プロローグ
「だから3番目の引き出しの中に赤いファイルがありますよね?いや、それは赤ってよりピンクじゃないです?赤いやつです赤いやつ!」
会社の携帯電話片手に、華麗なハンドルさばきで曲がりくねった山道を走る。
あんまり乗り心地のよくない社用車。ラジオを点けているが、もうずっと前から聴こえてくるのはノイズのみ。
ポリスメンに見付かったらほんのりキケンな行為だが、信頼と実績の無線探知機(正式名称は知らない)さんは付近に彼らがいないことを沈黙をもって教えてくれている。
まあ、そんなのなくてもこんな山道にポリスメンはいないだろう。
「え?よく聞こえない?あー、今山ん中なんで電波悪いかもですね」
着信時、ちらっと見えたアンテナ数は1本だった。
さっきから天からのGPSパワー(?)を拾ったり見失ったりを繰り返しているカーナビを信じるなら、目的地の村まであと5km程度。
人の住んでいる場所に近付けば電波が回復するだろうと運転を続行した判断は間違いだったか。電話が来た時点で停まるってのが正解だったようだ。
「先輩?もしもし、もしもーし!」
ついに何も聞こえなくなる。文明の利器もこの大自然の力には敵わなかったか。
引き返すのもアレなので、とりあえずは目的地まで行ったら改めて電話しよう。
電話先の先輩もそんなに緊急って感じでもなかったし、そこまで行けば流石に電波は届くはずだ。
何ともなしに画面を見ると、やはりそこには“圏外”の文字。
俺は小さく息を吐き、視線を戻
…。
……。
………?
胸の痛みに目を覚ます。
うん、何か全体的に斜めだ。
?
あれ?
意識がだんだん覚醒していく。
ひび割れたフロントガラス、斜めの車体、やってて良かったシートベルト。
じゃなくて。
どうやらわたくし、事故ってまった模様でございます。
………どうしよう。