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―――結婚したの?
その問いかけに対する答えを聞いて、ピリピリッと神経が張りつめた。
体が衝撃に耐えきれなくて、ジンジンする。
―――あぁ。って、言った。こないだって言った。
さっき、思ったじゃない。
結婚が視野に入る、年齢になったって……
分かってた。
そんなことも起こりうるんだってことは。
でも、だからって。
―――彼がそうじゃなくたって、いいじゃないか。
心が小さな悲鳴を上げる。
ただの空想だ。
つまらない、一人で思い描いた空想。
実は今彼がフリーで。
あわよくば、私と―――
なんて。
単なる絵空事。
だからそんな深い期待なんて、してなかった。
でも、結婚なんて。
全く付け入る隙も、まして―――告白の一つも出来る隙間も。
全くない。
切なさを一人胸に募らせて、私はきゅっと手を握りしめながら
「そっか……おめでとう」
なんとか笑顔を浮かべて、彼におめでとうを告げた。
「ありがとう」
私の言葉に、ふわりと温かな表情を向けられた。
惨敗だった。
完全に。
その後の詳しい話は、私の耳をほとんど通り過ぎてしまったけれど。
ただ、あの彼女が今の奥さんじゃないことや。
会社の後輩だ、というような言葉だけが聞こえてきた。
どうせなら彼女とそのまま結婚してくれたら良かったのに。
なんてのは私のつまらない意見だけど。
結局のところ、私が彼の中には微塵も入り込んでいなかったことに、ショックを隠せなかった。
分かってる。
自分だって、25のこの年まで、彼を想ってきたわけじゃない。
その癖、久しぶりに会うからって妙に期待を募らせていただけだ。
ほんのわずかの間の、小さな夢。
だから―――
ばっさりと敗れて、その方がずっと良かったんだ。
あっという間に、貸し切っていた3時間は終わって。
カラオケに行こうと叫ぶ人や、飲みに出ようというメンバーに別れつつあった。
―――どうしよう。
彼から告げられた真実にショックを隠せず、ひたすら黙って飲んでいたら少し酔っぱらってた。
体がほんの少しふらつくのを自分でも感じる。
でもこのまま一人にはなりたくなくて、誰かにくっついてどこか行こう。
そう思った矢先―――
「よぉ!」
幼馴染ともいえる、アイツが居た。
2年以降で同じクラスになった子たちが、わらわらと彼を囲み談笑し始める。
その光景をぼんやりと見ていたら、
「悪い。コイツ多分酔ってるだろうからって、コイツの母さんに頼まれてて。俺連れて帰るわ」
「は……!?」
彼は私の右ひじを当たり前に掴むと、みんなにひらひらと手を振って、その場を後にした。




