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イナカオブザデッド  作者: ロボロフ鋤井
STAGE 02:九十九林の集落
14/21

MISSION 02:安全な拠点を設営せよ その4

側溝で元気(?)にあうあうしてたハナゑさんの脳天をかち割り、改めて山本家の前に立つ。

昨日はコレがゾンビという確証が持てず、殺人の罪的な危険性からヤれなかったけど、もう迷いはなかった。


さらば我が初遭遇ゾンビ。グッドバイオブザデッド。





当然だけど昨日の状態のまま、玄関扉は壊れたまま空きっぱなし。誰かが来た形跡とかは全くない。

これがもっと数日後とかなら動物とかが入ってくるかもだけど、1日じゃそれもないだろう。寝たきりだけど一応は中に人(ゾンビだけど)がいるし、野生動物はそういう気配的なアレには敏感な気がする。

変わっているとすれば、昨日はヤバかった腐臭があんまりしない点か。やはり換気は大事だ。


「まずは家の周りを確認しましょう」


バールを装備した十々瀬さんが言う。

昨日の時点でそれなりに安全は確認済みとは言え、用心に越したことはない。それに、これは今後の民家探索の練習でもあるのだ。


ちなみに車のキーは抜いてロックしてある。

ここに来るまでに車内で相談した結果だ。

キーを抜いたのは“どっかに隠れていた生存者に車をパクられる事態”を防ぐため。

そしてロックしてあるのは“いつの間にかゾンビが車内に入っててビックリ仰天!”を防ぐためだ。


どっちも万一だけど、映画とかでは有り得るパターン。

室内探索中にエンジン音が聞こえ、慌てて外に飛び出してみたら走り去っていく車、タイミングを計ったように現れるゾンビの群れ。絶体絶命!みたいな。


いつの間にかゾンビが同乗、も同じだ。

戦利品を手に油断しくさってドアを開けたら…とか、運転中に後部座席から…とか、殺されるまでには至らなくても引っ掻かれたりして時間差アウトになるってパターンだ。


いろいろ最悪を想定しすぎな対応だし、実際に戦利品の積み込み作業の段階になったら毎ロックとか非効率だけど、安全のためだ。

面倒臭いのは嫌いだが、命に関わるならそうも言ってられない。


「じゃあ左右に分かれて……、やっぱ一緒に行動しますか」


いきなりの単独行動はあまりよろしくないかもしれない。

まずは2人で周囲を確認し、それで安全だったら一定の距離(声の届く範囲とか)までという制限付きで別行動を解禁する。

そう、何事も安全第一。

コンテニュー不可な人生だ、石橋をどれだけ叩いても叩きすぎることはない。





そこまで広くもない周辺確認はすぐに済んだ。



小さな家庭菜園(雑草ばかりで野菜的なのはなかった)に、配管が剥き出しの蛇口に短いホースの付いた簡単なタイル張りの洗い場っぽいモノ、そこに立て掛けてある竹箒と錆び切ったチリトリ。

手作り感溢れるボロボロの小さな物置には、劣化しきったプラスチック製の桶や棒きれ、昭和的なデザインの壊れた家電が放り込んであった。


古い犬小屋があったが、犬の姿は微塵もなく、中にはジョウロと少し錆びて先っぽの欠けた草刈鎌が入っており、しばらくはペットを飼っていない様子も窺える。

まあ、ハナゑさんだって動けない夫の介護をしつつ、ペットの面倒を見るなんて余裕はなかったのだろう。

あのスロゥリーな動きじゃ犬の散歩にだって果てしない時間がかかりそうだし。


家の裏には錆びて所々に穴の空いたトタンに覆われた薪っぽいのがあったが、朽ちて苔まで生えており、もう燃料的な役割は果たせそうになかった。

多分だが昔はコレで火を焚いたりしたのだろう。でも時代の流れで使わなくなり、放置のまま今に至る、と。そんな感じか。


安全だが得るものも特にない、それが山本家周辺の探索結果だ。

敢えて有用なモノがあるとしたら草刈鎌くらいか。割と新品なやつが十々瀬家にあったから、スペアとしてあってもいい程度だけど。


ちなみに玄関以外で入口になるような箇所は勝手口と掃き出し窓の2箇所あったが、どちらも鍵が掛かっており、外からナニカが侵入した様子とかは皆無だった。





「電気はまあ、点かないですね。昨日も試しましたけど」


周辺探索が済んだらいよいよ室内探索へ。

昨日もやった行為だけど、玄関先のブレーカーを上げ下げして呟く。当然ながら電気は点かなかった。


「この家、ソーラーパネルとか無かったですから。あれも普通に生活するうえでは必要じゃなさそうですし、新築ならともかく、わざわざ後で取り付ける人も少ないのかもしれません」


「訪ねてきた業者に言葉巧みに言いくるめられて…っていうのならあるかもですけど」


「ああ、悪徳業者ってやつですね。こう言うのは何ですけど設置してもこの家だと発電で元を取れそうにないですから。……年齢的に考えて」


「ですね。あれって何年くらいで元が取れるんでしょうか」


「さあ、でも1年2年じゃ無理だと思いますよ。多分」


雑談しながらも玄関から動かず、視線は山本家の室内に向けたままでいる。

会話に反応して誰かが出てくるような気配はなかった。


「……じゃあ、玄関はクリアで」


「進みますか。ここもまずは一緒に動きます?」


「ですね。先行しますから、十々瀬さんは周りを警戒してもらっていいですか?」


「はい。慎重にひと部屋ずつ確実に“安全地帯”にしていきましょう」


十中八九大丈夫だろうけど、100%確実と言えない限り警戒心は必要だ。

まずは全部屋全扉を確認し、完全にこの家を安全な場所にする。それからじっくりと使えるモノを探すって寸法だ。


「ちなみに達三さんは介護ベッドに寝たきりですけど、ヤります?」


「気が引けますか?」


「いや、それは今更なんで。ただ室内ですし脳味噌とか血とか飛び散ったら嫌だなって」


「布か何かで頭を包んでからやるのはどうでしょう」


「あ、それいいですね。ナイスアイディアです」


相手がゾンビだからいいけど、我ながら物騒な会話だ。

てか十々瀬さんのアイディア、ナイスだけど冷静に考えると凄くアレだ。


「というか、よく思い付きましたね」


「昔、何かのドラマで殺人犯がやっていたので。ドラマの知識ですから、実際に上手くいくかはやってみないと分からないです」


「ちなみにそのドラマではどうなってました?その、中のアレと包んだ布は」


「中身は解いたりしなかったので分かりませんけど、何度か殴打したら布にじわりと血が広がって……という感じで終わりでした」


うん、言われると凄く想像できる。

何にせよ、やった後にその布を開くのは止めといた方が良さそうだ。見て楽しいもんでもないし。


「それに、ゾンビなら血の量もそんなに溢れんばかりって事はないと思いますよ。多分」


「ああ、なんか分かります。っと、ここが達三さんのいる部屋ですね」


片手にデルタホーを握り締めながら襖を開ける。

ここは閉じておいたからか、換気できていた玄関や廊下に比べ、若干強めの腐臭だ。

で、予想通りに何も変わってない室内。

特に探さなくても一発で目に付く介護ベッドオンザデッドの達三さん。


「馬銜澤さんの“それ”は尖っていますから、私のでやりましょう。バールの背の部分でやれば変に刺さることもないと思いますから」


その姿に対して特に何も触れず、十々瀬さんがさっさと拾ったタオルを達三さんの顔に被せる。1枚だと心許ないのでその上に薄っぺらい座布団を乗っけた。

力なくその下で顔を動かす達三さん。

腕はまともに動かないらしく、身体もそんなに動かせないみたいで、抵抗らしい抵抗はない。



……というか、顔が見えないとアレだ。ゾンビ感が消えるねコレ。

あうーあうーというゾンビ的には平常運転な声も、状況が相まって息苦しそうな呻き声みたいに聞こえるし。

うん、こいつァまるで寝たきりの老人に対して凶行を行う男女って感じのヤバい構図に、


ボグッ!っというくぐもった音を立て、十々瀬さんのバールが座布団にめり込む。

いやー、一瞬も躊躇しなかったねこの子。まあ、それでいいんだけど。



「あまり手応えがないです」


「座布団ごしですしね」


ボグッ!ボグッ!!っと続けてバールを振り下ろす。

その度に介護ベッドから僅かに跳ねる顔を覆われた老人の身体。その顔面へとハイライトのない淀んだ目&無表情でなおもバールを振るう十々瀬さん。


………うん。この構図。

これはひどい。


「……ああ、代わりましょうか。バール、貸してください」









ピクリとも動かなくなった達三さんをそのままに、探索を続行する。


扉を…山本家は和風住宅だからほぼ襖だけど、とにかく開けられる場所は開けて安全確認。部屋だけじゃなく押入れとかも例外なくだ。

台所、元は個室だっただろう今は物置的な部屋、シンプルな応接間、便所に風呂場、何だかよく分からないけどとにかく和室な部屋、そして仏間。

そう広い家でもなく、安全確認は何の問題もなく完了した。


「ヘルパー?の人は2ヶ月くらい前から来なくなったみたいですね。この介護日誌っぽいノートの日付がそこで終わってます」


戻ってきた居間で、机の上に置いてあったノートを捲り十々瀬さんが言う。


「2ヶ月前っていうと……」


「私の父親がゾンビになった時期ですね。多分、そのくらいが“そう”なんでしょう。ヘルパー?の人もここに来る余裕なんてなくなったんだと思います」


職務放棄とは思わない。

介護の人だって人の子だ。優先順位は自分 ≧ 家族や恋人 > 友人etc.であり、顧客とかそのまた次だろう。

そうじゃない人も多少はいるだろうけど。


「何か変わったとことか書いてありました?」


「いえ。これがゲームとかなら変化していく日常みたいなのが書いてあるんでしょうけど、何を作ってどこを掃除したとか、そんなくらいです」


「それもそうですよね」


まあ、実際そんな事が書かれていたって必要な情報でも何でもない。

十々瀬さんも何気なく見ただけなんだろう。


「ただ、2人がいつまで人間だったかによりますが、レトルト食品が残っているかもしれないです」


「何で…あ、その日誌ですか」


視線をこちらに戻し、頷く十々瀬さん。


「わりと頻繁に来ていたようですから、何日分の買い置きをしていたかによりますけど」


「じゃあ、最優先で探すのはそういう食品系ですかね。一度車に戻って袋とか持ってきましょうか」


安全確認時は荷物は邪魔になるから武器とか以外は手ぶら、確認できたら初めて収集だ。

例え良さげなモノを安全確認中に見かけても収集しない。注意力が散漫になって、その隙に死亡フラグとかゾンビ映画じゃありがちなパターンだし。


「今は……12時半くらいですね。この後のこともありますから、とりあえずは14時半くらいを目処にしたいと思います」


限られた時間でどこまで収集できるか。

今回は探索&収集の練習台みたいなもんだし、時間制限を設けておくのはそういった意味でもアリだろう。


俺は特に異論はないと頷いた。




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