ジゲンノハザマ
世界がたくさんあるなんてたまったもんじゃない
どうやらここは時限の狭間という場所らしい。
いわば天国と地獄の間が在るように、現実世界と異世界にもそれらしきものがあるみたいだった。
まあこれからのことでどちらが現実世界だったかなんてわからなくなるんだけど。
「ここは時限の狭間。お主をここに呼んだのは他でもない妾じゃ。お主が助けた少女に似てると思っただろう?あれは妾の分身でお主をここに呼ぶために送った」
彼女はそんなことを話し出したのだった。
たしかに僕が助けた少女そのものと言ってもいいほど似ている。
違う点があるとすれば黒い尾が生えているということだろうか。
分身を作り出せる彼女はいったい何者なんだ....?
「妾が何者なんだ....とな。そんなことはとうに決まっておる」
!!?心が読めるのか....何が決まっているんだ?
まさかこの時限の狭間とかいうところで無限に労働とか?
身体的労働はいいが頭を使った事はあまり好きじゃない。
「これくらいは容易い。しかし超能力のようなものではなく予想によるものだがな」
彼女が僕の心を全て読めなかったことに僕は安堵した。
しかし気を抜いてはならない。
僕は気持ちを締め直し彼女に目を向けた。
そうすると気の抜ける一言が飛んできた。
「お主にはこれから転生し、この世界に行ってもらう」
言葉とともに白い空間に現れた黒い球体。
彼女はそれを指していた。
「は....?てんせい?」
突然の出来事だったからかなり情けない声を出してしまったと思う。
黒い球体には長閑な村の様子、都市が映し出されていた。
言うならばそこは技術の発達した近未来ではなく、よく見るRPG《ロールプレイングゲーム》の中の世界のようだった。
「もうひとつのセカイ....?」
呟く僕に彼女は邪悪そうに微笑んだ。
気を抜いたら吸い込まれそうな少女とは思えない妖艶な笑み。しかしそのあと哀しい顔をしたように思えた。
「なかなか勘が鋭いな」
そういえばと彼女は続けて言った。
「自己紹介がまだだったな。我が名はアスタロッテ。魔神アスタロッテだ」
アスタロッテ。魔神....魔神!?あの勇者とかの敵の?
「ああそうだ。まあこれからの世界には勇者はおらんがな」
彼女は続ける。
「これから行く世界は妾の生まれ育った世界じゃ。お主の居た世界で言うならばRPGのようなものの中だと考えれば理解は早い。」
RPGの世界なんてものが本当に存在するのだろうか。
半信半疑だった僕が後に身をもって知ることになるとは言うまでもない。
彼女が自己紹介したのに自分がしてないことに気づき、僕は言った。
「僕の名前は――――」
だがその言葉は彼女によって遮られることとなる。
「いい。お主の名はもう既に知っている」
そう言う彼女に少しの違和感を感じたが魔神だと言っていたのできっとそれくらいはわかるのだろう。
そして彼女は黒い球体に一度手をかざしたかと思うと僕に近づき口づけをした。
彼女、魔神アスタロッテが微笑んだかと思うと意識は遠退いていった。