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 *



 「ただいま」



 誰もいないのに、そう言いながら靴を脱いだ。



 少し冷気の漂う廊下を歩き、明かりの灯るリビングに足を踏み入れた。



 テレビも音楽も、何の音もしない、誰の気配もしないその空間に首を傾げる。


 

 ―――?



 オカシイな、と思ってぐるりと見回して目に入ったのは彼女。



 

 「寝てろって言ったのに」




 待っててくれたんだろう。



 ソファーで力尽きたように背もたれに体重を乗せて寝ている。



 心地よさそうなその表情に思わず表情も緩む。



 やっぱり俺、きみが一番だ。



 なんて。



 今日は青春時代にトリップし過ぎたせいか、恥ずかしげもなくそんなことを思った。



 背もたれに手を乗せて、彼女の耳元に唇を寄せる。



 眠る彼女に届くのかな―――



 なんて思いながら




 「愛してるよ」




 と囁いた。



 心なしか、彼女の頬が緩んだ気がするのは気のせいだろうか?



 勝手に嬉しくなった俺は、そのまま彼女の頤に手を掛けてそっと上を向かせる。



 こっくりこっくりと夢の中を彷徨う彼女を無視して




 「キス、していい?」




 返事もないのを百も承知で尋ねて―――返事のないきみの唇にキスをした。



 俺はきっと、この先もずっと。



 ずっとずっと、この唇にキスをする……




 *


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