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イナカオブザデッド  作者: ロボロフ鋤井
STAGE 02:九十九林の集落
22/28

MISSION 02:安全な拠点を設営せよ その12



約款をめくる。

確かこのへんに…ああ、あったあった。


「ええと、第4条。“保険金を支払わない場合”、今回だとコレの⑤ですね。当社は被保険者の故意、または一部の過失を除きペット損害の……まあ、簡単に言うと飼い主さんが自分でペット殺したら保険対象外ですって意味ですね」


「……」


「そういう決まりですので、申し訳ございませんが今回はお力になれません。いや、ホントすいません。でも、やっぱ食べちゃうのはね。アレですよ。流石に対象外」


脳天を陥没させ、床に横たわる老婦人…もとい老腐人。富士原さんオブザデッド。

&もはや何だか分からない赤黒い毛玉の残骸と化したポメラニアンのステフィちゃん(推定)。


「馬銜澤さん?」


「…まあ、何ていうかアレです。一応俺のお客さんだったので。契約もしてくれたっぽいですしね。何となくですよ」


富士原さんは読み通り、和室に居た。

ただ当初の予定では外におびき出して始末するハズだったのだが、富士原さんはドアのすぐ前にフラフラ立っていたらしく、思いっきり押し開けたらその衝撃で吹っ飛んで床にダイブ。

そこに室内干し用のスタンドと洗濯物が倒れ込み、勝手に行動不能に陥ってくれた。

で、作戦変更。

その辺にあった空き瓶にタオルを巻いて脳天かち割り。富士原家の制圧完了と相成ったのだった。


ちょっぴり拍子抜け感だが、まあ結果オーライ。

それにしても慣れってのは恐ろしいもんだね。

割と生前の雰囲気を残してる(ただしステフィちゃんをもぐもぐしたらしく、口周りは乾いた血がべったり)富士原さんなんだけど、特に思うところなく脳天をかち割れた。

倫理観の崩壊っぷりがマッハ。


「既に契約していたんです…?確か、馬銜澤さんはここへ契約に向かってたんですよね?」


「ああ、まだその時点じゃ保険に入ってくれるかまでは分からなかったですけどね。わりといるんですよ、最後の最後で『やっぱや~めた』ってかましてくる人。おいおいマジかよってなりますけど、まあ、そこは営業スマイルで『そうですか~、じゃあ次の機会に是非またご検討お願いしますね』って呑み込むんですが」


「ストレスとか、大変そうですね」


「実際仕事なんてそんなモノの連続ですよ。今回も詳しい説明とプランの提案を持って行って…あ、デラックスコースに加入してくれたんだ。愛されてるねえ、ステフィちゃん(過去形」


契約書を捲る。

どうやら契約を勝ち取ったのは俺がアポを取った2日後、担当者は同期の佐竹になっていた。

最上級が『スペシャルデラックスコース~血の繋がりはないけれど…それでも大切な“家族”のためにできること~』で、デラックスコースはそれよりワンランク下の商品。

それでも掛金それなりに高く、お勧めするには相応の覚悟が必要だ。俺が結ぼうとしてたのはそのまたワンランク下のプランだったのにねぇ。


佐竹…。インテリ眼鏡に見えて、酒を飲むと脱衣する愉快な男。

飲み会で行った某居酒屋では出禁になった彼だが、なかなかどうして有能な男だったらしい。

彼含め我が社がこの契約後、パンデミくってからどうなったか知らんけど。

我が社も惜しい人材を(多分)亡くしたな…。


「推測するに、約束の日時になっても俺が来なかったんで、改めて別の人間が担当になって契約…って事みたいですね」


それはさておき、俺の件に関してはおそらく会社にクレームの電話が入っただろう。

担当が来ないんですけどお宅の会社どうなってんの!?って。契約中止待ったなし案件だ。

なのに佐竹はその謝罪をしつつ、成果も挙げたことになる。マジでやるじゃんアイツ(過去形)!

…しかし、それならちょっと解せない点が出てくる。


この楽設村へのルートは1つしかない。

実際はもっとヤバい山道ルートとか、全く逆の方から行くルートなんかはあるっぽいんだけど、前者はナビも教えてくれないような林道みたいな道みたいだし、後者は会社からだと遠回りすぎる。

つまり、佐竹は俺と同じルートを辿ってここに来たはずなんだけど…途中で事故ってる社用車&気絶している同期たる俺に気付かなかったのだろうか?

道からバッチリ見える場所でガッツリ事故ってたはずなんだけど。

………ふむ?


「…どうしました?」


ちょっと思考に囚われ一時停止していたようだ。

十々瀬さんが僅かに小首を傾げ、声を掛けてくる。いかんいかん。


「あぁ、何でもないです。…さて、何というかケジメ的な何かは付いたので、他の部屋と2階の安全を確認しちゃいましょうか」


謎は謎だが、どうせ解明できなさそうだから解明しようとしないでおく。

そんな事よりも、優先すべきは当初の目的だ。

考察したければ、超絶暇な夜に好きなだけ考察すればいい。難しいことを考えると眠くなるので一石二鳥。実に合理的だね☆


「そうですね。それに、ここはいろいろ期待できそうです」


「というと?」


「居間の状態とかを見るに、富士原さんはパンデミックに対して殆ど何も分かっていない、または脅威として実感していないくらいのタイミングで“こう”なったと思います。つまり籠城している状態じゃなかったということです」


「つまり、アレですか。物資はほぼ手つかず」


「欲を言うなら、籠城の為に溜め込んだ直後が最高なんでしょうけど、それはさすがに贅沢ですね」


う~ん、発想が世紀末ヒャッハーな略奪者。いやここはスカベンジャーか。

当初の…というか大前提の目的は拠点周辺の安全確保なんだけど、物資的な期待も持てそうってなるとプラスアルファを求めてしまう。人の欲とはどこまでも深いものよ…。

ちょっと前までは善良な一般市民だった身としては、罪悪感的なヤツもあるにはあるけど、それはそれとして割り切った。


もしも…あの世的な何かがあったとして、こういう行動は情状酌量の余地なく地獄行きになるとしても、世の中の現状的に地獄みたいなもんだし。

多分リアル地獄もそう変わらんだろ。



俺の社会人人生においておそらく最後のお客さん(契約を取ったのは佐竹だけど)だった老腐人と、その愛犬だった毛玉の残骸。

うーん無常、改めて何だかいろいろ吹っ切った。


“(株)小さな家族ライフ生命 ” 営業、馬銜澤 田ろうは、この時を以て “ ただの馬銜澤 田ろう ” になる。


万が…いや億が一、事態が無事解決したとて、ウチの会社が復活することはないしね!

復興とかどんだけかかるやらって状況でペット保険とか誰求(だれきゅう)

もはや公用車で事故った件の始末書とか完全にアタマからポイでいいな!ヨシ!!

しかし本来なら貰えただろう退職金とか今月の給料とかそっちの踏ん切りは…いかんいかん。


……よし、さっさとやることやろっと。







結論から言って、富士原家は当初の想定通り彼女以外のゾンビはおらず、また鍵がバッチリ掛かっていたことから動物その他に室内を荒らされていることもなかった。


ただ、表に車があったように、ヘルパー頼みで自力買い物ができなかったであろう山本家とは違い、欲しいものがあったら車を出して買い物していたと思われる。

そのため食料の多くは In The 冷蔵庫 or 冷凍庫…つまり電力ストップによって封印すべきダークマターへ変貌しており、一部常温で置いておけるような野菜もダメになっていた。


食料品として回収できたのは12袋入りのお徳用レトルトカレー(大袋開封済で残ってたのは5食分)、シーチキン缶3個、小さなマッシュルームの水煮缶1個、福神漬け1袋、こんにゃく120gパック1袋、干しシイタケ1袋(開封済で使いかけだがミイラ状態なシイタケだから多分大丈夫だろ)、未開封の味付け海苔缶。

そして山本家にはなかったカップラーメンが3つと袋麵が5つ。富士原さんも老人だったが、山本さん夫婦よりは若いという証拠だろう。


調味料的なやつでは、瓶に入った使用中の塩と未開封の1kgの袋、未開封の醤油1リットルペットボトル、開封済み料理酒、未開封の味醂、何だかよく分からない中華系?香辛料の小袋数種類、使用中の塩コショウ、詰め替え用の塩コショウ75g袋、開封済みの鰹節出汁パック。

富士原さんは健康志向なのかダイエット中だったのか、この家には普通の砂糖がない代わりに、ラカント?とかいう甘味料(スティックで小分けしてある)が置いてあった。



「お米がそれなりにあったのは運が良かったですね」


安全が確認出来たらまずは食料の回収ってことで、現在、十々瀬家に食料を輸送中。

台所にあったエコバックに、重すぎない程度に食料を詰め込み、若干嬉し気な十々瀬さん。俺は米の袋を両手に装備だ。

距離が近いので車は使わず徒歩での輸送。


「何はなくとも米さえあればとりあえず腹は膨れますからね。やはり『主食』の名は侮れないですよ」


米はちょっとお洒落なデザインの米びつに少々と、未開封の5kgのが4袋もあった。

富士原さんの年齢的に重い米は少量袋しかないと思っていたんだけど、どうやらそれは承知の上で取り寄せ的なやつを使ったっぽい。

米の袋に貼られたシールがそれを物語っていた。老人的生活の知恵というやつか。

いや、若者でも重い荷物は宅配にするかな。


「小麦粉も主食ですけど、コレからパンとかは作れそうにないですね」


主食…とカウントすべきか微妙なところで、小麦粉も未開封1kgの袋があった。

薄力粉と書いてあるが、そこは料理とかてんでダメな俺&十々瀬さんチーム。基本的に食材は焼くか茹でるしか芸がない。

薄力…パワーが薄い小麦粉ってなんぞや?ってレベル。マジで何に使うんだろコレ。


「水で溶いて練って、砂糖を加えて焼けばクッキー的な何かになりそうですね」


「細めに伸ばして茹でれば麺になるとか…」


「粉ものというくらいなので、お好み焼きとかタコ焼きもできるのでは?」


「具がないですけどね。ソースも」


まあ、最悪練って焼いたのを食えば腹は膨れるだろう。多分。


パン。

食パンから菓子パン、総菜パンと、世の中には色んなパンが溢れていた。

超絶手軽に食える&手に入る主食であり、オヤツだったそれも今は昔。

パンデミくって数ヵ月(俺的には数日だけど)、それまで商品として存在したパンはおそらくもう腐ってるか生き残った誰かの胃の中か。


きっと今後、俺にパンを普通に食う機会は訪れないだろう。奇跡的に平和な世の中にならない限りは。

まあ、あんまり期待してないけど。


……うーむ、そう思うともっとしっかり味わっときゃ良かったぜ。パンに限らずいろいろとね。

実に後のお祭り騒ぎ。後悔先にたたずんばってヤツだ。


「加工前提の食材は加工技術もそうですけど、調理器具が限られていますから、なかなか難しいですね。ないよりは全然贅沢な悩みですけど」


十々瀬さん、初見では砂糖水飲んでたからね!

すごい説得力。


「ですね。で、食料を運び終えたら日用品ですか。山本さんの所より、いろいろ使えそうなモノがありそうです」


食料はまあ、多くて3往復すれば全部回収できるだろう。

十々瀬家~富士原家間の道は見通しもいいし、こうやってそんなに警戒せずに動けるってもの有難い。


「日用品は少し吟味して回収しましょう。日用品まで全部回収となると、置き場の問題がありますから。それに、富士原家なら近いので、いつでも持ちに来れますし」


それはそう。

むしろ富士原家を倉庫代わりにするのもアリかもしれない。

……和室に転がっている富士原さんオブザデッド(処理済)と暫定ステフィちゃん(の残骸)をどっかに片付けなきゃだけど。




富士原家はとりあえず攻略完了。


拠点である十々瀬家周辺が、これでまた少し安全になった。





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