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「おはよう。由紀子っ」


「おはよう。ミホナちゃん」


 ミホナちゃんの兄・ミオトに呼び出された翌日から、私はヒロイン、ミホナちゃんのサポート役になることになった。


 いきなり由紀子呼びである。距離縮めるの早いなぁ。

 まぁ、そもそもがミホナちゃんは、一番席近い女子だし、仲良くなりたくて様子見てたわけだし(ヒロインとか言い出す前はね)、親しいお友達になれたのは良かったと思う。


「で、今日はなんのイベントこなせばいいのかな?」


――――これさえなければなぁ。

 ミホナちゃんマジゲーム脳。

 ゲームのやりすぎって脳によくないんだってよ。まったく信じてなかった学説だけど、最近信じてる。

 

「放課後に執行部のお仕事だよー。多分、美化委員のポスターを校内中に貼るお仕事があるからまじめにやってね。ミニゲームあつかいで、成果が特定の人の好感度に響くから」


 嘘である。

 ミニゲームなど、ミホナちゃんがサボりがちだった執行部のお仕事をまじめにやらせるための嘘八百である。

 しかし、この「サポートキャラアドバイス」ミオトからメールで指示される情報をそのまま伝えているだけなのだが……あのひと、なんで執行部でやる仕事まで正確に予測できるの?……ガスマスクなにさま?深く考えると怖い。


「そっかー。了解だよ。ミニゲームかぁパーフェクト狙うよー」


 満面の笑みで、ぐっと両手のこぶしを握るミホナちゃん。ああ……なんかごめんなさい。


 なにを隠そう、

 この「乙女ゲーム」は、ただの出来レース(・・・・・・・・)である。

 副会長を最初に狙うようにさりげなく誘導したのは、ミオト。

 で。 

 副会長は、途中で疎遠になったが、ミオトとミホナちゃんの幼馴染で、昔はとても仲がよろしく、小さな頃からミホナちゃんが好きだったりするらしい。幼馴染にはありがちな「将来の結婚の約束」のフラグも建設済み。

 

 ミホナちゃんは気付いてないけど、そのことに気がつけば、ハーレムルートとかは諦めて、彼とのトゥルーエンドを目指してくれるのではないか、というのがミオトの読みである。 


 だから、安心してゲーム的に副会長の好感度をあげて、彼のルートへ引っ張っていってやってほしい。


 それが彼が私に「依頼」したことである。



 






 ええと。回想しようか。



 ――――――昨日の放課後。屋上。



 ぴゅおおおおお。風が強く吹いていた。


 ちょっと帰りたい。でもまぁ、ガスマスクさんが、必死に逃すまいとしているので、無理でしょう。

 それに、気になることもありますしね。



「ミオトさんに質問です。そもそも、水前寺さんはなんで「この世界が乙女ゲーム」なんて思い込みを持っちゃったんですか?」


「…………ミホナは小学生の頃、ものすごく地味な女の子だったんだよ。……太ってて髪はボサボサで自分に自信がなくてオドオドしてて俯きがちで……クラスで苛められるような……」


「え」


 想像つかないなぁ。

 あの、ミホナちゃんが?


「小学6年生頃かな…その苛めってやつがエスカレートして、けっこう性質(たち)が悪くなって、殴られたり蹴られたり、かと思えば存在まるごと無視されたり……かなりエグかったらしい。俺は中学生で学校が違うせいで気付いてやれるのがものすごく遅くて、気付いたときにはもうミホナは登校拒否して家に閉じこもって絶対出ようとしなくて……このまま、心が壊れてしまうんじゃないか、ってすごく心配した」



「でさ、俺は、そんなミホナを変えたくて…ミホナが、とりあえず綺麗になれば、いじめなんかなくなんじゃないかな、って思って」


「で、うすーく化粧したりとか髪の毛とか弄ろうとしたんだけど。拒否されるわけ。」


「自分にはこんなの似合わない。どーせ笑われちゃうって、ぐしゃぐしゃに泣きに泣かれて叫ばれて。」



「で。その、つい言ってしまったんだよね」



「そんなことない。この世界は、お前が主人公なんだって」


「イジメられたのは、よくある主人公の重い過去ってやつで」


「お前には誰よりも綺麗になって、誰よりも愛される未来が待ってる。もう用意されてるんだって。」



 そこまで言っても、ミホナちゃんはぐすぐす泣くだけだったので。

 励ますためならなんだって言ってやる、と勢いづいていたミオトは、ミホナちゃんの部屋に転がっていたゲームの箱を見て、言ってしまったそうな。


「ミホナは気がついてないかもしれないけど、この世界はミホナの好きな恋愛ゲームの中で、

高校に入ったらゲームがはじまって素敵な少年たちがミホナを取り合うために待ってるんだよ。

だから、頑張って綺麗になろう?」


 そこまで具体的な嘘ついちゃったらしい。


 勢いって怖い。


 そして、それを聞いた瞬間に、ミホナちゃんの顔はパアアアと輝いたそうな。



「私でも、ヒロインになれるの?」



「ああ。お前がヒロインだよ」



 で、なんだかとても目がキラキラしたミホナちゃんに、ひくにひけなくなったミオトは、イケメンが揃った生徒会がでてくる、てきとーな乙女ゲームを作り出して、それの主人公なんだよと、嘘をふくらましてしまったそうです。


 信じるかなぁ。そんな話。ふつー。


 …………ああ。でも、痩せて髪の毛弄って表情が変わると、ミオトの言葉通りに、実際に誰よりも綺麗になったため、この頃には本気で「この世界はゲーム」って信じてしまったそうです。


 …………あったま、いたいなぁ。




「その嘘をつき通すつもりですか?」


「うん。我ながら、苦しいって、自覚はあるよ。でもさー。乙女ゲームってつまりは幸せな恋愛にたどり着けばいいだけだろ?」


 だけ、ですと。

 うわー。世の中の女の子がその「だけ」のためにどれだけ苦しんだり努力してると思ってるんだっ。

 ガスマスクを心底冷たい目で睨むが、全然空気わかってなさそうだった。遮蔽されてるもんな。くそ。


「幸い、ミホナが好きだっていうソコソコの男、3人ほど見つかったんで、かるく事情説明して、生徒会に放り込んであるんだよね。ちょっと大変だったけど。」


「え――――っ?!」


 なんだそれ。

 生徒会の仕事なめんなよ。

 っーか、半分、トンデモな嘘を本当にしちゃったの?なんなんだ。このガスマスクの実行力。怖い。


「え。誰ですか?それ。」


「生徒会長、副会長、書記。俺のおすすめは副会長です」


「うわー。生徒会のイケメン勢ぞろいですか……」

 

 お膳立てすげえ。

 ミホナちゃん。マジ超リア充じゃないですか。

 うわー。ここまで話聞いといてなんだけど。手助けとか本気でしたくなくなってきたわー。


 私がげんなりした顔をしたのを見てとったのか、ミオトは真剣な顔をしました。




「タダとは言いません。」




「頼みさえ聞いてくれればありとあらゆる要望に答える用意があります」




 なぜだか、無駄に自信がありげに言われた。





どこに転がるんだろう。この話



あ。前回評価ポイントいれてくださった方、ありがとうございます。


励みになりました。

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