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Another-セカイ  作者:
始まりの終わり
2/4

訪れた運命

 2時間ほど前、部活を終えた僕はコンビニに立ち寄っていた。

週刊雑誌の広告といつも読んでいる漫画《王道漫画と対をなす邪道漫画》を立ち読みし、コーヒーを買って店を後にした。

どうも王道漫画は好きになれない。

周りに王道漫画を好きなやつが多いからだと思う。

王道漫画はありきたりの展開みたいでどうも。

だけれどそんなことを言ったら結局のところ全て同じようなものかもしれない。

ていうか主人公が好きじゃないんだよな。

嫌いってほどでもないけど好きでもない。

どうしても主人公よりも脇役の方に目が行ってしまう。

主人公よりも魅力的なキャラなのにどうしても出てくる場面は少なかったりする。

それは当たり前、脇役だから。

王道漫画も邪道漫画もただ視点が違うだけで書く人、描く人は何万、何十万。

話の構成も何万通り、何十万通りあるはずだ。

個性があっていいかもしれないが――

「どうも好きになれないんだよな....」

 呟く。

きっと僕は多い方より少ない方が好きだと思う。

多数派(マジョリティ)少数派(マイノリティ)


 僕は歩く。

この日が自らの最期の日となるとは知らずに。

淡々と坦々と平坦な道を。

コーヒーを口に含みながら。



 その時は月が出ていた。

晴れた空にまんまるの月が。

月は街灯の少ない寂れた街を照らし出していた。

その月は星が煌めく中で紅く、より一層際立って見えた。


 そんな星空の下に、少女が居た。

ただ凝然と立ち尽くす、少女のもとへ向かう鉄の塊。

一台のトラック。操縦者が居て意味を成すもの。

操縦者がいなければただの鉄の塊と成り下がる。

運転手は突っ伏していた。

居眠り運転のようだった。

でも、もしかしたら心臓の疾患があるかもしれないし、ただの過労かもしれない。

それは僕にはわからないことだし、知るべきことでもないからこの際どうでも良かった。


 ただ僕は彼女を助けたかった――――。


 見ず知らずの誰かを助けようなんて普段は思わなかった。

 だけど何故か今は思った。

 ただの気まぐれだったと思う。

 可哀想だからとか、つくればいくらだって出来る。

 理由なんて――ない。

 あくまで偶然。

 訪れた必然。

 トラックが無垢な少女を破壊しようとしている。

 そしてここに居るのは僕だけ。

 ただそれだけのこと。


 僕は駆けた。

 文字通り。

 コーヒーの入っていたスチール缶を投げ捨てて。

 これまで傍観者面を決め込んでいた自分を投げ棄てて。

駆ける前に転びそうになったことは別に言わなくてもいい。

ともかく全身の筋肉を駆動させ、少女のもとに向かった。

部活が終わってから2時間程度とはいえ、準備もなく動かすことで筋肉が悲鳴をあげたことは言うまでもない。

心の準備は直ぐに出来たけれど。


 少女のもとに辿り着いた僕は出来る限りの力で、少女を。

その無垢な身体を押し飛ばした。

ぶつり――と筋繊維の千切れる音がした。

だがそんなことは関係ない。

文字通り無垢な身体は飛んだ。

そして離れたところに尻餅を着く形となり、ただ呆然とこちらを見ていた。

その全てを見透かすような紅い瞳で。


 鈍い衝撃音――――。


 身体が軋み、なかなか小気味いい音が響いた。

骨が何本か折れただろうか。

きっとそれだけじゃない。

頭も内臓も....

まあいい、たぶんもう無理だろうから。


 少年の身体は宙を舞った。


 さながらそれは三日月のように。

 弧を描くように。


 目眩がする。身体がだるい。頭が痛い。

ああ、頭がイタいのは元からか。

はは、こんな笑えないときにこそこういう冗談が笑えるのか。


 宙を舞った少年の身体は重力により落ちる。

落ちる。

ぷつんと。

操り人形の糸が切れたように。

別に操られてはいなかったのだけれど。

落ちるのが当たり前自然の摂理。


 反転した世界に居た少女。

どうやら彼女は助かったらしい。

良かった。と胸を撫で下ろしたが、

白いキャンパスは鮮やかな紅い絵の具で汚れていた。

絵の具....ではなく液体。

その液体はアスファルトを伝い、僕の身体を深紅に染め上げ周りに血溜まりを作っていた。


 そこでようやく気づく。

 これは自分の血液なんだ。と

 僕の血なんだ。と



 不意に。

身体からすぅーっと何かが抜けていく解放感に襲われた。

だるかった身体の疲弊感も、痛みも感じなくなっていた。

もしかしたら天に昇る人たちもこんな感じなのかもしれない。

まあ僕が逝くとしたら天国ではなく間違いなく地獄だろうけど。



 霞みゆく景色の中、少女の口元がニヤリと笑ったような――気がした。



 少年も笑っていた。


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