに掛かってますね」


一応そーっとドアノブを廻すが、ロックの感触。まあ想定内。

やはりここも富士原家同様に窓を割って入るしかないか。今宵も俺のデルタホーがガラスを求めているぜ☆


そう思い、さっさと掃き出し窓のある側へ廻ろうとしたら…。


「…馬銜澤さん」


十々瀬さんが俺の上着の裾をちょいちょいと引っ張ってきた。


「ん、どうしました?」


「郵便受けにこれが」


玄関から動いてないと思ったら、郵便受けを確認していたのか。ちょっと盲点。

パンデミックで郵便業務自体が麻痺ってたぽいから、よくある「郵便受けに新聞が大量に詰まってたら長いこと留守」っていうヤツとか使えないと思い込んでたし。


十々瀬さんが差し出したのは、楽設村役場からの封筒だった。

その宛名は…、



「『 田中様 ご家族様 』…?」



何とも妙な宛名だ。

役場なんだし住民である田中さんの名前くらい戸籍的なヤツで分かってるはず。

なのに苗字だけで、加えてなぜか「ご家族様」?



「先に、コレを開けてみましょう」



反対する理由もナッシング。

じゃあ押し入る前に、まずはプライバシーの侵害をやっちゃいますかね。









「半年前に孤独死、ですか」



カビ臭く薄暗い廊下。

何とも呆気なかった田中家攻略完了に、何とも言えない感想を吐く。


「親戚の人とかも結局、来なかったみたいですね」



件の手紙は、いつか多分この家を訪れるであろう、田中さん…田中 沖彦(たなか おきお)さんの家族or親戚に宛ててのモノだった。


田中さんは半年前にこの家で孤独死し、役場職員の独居老人見回り巡回で遺体を発見。

いろいろ手を尽くして遺族的な人を探したものの見付からず、村が簡易な葬儀&火葬を行い共同納骨堂に遺骨をIN。


そこまではやったけど、家とか土地とか家財とかはさすがに勝手に処分できないということで……田中さんの関係者がいつかこの家を訪れることを期待し、手紙を入れておいたらしい。


手紙にはコトの顛末と田中さんが眠る共同納骨堂のある寺の住所、そしてこの家の鍵は村の住民福祉課が預かっている旨が記載されていた。


で、結局誰も来ないまま時は流れて本日。

こうして田中家とは縁も所縁もない俺たちがやって来たって寸法だ。

…ちなみに鍵を住民福祉課に貰いに行くわけにもいかないから、富士原さんの時みたいに窓からお邪魔しました。



ゾンビはいない。

ゾンビが出現する前から無人だったことに加え、バッチリ鍵が掛かっており、外部からナニかが侵入した形跡もなかったからゾンビが存在する余地がない。

だから探索はスムーズだ。…スムーズなだけで、得るものがないけど。


「1階クリア。何にもない…というか、使えるものゼロですね」


田中さんは1階にある六畳くらいの寝室に倒れていたらしい。

そこも見てみたが、遺体があったであろうパイプベッドはフレームと木の板だけの状態でマットレスすら敷かれておらず、想像していたようなヒト型の染みみたいなのはなかった。

多分、役場が気を利かせて処分したのだろう。


死臭的なヤツも半年も経っているからか全く感じず、その代わりに締め切っていたせいか、埃とカビの匂いが酷い。

家の古さ的には山本家の方がずっと古いっぽいけど、ヒトが住んでないと…というか換気的なアレか?…ともかくそういうのがないと家は早く痛むようだ。

床の一部は踏むと妙な感触があり、腐っているのかシロアリか、とにかくボロくなっている。


「役場が最低限の掃除、整理をしたみたいですね。貴重品みたいなのには手を付けていないみたいですけど」


居間にはいくつか大きめのビニール袋が隅に置いてあり、マジックで『衣類』とか『書類』とか書いてある。

そこらに散乱していた服とか手紙とか、遺族がもしかして必要かもしれないってモノをまとめて入れたのだろう。

お陰で小さなゴミとかは転がっているものの、家の中はわりと片付いていた。

ちなみに「貴重品」、つまりお金とかそのへんは、役場の住民福祉課が保管しているらしい。

まあ、それらに興味はないんでどうでもいいけど。


もはや生活感ゼロの田中家。

当然、食料品とか腐るモノだったり賞味期限があるモノは捨てられたみたいで見当たらない。放置して腐らせるのはアレってことで、村が軒並み処分したようだ。

冷蔵庫の中も空になっており、戸棚にはガチガチに固まった使いかけの白い何か(多分塩)の瓶が転がっているだけだった。


古びたヤカンや鍋みたいな調理器具、ちょっと刃の欠けた包丁とかはあるにはあるけど、そんなのは回収する価値がない。富士原さんの家にあるモノの方が断然いいし。


2階に上がる。

階段のいくつかの段が嫌な音と感触がして、違う意味で怖い家だ。



「…ここはもっと何もないですね」



2階には4部屋ほどあったが、どこもロクなもんがない。

古い服とか布団とか、壊れた家具みたいなのとか。1階よりも生活感がなく、どっちかっていうと物置的な印象を受ける。

恐らくだが、年を取って2階に上がるのがキツくなった田中さんは、ある時期より2階に上がることをやめたんじゃないかと思う。

で、無事物置化したって感じだ。

全てが古くボロく、不要になったけどゴミとして出すのが面倒なんでここに放り込まれた…みたいなモノばかり。多分この予想は正解に近いだろう。


「ですね。2階もクリア、と。……アレですね。もう出ましょうか」


早々に安全&資源確認は終了だ。

うーん、無為!収穫ゼロ!

安全って意味ではまあ、全然問題ないし、良かったんだけど。

資源的にはダメだね、コレ。なんも得るものがねえ。



はい田中家完全攻略ぅ~。

家自体も傷んでて利用価値なさそうだけど、一応ゾンビとか野生動物とかが入り込まないように侵入するため割った窓は補修し、全行程完了だ。

…ふぅ。










安全だけど何もない、そんな田中家を早々に見限って、今日は富士原家の物資確認&回収をすることになった。

とは言ってもこちらも十々瀬家から近く安全が確保されているため、使えるもの全部を今すぐ回収、なんて必要はない。

食器とか調理用具とか普通に使えるけど、十々瀬家にもあるし、必要になったらまた来ればいいだけの話だ。逆に回収しすぎると十々瀬家の収納スペースが圧迫される。


「トイレットペーパー、洗剤、生理用品、医療器具と薬。電池も少しありますね。これは、裁縫用具ですね。一応回収しておきましょう」


「服の類は…旦那さんがどれくらい前に亡くなったのか分かりませんけど、さすがに男物はもうないっぽいです」


超絶不謹慎な宝探しだ。

富士原さんはステフィちゃんに高級グレードの保険を掛けるくらいには豊かな暮らしができていた老婦人。暮らしぶりもそこそこ丁寧だったようで、使えるものは多い。


田中家が(物資的に)非常に残念な結果だったゆえに、富士原家探索はちょっぴりテンションが上がる。


「旦那さんの服とか諸々、ここに越して来る時に処分してしまったかもしれませんね。結婚指輪らしき指輪は仏壇の引き出しに入っていましたけど」



遺影写真に写った旦那さん(推定。息子とかの可能性も微存だけど)は中年くらいであり、若い頃の写真を敢えて使ったとかじゃなければ、結構前に死別したのだろう。

その後の一人暮らし歴がどれくらいか知らないが、ステフィちゃんはそんな富士原さんにとって、ペット以上の存在だったに違いない。


そう思うと、ゾンビになってステフィちゃんを食ってしまったというのは救われない。

いや、サイコパス風に考えると、ある意味1つになれたとかいう感じに収まるのか?

ステフィちゃんサイドからしてみれば、可愛がってくれてた飼い主に襲われて食われるとか最悪だったろうけど。



…ま、考えても仕方ないか。

こういうシチュとか、実際世の中の至る所で起こってるだろうし。

どうしようもないことは、どうしようもない。そんなもんである。





老々介護の山本家夫妻、ペットと暮らしていた独り身老人の富士原さん、そして孤独死した田中さん。


一応は家族…奥さんに看取られて逝く方向だった山本さん(夫)が最も幸せ風味なのか?

いや、それでも奥さんの方は残されて、富士原さんルートになっていたか。

…ゾンビになったせいで順番は逆転したけど。


子供とかと同居していない限り、夫婦であっても結局のところ最期は独り。

それでもなお、山本さんや富士原さんの方が田中さんより幸せそうな気がするのは、伴侶とかの存在が確かにあったから、そう思うのか。

実際、他人である俺が決めるようなもんでもないけど…何ともね。




まあ、かく言う我ら、馬銜澤家も十々瀬家も、どう足掻いたって今代で終了するのが確定なんだけど。

俺の姉は嫁ぎ先の苗字になってたしね。よって馬銜澤姓は俺オンリー。

十々瀬家も十々瀬さんしか残ってないし。


いやはや申し訳ないッス、ご先祖様☆



諸行無常である。



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