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土曜日。
駅前のショッピングモール。
私とミホナちゃんはデートをしました。
評判のおいしいお昼とスイーツを食べて、服を見てまわる。
楽しい休日でありました。
はじめてのクレープに目を輝かせてぷるぷる震えるミホナちゃんはとても愛らしくて、脳裏に永久保存してしまいました。
「こーいうの友だちと食べるの、夢だったの」
ちょっと瞳をうるませて切なそうに笑う彼女は可憐で正にヒロインの風格でした。
本当に素敵な休日だったんです。
急に雲行きが怪しくなったのは、私が中学生時代からの友達に声をかけられてたあたりから。
別のクラスなんですが、高校一緒なので、結構仲の良いお友達なんですよ。
30秒ほど「あ、元気ー?」みたいな会話してただけなのに、振り返るとミホナちゃんがまるで嫉妬に狂うヤンデレのような目をしていました。
張り詰めた表情で目に光がなくて、どうみても無理して口だけで笑ってる。怖い。なまじお目目くりくりの可愛らしい女の子だからこそ怖い。
えっと、私は、いつの間に百合ゲーに参加して「ミホナちゃん病みルート」に突入していたんでしょうか。
好感度簡単にあがりすぎ。ルート確定はやすぎ。ヤンデレ化もはやすぎ。ギャルゲーでこんなヒロインいたら開発部にふたつに割られたディスクが届くレベルです。
「あのミホナちゃん?」
暗い表情で俯くミホナちゃんに声をかけると、はっとした表情の彼女がいきなり叫びました。
「私、……由紀子のこと好きなのっ」
そして、険しい顔で黙りこくってしまう。
その、え。と。
この世界は乙女ゲーじゃなかったんでしょうか。
(ああ。なんていうことでしょう。あまりのことにツッコミが微妙です)
沈黙が重く私たちに圧し掛かります。えーとなにか言わなきゃ。
「……それは……その、恐縮です?」
「……うん。だからね。そのっ、友だちとして。すごく好きなの。」
顔を真っ赤にして、つっかえつっかえ喋るミホナちゃん。
ぶ、不器用だなぁ。
「うん。ありがとうね。ミホナちゃん」
他になんて言ったらいいかわかりませんが、その友情は嬉しかったです。
でも、そこから、ミホナちゃんはガッタガタでした。
キョトキョトといきなり落ち着きがなくなって、発言といえば、これまたひどい。
「由紀子、その、なにか欲しいものはない?」
「私、結構金は持ってるのよ。うん。欲しいものがあればなんでも買ってあげるっ。さっき試着してた洋服とかどうかなっ!クレープだって食べ放題みたいに奢ってあげるよっ」
急に友人にお金をちらつかせるヒロインってどうなんだ。そもそも人としてどうなんだ。
私が悪人だったらどうするつもりだ。危うすぎる。
なぜだろう。急に土下座するガスマスクが脳裏に浮かんできた。
うん。とりあえず、水前寺兄妹は困ったらお金で解決する癖があるようです。悪癖だよ。
すぅと息を吸い込んで、言う。
「……あのね、私、あんまり友達に奢ってもらいたくはないかな」
びくっと肩をすくめるミホナちゃん。
なんで怯えるのかなぁ、この子は。
なるべくやわらかい声が出るように努力して続ける。
「私がミホナちゃんと一緒にいるのは、なにか買ってほしいからじゃなくて、ただ友だちだからだよ?そこはちゃんと分かって欲しいな」
どうか、ちゃんと、伝わりますように。
思いを乗せた言葉はあんまり届いてなかったようだ。
「ごめんなさ…い…」
ミホナちゃんは泣きそうな顔で震えてしまう。
うーん。謝らせたいわけじゃないんだけどなぁ。
うーーーん。どうしよう。
泣きそうなミホナちゃんを見ていられずになんとなく、よしよしと頭を撫でると、ミホナちゃんはきゅっと唇を噛む。
ああ。もう。
落ち着かせるために、喫茶店に入って、ソファーに座らせる。
勝手に、ミルクティーを2つ注文した。ここの会計は私が持とう。
紅茶を飲みながら、ゆっくりと言葉を待ってあげる。
ぽつり、とミホナちゃんが語りだす。
「……昔はね、友だちがいっぱいいたんだ。昔は友だちが理由もなく一緒にいてくれた。好きでいてくれた。だけど、そのひとたちはある日突然、理由もなく私を嫌いになってしまったの。」
ぞっとするくらい、真っ黒な目がちらりと私を見た。
「だから、理由がないのは、怖いの。」
「でも、……お金くらいしか、私と一緒にいるメリット、きっとないから……」
………………あの。一言だけいいかな。そのね。
重いです。空気と話が。急にとんでもなくヘビーだって。
これ、ミオトくんから事情まったく聞いてなかったら、ドン引いてたろうなぁ。っていうか事情が分かってても普段が明るいぶん、かなり引いてしまいましたよ。ミホナさん?
でもまぁ、事情わかってるぶん、うけとめやすい。かな?かなぁ…。
うーん。
「理由……なくちゃだめ?」
「うん。」
「ミホナちゃんといると楽しいよ。一緒に生徒会の仕事やれてよかったよ。私1人で生徒会とか絶対行かないし。今日も一緒に食べたからクレープ特別においしかったし、フリフリの洋服を試着するミホナちゃんは眼福だったわ。それじゃだめ?理由にならない?」
「……だめじゃないよ、けど。その……由紀子は、もっと仲良い人いっぱいいるんだよね……私だけじゃなくて……」
えええええ。なんかまた目がヤンデレってきた。
どうしよう。
え。これなんていえばいいの?
「あー。えーと。そう。理由なんてね、そもそもサポートキャラだから、ヒロインちゃんの面倒みるのは当然なのよ?」
ということにしておこう。うん。これ以上、ミホナちゃんの病んでるところ、私、見たくない。
「えっ…あっ、そっか。そうだったね。えへへ」
……やっぱりこれで納得しちゃうんだ。さすがミホナちゃん。
「うん。そうなんだよ」
急ににこやかになったミホナちゃんにとりあえず私は頷きました。
とりあえず、今日はこれで乗り切ることにします。
ああ。サポートキャラ、なんて言い訳がなくても。
いつか私がただの普通の友情で傍にいることを、
ミホナちゃんが信じてくれますように。
そう願いつつ、やけに疲れたお出かけから帰路につく私でした。
ちなみにミオトさんに。
「友情におけるトラブルをお金で解決しようとするのはよくないって、兄としてミホナちゃんにちゃんと教育してください。」
とメールしたら。
「あ。もしかして、僕が今日のお出かけのために2万円お小遣い渡したのっていけなかったんでしょうか。」
と返ってきました。
みーおーとーさーんー。(怒)
友情ヤンデレ!
そして、由紀子ちゃんの寛容さが菩薩級になってきました。