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イナカオブザデッド  作者: ロボロフ鋤井
STAGE 02:九十九林の集落
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MISSION 02:安全な拠点を設営せよ その13



安全地帯になった富士原家は、お邪魔(不法侵入)する際に割った窓ガラスをガムテで補修し、今後も動物とかが入らないように戸締りしておいた。



富士原さん&ステフィちゃんはとりあえず中庭にあった園芸用の物置小屋(プレハブの小さいやつ)に毛布で包んで安置&施錠封印。


小屋の中にあったモノは逆に富士原家のちょっと腐臭の残る和室へ暫定でINだ。

ちなみに消臭効果を期待し、山本家産の新鮮な線香をいくつか焚いておいた。


部屋には小さなサイズの仏壇(おそらく先に亡くなっただろう旦那さんのか)があったものの、なぜか線香&線香を立てる灰が入ったアレは見当たらなかった。

ロウソクの代わりにロウソク型のライトがあったので、富士原家ではコレを使っていたのだろう。

火の用心ってやつだろうか。ハイテク?だ。



にしても、処理したゾンビ含め死体とかの処理…なかなかどうして難しい問題ではある。


先の山本家は拠点である十々瀬家から遠いし、どうせもう行かないだろうから夫婦の遺体は放置してきたが、ご近所だとそうもいかない。

そのままその場に放置するのは論外として、埋めるにしたって人力でヒトを埋められるようなサイズのデカい穴を掘るのは至難の業。

俺のエモノであるデルタホーは雑草とかちょろっと掘るのにはいいけど、深い穴を掘るには向かないし、シャベルがあったところで穴掘りはガチ重労働ムリゲー風味だ。


それに仮に穴を掘れたとして、テキトーなところに死体を埋めるのも悪手。

湧き水で生活してる身として、変なところに埋めたせいで“いろんな汁”とかが出て土壌汚染とかなったら目も当てられない。

その辺の地面より柔らかいだろう畑とかに埋めるのもNGだ。衛生面もあるし、今後その土地が使いづらくなってしまう。


浅い穴とかだと野生動物が掘り返しに来るかもしれないし…、野犬とかイノシシとか野生のパワーがやって来たら都会派紳士である俺では勝てそうにないからねぇ。


富士原家の園芸小屋への遺体封印はそういう意味でも使えそう。

キッチリ締めれば匂いもあんまり出なさそうだし、鍵を閉めておけば動物の侵入も防げるし。

放置中に熟成された死体が、次回開けた時に芳醇なアレでトラウマな絵面になってそうってのはまあ、その時の自分にヨロシクだ。





昼食として “茹で小松菜塩コショウご飯 ~福神漬けを添えて~ 十々瀬(ととせ) 狸依子(りいこ)シェフ作 ” を食べ終え、夕食用に作ったおにぎりを冷蔵庫に入れて一服。

薄い緑茶が身体に沁みる。



「今…14時過ぎですか。まだ全然明るいですが、少ししたらお風呂にしましょう。ほぼ気にならない程度ですけど、富士原さん達を運んだりしたので…」


「あー、確かにサッパリしたいですね。富士原家からモノを物色…というか、拝借?ゲット…、まあ何でもいいか。とにかく物資を探したりするのはもう明日以降でもいいですし」


「はい。急いてはコトを仕損じる…とまでは言いませんが、そんなに急いでも特に何かあるわけでもないですから。逆に急いてしまい、やる事が雑になってしまうことの方が厄介です」


「ですね」


この生活にはゴールらしいゴールがないため、差し迫ったモノ以外で何かを急いでこなす必要はない。

無理せず堅実に慎重に生きる、これ一択だ。

ある意味スローライフ。忙しい現代社会で人々が求めてやまなかったモノ。

それがまさか、終末的パンデミックの中にあったとは。うーん、若干忙しい方がマシかも。


例外的に、この『拠点周辺の安全確保』は優先事項(なるはや)で、富士原家攻略は思い立ったが吉日ってんで直ぐに取り掛かったけど、それは富士原家の戦力?をほぼ確実に把握していたからだ。

もう安全確保ができた現状、急いで物資回収をする必要性は薄味。




お茶をひとくち。

ふぅ、と息をつく十々瀬さん。

瞳は相変わらずハイライトなしの淀んだ目だが、声色は満足げだ。


村役場職員オブザデッドに警戒しながらの砂糖水生活という極限状況からトントン拍子でここまできたのだ。

安全圏は広がり、生活水準(主に食料)も大幅改善。十々瀬さん的にも十分な成果を得ていると言えるだろう。その一助になった身としては俺も鼻が高いかも。


まあ、俺とて十々瀬さんに会えなかったらどうなってたか想像すると…だし、ウィンウィンってやつだ。持ちつ持たれつ、実に平等で健全かつ建設的な関係だ。

……俺の方が年上っていうか成人だろ?って事実からは目を背けるものとする。




「これで後は斜向かいの家ですね」



十々瀬家周辺にある家は、道を挟んで斜め向かい側にある昭和的な家と、先ほど攻略した富士原家だ。

その次に近い家、森に入っていく道のところにある家は朝の話だととっくの昔に空き家ということなんで警戒度は低い。

そのぶん探索したとて食料品や使えるモノが見付かる可能性もゼロに近しいが。


「斜向かい、確か…表札は『 田中 』でしたか」


ちょっとだけ考える素振りをして応える十々瀬さん。

いやいや、最ご近所様でしょうに。


にしても、珍しさのカケラもない苗字だ。多分日本のどの市町村にもいるだろうな、田中。

レア度で行ったら確実にコモン。

馬銜澤(はみさわ)は自分ち以外知らない。絶対に超絶レア苗字。UR確定。

十々瀬(ととせ)もか。いや、十々瀬は探せばありそう。SRくらいか。


「もしかしなくても面識がない感じです?」


「はい。引っ越してきてから一度も会ってない…と思います。富士原さんは…というか富士原さんも馬銜澤さんに言われて初めて名前を知ったくらいですが…あそこは以前からたまに犬の鳴き声がしたり、表に停まった車が移動してたりで誰かしらが住んでいる程度の認識はありましたけど、斜向かいの家はサッパリです」


自分の皿を持って立ち上がり、自然な流れで俺の前の皿を回収する十々瀬さん。

片付けを手伝おうと思ったけど、使った食器は各自で皿1枚だけなんで、もう手伝う余地なし。思っただけに留めて軽く頭を下げておく。


「ええと、それはアレですか?その…、十々瀬さんが以前あんまり外出しないタイプのインドア的な…」


気遣いのできる男、馬銜澤田ろう。引き籠ってたという事実をオブラートに包んで…


「いえ、引き籠ってはいましたが、あの距離なら窓から少し覗けば見えますよ。特に夜とか電気が付いていれば見る気がなくても目に入ります。でも、それでも灯りが付いていた記憶がないですね。ただ気に留めてなかっただけかもですけど…」


包む必要はなかったようだ。

それはともかく、十々瀬さんの記憶が確かなら…田中家はひょっとして無人か?

だとしたら拠点周辺の安全確保は既に完了していることになるかも。


「だから現在無人か有人か、何とも言えませんね。ただ“生きた人間”がいない可能性はとても高いと思います」


流しに皿を置き、十々瀬さんは慣れた手つきで置いてあった食器洗い用のペットボトルから水を垂らし軽く洗う。使う洗剤は最小限だ。

水は節約しなくてもいいけど、洗剤には限りがある。


「そのワケは?」


「私1人で息をひそめて暮らしていた時はともかく、馬銜澤さんが来てから物音を立てたり会話したり、車だって使いました。生きた人間がいるなら、何かしら反応するはずです」


物音はともかく、車の音は生きた人間がいるという証拠のはず。まさか運転するドライブオブザデッドはいないだろう。

うん、確かにそれなら少なくとも何らかの反応があるはずだ。


「ああ、確かにですね。そうなるとゾンビ在住の可能性ですが…その場合でもいるんだったら既に音や声に反応してるんじゃないですか?それもないってことは…ワンチャン無人かも?」


「それこそ富士原さんと同じように、セルフ監禁状態で音には気付いているけど出てきたりできないのかもしれません。ゾンビがいるかいないかについては、現状では何ともです」


「じゃあ、ゾンビがいるものだと想定して臨んだ方がいいですね」


「私としてはそう思います。…思いますが、生存者がいる可能性も決してゼロではないので、それだけは忘れないようにしておいた方がいいですけど」


あ、最後ちょっと自信なくなったのか。

ただ、可能性的には十々瀬さんの考えは理に適っていると思う。

俺の頭脳では反論の余地が出てこないだけかもだが。


「ですね。何にせよ確認はしなきゃアレなんで。実際にやることは変わらないんですけどね」


つまるところは、結局そういうことですね、と十々瀬さん。

田中オブサバイバーがいるにせよ、田中オブザデッドがいるにせよ、無人にせよ、逆に複数人にいるにせよ。

安心できるようにするためにはこの目で確かめねばならない。


何だったか“予想はよそう”とか言うじゃない?

思い込みや楽観視はダメ☆ゼッタイ。

そういう油断がパンデミくった世界で死に繋がるのは映画とかで飽きるほど見ている。


石橋はちゃんと叩いてから渡る。

叩きすぎて壊れたら?別のルートで行く。




「っと、つい話し込みそうになってますね。じゃあ後は風呂が終わってからにしましょうか」


残ったお茶を一気に飲み干し、立ち上がる。

今日はもう外でやることはないんだから、残りの時間は家の中。作戦会議でも取り留めのないお喋りでも好きなだけできる。

ただ、十々瀬家流の風呂(沸かしたお湯×水を使った行水的なやつ)は太陽の出ている時=電力使用可能時間しか使えないから、やれるうちにやっとかないとね。


「お風呂は十々瀬さんがお先にどうぞ。料理も片付けも十々瀬さんだったので、お風呂の順番…というか風呂後の浴室掃除は俺がやりますよ」


といっても浴槽に浸かるわけでもシャワーを浴びるわけでもないので、浴室はそんなに汚れない。身体を洗う時に撥ねた水とかを流す程度の作業だ。

浴槽をゴシゴシしたりする、家事の中でもわりと重労働なモノと違い、実にラクチン。


「それと洗た、」


だから今回は洗濯も俺が、と言いかけたところでストップ。


十々瀬さんは俺の洗濯物と一緒に自分のも洗濯するのを気にしない系JCだ。

前回の洗濯ではそうだったし、洗い終わった後も普通に干すまでやってくれたっぽい。普通は肉親(パパン)のでさえNo Thank You&Don't Touchらしいのに(実姉がまさにそうだった)。

そんなこんなで現在、十々瀬家2階のベランダには彼女のだけでなく、俺の服一式も風に揺られている。


以上のことから事実として、十々瀬さんが俺の上着から下着まで洗い、かつそれらを干すのも問題なし。

本人も別に気にしないって言ってたし。


しかし逆は?

洗濯機を回すまでは別にいい。洗剤入れてボタン押すだけだし。問題はその後。干すターン。


相手は血とか全然繋がってない真っ赤な他人で未成年女性。

”そういう関係同士”ならまだともかく、実際は”相棒”って関係でその相棒歴もまだ短い(なったばかり)

それでも信頼はバッチリしているし、されていると信じているけど、それはそれとして、コレはねぇ?


なんか絵面的にアウト臭くない?

やましい気持ちとか微塵もないけど、ソレらを手に取って干すために広げて…って絵面は世が世ならお巡りさん召喚案件にされてもおかしくない。

男女平等が叫ばれる昨今においても“それはそれ”な風潮がが。


言葉を途中で止めた俺を、若干不思議そうな目で見ていた十々瀬さんだが、すぐに合点がいった、という感じで小さく笑う。


「気にしませんよ」


ナニが、とは言わずもがな。でも伝わる。日本語って凄いね☆


しかし。

おぉぅ、マジか。そんな気はしないでもなかったけど。

いやまあ、今後の生活的にもそういうアレは信頼関係的にアレだ。

つまり、アレ。

…何だ“アレ”って。



「…気にしませんが、」


俺が何か答える前に、十々瀬さんは一拍置いて続けた。



「馬銜澤さんに気を遣っていただくのもあれなので、洗濯に関しては、しばらくは私がやりますね」



正直ありがとう十々瀬さん。

次回の料理&片付けは俺がやろう。



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