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サポートキャラ生活も、一週間たちました。
「乙女ゲーム」をスムーズに進行させるため、いろいろと生徒会と関わることが多いので私も執行部に入りました。
いつも生徒会室に入るとき、私はちょっとときめきます。
だって、皆キラキラしてて、ドラマの撮影現場みたいなんです。
場のイケメンと美少女の配合率が素晴らしいです。
目の保養です。目の保養。
美しい少年少女たちが仲良くお仕事を一緒にしています。
ああ。本当に乙女ゲームみたい。……一見は。
なのに。なのに。どうして、彼らを見つめる私の胃はキリキリと痛んでいるのでしょうか。
答え。
この乙女ゲーの攻略対象者が、実のところ、ただの思春期の少年だからです。(当たり前だけど)
「……その、水前寺くんっ、お……お仕事お疲れ様…こ…こ」
会長ドモってる。キョドってる。斜め上に視線をそらさないで。お願いだから。
ミホナちゃんがきょとんとしてるよー。
はやく続きを言うんだ。
練習したろ。やればできる。会長ならやればできるって。私信じてる。
ぐっと両手を握り締めた私は固唾を呑んで、会長の健闘を見守る。
「こ、こ、小難しい仕事を頼んでごめんね!!」
「いえ、気にしないでください。」
ミホナちゃんがニコニコ笑って、会長から離れていく。
がくっと私は崩れ落ちた。「こ、こ、こ、こ」って鶏か。
予定の台詞では、にっこり微笑みつつウィンクして
「お仕事お疲れ様、子猫ちゃん。」だったはずだ。
それから、軽く手を握る予定だった。
そういう軽い感じのキャラ設定で行く演技プランだったのだ。生徒会長は。
私を練習相手として、台詞を言ったときは、会長ノリノリだったはずだ。
「これでミホナちゃん間違いなくきゅんっとしますよー」「やーほんと?」
とかそんな風に盛り上がったはずだ。
生徒会長は、そういうちょっと、ぐいぐい押す系のキャラにしといたほうがいいと思うんだ。そのほうが恋愛するには有利のはずだ。
素の会長で接すると奥手すぎて、今みたいに普通にお仕事に関する受け答えのみで終わる。
それでは乙女ゲームとして進行しない。
しかし、考えてみると私たちは、思春期なのだ。
高校生。
なにか吹っ切っている人種でもなければ、一番羞恥心が肥大する時期ではないだろうか。
そして、彼らはミホナちゃんが好きなのだ。どうやら各人ごと恋慕の激しさは大小あるようだが、とりあえず、こんなめんどうな乙女ゲームごっこにつきあうくらいは好きなようだ。
その好きなひとの前でキザな台詞を言うのって……そりゃ抵抗あるよね。
生徒会長に無理にキャラつけるのは、やめたほうがいいのかな。
うーん。意外と、この乙女ゲーム進行させるのは難しい。
さて。
顔を真っ赤にして、ぼそぼそと「……子猫……こねこ…」と呟く先輩が、
我らが生徒会長望月 旭先輩である。
2年生。明るく気さくな人。いつも楽しそうに笑っているのを見かける超リア充男子である。
生徒からの人気がとても高くて、朝礼で報告をするときとか、女の子がきゃーとか黄色い悲鳴があがる。髪の毛を少し明るく染めていてそれがとても良く似合ってる。カットもカリスマさんが切ってそうな動きのある感じで、オシャレである。
……実はこのリア充の姿。
ミオトくんプロデュースであるらしい。
ミホナちゃんを美少女にした実績のあるミオトは、いじめられていて地味でオタクで眼鏡なコミュ障な友達であった望月少年を、コンタクトにして髪の毛弄ったり、あるき方を強制したり、話し方を自信ありげにしてみたり。
そういうプロデュースをすることで現在のリア充生徒会長を作り出したらしい。
つまり、リア充に見えるけど、
基本、ただの演技。
まぁ、演技をはじめて3年もたつらしいから、「本物」のリア充だとも言えるけど。
女慣れしてチャラそうに見えるけど、全然チャラくないのだ。
なので、ちょっと油断したり極度に緊張すると、ドモったり自信なさげになったりするんだよね。
でも、ほら。
元いじめられっこ同士で、いいカップルになるのではないかと、私はとても温かい目で見守っているわけだ。
で。
2人目の攻略対象が
副会長。速水 怜耶先輩。
ミオトくんご推薦。私がトゥルーエンドに導くべき、ミホナちゃんの真のお相手だ。
……ただし、このひと、私いまいち好きになれないんだよね。
そりゃ、顔の綺麗さでいうたら、一番だよ。本当にびっくりするほどの美少年だ。
彼の隣にいると、会長が雰囲気イケメンに見えるくらい、正統派にただ顔の造詣がすばらしい。
男性としては長めの艶やかな黒髪と、銀縁の眼鏡のせいで、クールに見える。
性格自体も、クールで落ち着いてて、まさに素敵男子。
いや、完璧な外見と完璧な行動で、乙女ゲーム進行側としては助かってる。
助かってるんだけど、なんていったらいいんだろう。
「水前寺くん、ここが違う」
副会長はなにやら書類の不備をみつけてミホナちゃんにペンを渡して、修正させます。
「あ、はい。」
「ちがう、こっちだ」
肩を抱き寄せるようにして、指示をしてる。
無表情でクールな顔。真剣にお仕事をやる姿、かっこいいですね。
至近距離で見ているミホナちゃんの顔がほのかに赤くなっている。
……うん。乙女ゲームとしても完璧なんだ。二人ともスチル絵にそのままできそうに美しいし……。
副会長はミホナちゃんがとても好きなんだろう。
このゲームにきちんと付き合ってあげるほど。
だけどね。
そのね。
うん。気のせいだったらごめん。いつもミホナちゃんに渡したあとのペンとか、それから二度と使ってない気がするんだよね。
いや、片思いの人が触ったものを大事に保存しちゃう気持ちはわからなくはないけど、重いっていうかちょっと怖いっていうか。
そのくせ好意が表情に一切出ずに、クールにミホナちゃんを抱きしめられるところとか。
なんかただの高校生っぽくなくて、ちょっと怖いっていうか。
…………なにか。この人にミホナちゃんをまかせていいものか、ちょっと悩んでるんだけど。
でもまぁ、
ミオトくんが推薦してるんだし、大丈夫よね?だよね?
で。問題外なのがこいつだ。
私の目の前で、ひたすらパソコン弄ってるフリをしてる彼。
実際はスポーツニュースかなんかチェックしてるだけだ。書記なのに力仕事以外、あんまり任せられることがないんだよね。アホすぎて。
書記 広瀬 遠也先輩。2年。
ええ。イケメンではある。
短距離走の国体選手らしくて、身体ががっしりしてて、背が高くて、スポーツ刈りが似合ってる。
目元がきりっとしたさわやか系美少年ですよ。
でもな。
性格がな。
「やーほんっと。ミホナちゃんって可愛くて……おっぱい美乳だよなぁ。おっぱい。触らしてくんねーかな。おっぱい」
これなんだよ。
広瀬先輩さ、いくら私側向いて小声の発言だとしても、ミホナちゃんに聞こえたらどーすんのよ。
ぱすっ。
ぺらぺらのクリアファイルを丸めて勢いよく彼の頭を叩いてやる。痛くないよね。もっと叩いていいかな。黙っててくれるかなっ。
どこの世界に、おっぱいおっぱい連呼する乙女ゲームのキャラがいるんだよっ。
現実の高校生男子の頭の中なんてこんなもんなんだろうけどさっ。
そこは演技でミホナちゃんに夢をみせてあげようって何度も説明しただろっ。
だいたい、会話して10分ごとにセクハラネタをナチュラルに挟むってどういうことだ。そんなに我慢できないのかよ。今話しかけてる私だって女の子だぞ。遠慮しろよ。遠慮。
怒りを込めて頭を叩くけど、彼の顔はキョトンとしてる。
ああああああああ。
なんで、怒ってるのかも分からないんだな。ああもぉぉぉぉ。
…………私が演技指導のようなことをする羽目になってるのは、主にこの広瀬先輩のせいだ。
彼は馬鹿なのだ。それはもう涙が出るくらいのつるつる脳だ。
せめてミホナちゃん前でだけいい、胸とかお尻とかデリケートで性的なことをいきなり口にするな、と何度私が言っても覚えられない。理解も多分できてない。
幸いなことに、こんな馬鹿で正直なセクハラキャラなのはまだミホナちゃんにバレていなかったので、「もう許可なく喋らないでください」と極力喋らない無口キャラに設定した。
そしたら、普段は脳内で思ったこと全部ぺらぺら喋ってるせいで我慢できないんだろうね。私に小声で喋りかけてくるようになった。
主な主張は、ミホナちゃんに対して「間近で見ると本当にかわいいなー。おっぱい触りたい」だ。
ね、胃が痛くなるからやめて?お願いだから。
多分さ、ミオトの「副会長ルートに誘導してくれ」の意味って、つまりは他のキャラとあんまり長時間いるとボロが出るからなんだろうなぁ。
……ミホナちゃん。
あのさ
………乙女ゲームには、きっと、サポートキャラとの友情ルートエンドもあるよね?
そのルートにしとかない? 極力幸せにするよ?
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