5
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「ただいま」
誰もいないのに、そう言いながら靴を脱いだ。
少し冷気の漂う廊下を歩き、明かりの灯るリビングに足を踏み入れた。
テレビも音楽も、何の音もしない、誰の気配もしないその空間に首を傾げる。
―――?
オカシイな、と思ってぐるりと見回して目に入ったのは彼女。
「寝てろって言ったのに」
待っててくれたんだろう。
ソファーで力尽きたように背もたれに体重を乗せて寝ている。
心地よさそうなその表情に思わず表情も緩む。
やっぱり俺、きみが一番だ。
なんて。
今日は青春時代にトリップし過ぎたせいか、恥ずかしげもなくそんなことを思った。
背もたれに手を乗せて、彼女の耳元に唇を寄せる。
眠る彼女に届くのかな―――
なんて思いながら
「愛してるよ」
と囁いた。
心なしか、彼女の頬が緩んだ気がするのは気のせいだろうか?
勝手に嬉しくなった俺は、そのまま彼女の頤に手を掛けてそっと上を向かせる。
こっくりこっくりと夢の中を彷徨う彼女を無視して
「キス、していい?」
返事もないのを百も承知で尋ねて―――返事のないきみの唇にキスをした。
俺はきっと、この先もずっと。
ずっとずっと、この唇にキスをする……
*




