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「頼みさえ聞いてくれればありとあらゆる要望に答える用意があります」


 妙に自信たっぷりなミオトが胸をはる。

 ありとあらゆる……とは大きく出たなぁ。


「とりあえず、ミオトさんのガスマスクとってもらえますか?」

 至極当然な要求のつもりだった。なのに。


「それだけはできませんっ!」

 ミオトは泣き出しそうな声で断固拒絶した。ぷるぷると震えて、両手でガスマスクを庇うように掴んでいる。

 ええー、じゃあなにができるの?

 じろっと不信な目を向ける私にミオトは焦ったように言い募る。


「それ以外っ!それ以外なら!!なんでもっ!!」

 なんだかなー。一気に嘘くさくなった。さっきまでの自信はどこに行った。


「うーん……それ以外?誰かに叶えてほしい願いごと?思いつかないな……。」

 それを聞いて、ミオトが妙にあわあわと手足を動かす。

 挙動不審なガスマスクだ。彼はぐっと拳を握る。


「えっと、お金とか!俺結構金持ちなので!!札束で用意しますよっ」

 お金?……お金はなんか違う気がする。

 私にだってミホナちゃんと友達になりたいって気持ちがあるのだ。お金を貰ってしまえばなにかが友情が不純になってしまう気がする。それはいやだ。

 しばし、考える。


「じゃあ、私に好きなひとができたら、ミオトさんが私のサポートキャラになってください。」


 にこ、と笑ってそう宣言すると、彼がこくこくと高速で頷きました。


「別にそんなにたいしたお礼とかいらないんですよ」

 弁解のように、呟く。

「リアルで乙女ゲームするって、ちょっと楽しそうですし。水前寺さんが幸せな恋愛するところ、私も見たいので。」


 うん。ちょっとリア充すぎてムカつくけれど、ミホナちゃんが幸せになれるのはよいことだろう。

「この世界はゲーム」と思い込むなんて、ちょっと変な子だけど、事情が分かってみれば、一応理解できる範囲の話だ。

 前と後ろの席である。友達にだってきっとなれる。友達を幸せを願うのは、友達のつとめだろう。

 

「やったぁぁぁーありがとぉー」

 と叫んだガスマスクが私をひょいと抱き上げて、ぐるぐると回った。

 けっこう逞しい腕が、腰に回された。

 一瞬、顔が赤くなるのを感じた。異性の急接近になれてないんだよ。たとえ、顔がガスマスクでもっ。

 10回ほど視界をまわされた。

 結局、ぱしぱしと抗議の平手を下ろすまで、勢いよく回っていた。

 本当に本当に挙動不審なガスマスクだった。




 まぁ、そんなこんなで。 

 翌日からミホナちゃんに声をかけお友達になり、ミオトからのメールを見てゲーム的なアドバイスを言い出し…私はミホナちゃんのサポートキャラになったのであった。

 

 前述したようにただいま、「副会長トゥルーエンド」へむけて、ミホナちゃんを誘導中である。




 ミホナちゃんは付き合ってみると、かなりの天然ボケが入ってるけど、基本的には明るく前向きで付き合いやすい性格の子だった。

 裏表がなさすぎるというか、アホの子気質を感じさせる瞬間はあるが、良い子である。


 でも、友達としてつきあいはじめてわかったことがある。


 彼女はちょっと、「危うい」。

 たぶんミホナちゃんは「ゲームの主人公」として振舞っているから「明るく前向き」なフリをしてるだけなんだ。

 男の子たちがあまりに馴れ馴れしく接近すると、反射的に怖がってビクリと身体を震わせてフリーズする。全部すぐに私が男子側を無理やり引き剥がしたけどね。


 根っこでは、いじめられていたときの、人間不信が治ってないんだと思う。


 そもそも、ミオトのついたややこしい嘘の解決策で、一番簡単なものは「この世界がゲームだなんて嘘でした。嘘ついてごめんね」と正直にバラして謝ってしまうことだ。 


 でも、ミオトはそれができていない。

 ミホナちゃんが受け入れられない、と判断しているからだ。


「この世界はゲームでお前が主人公だ」

「幸せな未来はもう用意されてる」


 その優しい嘘を信じないと立っていられないほど、ミホナちゃんの心はまだ傷ついてる。


 たぶん、ミオトの判断は、正しい。


「この世界はゲームだ」とわざわざ口に出すのは、彼女が自分で自分に暗示をかけなおしているんだと思う。


 ミホナちゃんは弱い。

 弱いから、嘘を信じて、信じ続けたいと願ってる。

 ミオトは、ならばいっそ、嘘を現実にしてしまおうと頑張っている。


 美しい兄妹愛である。特に兄側の実行力が凄い。


 多分、ミオトは、ミホナちゃんが「ゲーム」であろうと恋をして恋人を作ることによって、人間的な成長してくれる、って期待してるんだと思う。


 だけど、ミホナちゃんは本当にただゲームをプレイしてる感覚がある。


 さっき、ハーレムエンドを本当に狙っているのか聞いたら「女の子の夢だもの」とキラキラ輝く目で力強く言われてしまった。

 つい気迫におされて「そっかー」と流してしまったけど、まずかったかもしれない。


 本当にうまくいくのかなぁ……。


 っていうか、

 思ったより、大変なことに巻き込まれている気がする……。

 素直にお金、もらっておけばよかったかも……。

 いや、やっぱりなんか違うよね。友情。友情だ。





ランキングとかにふんわり浮上して、嬉しいです。


おもしろかったら、ポイントぽちりとお願いします。

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