2
初めて、私の名前を呼び捨てにした人だった。
出会ったのは、学校の食堂にある自動販売機の前。
10円足りなくて困っていた私に、10円を貸してくれた。
一緒にジュースを買って、たわいもない会話を始めた。
そんな、どこにでも転がってるような陳腐な出会いだった。
入学して2日目で、クラスの子もまともに知らなかった私。
その日の他愛無い会話で、キミが同じクラスだと知った。
翌日から
「オハヨ」
と当たり前みたいに声を掛けてくれたキミ。
ドキドキした。
高校で初めて出来た男友達という存在に。
軽く交わされる挨拶に。
「お、はよっ」
恥ずかしながらも返事をする私
キミは衒いなくニッと笑顔を返してくれた。
それだけで―――
多分、それだけで私はキミに恋をした。
いつの間にか、キミを視界に入れてる自分に気が付いて、あ……恋してるかもって自覚した。
だけど、挨拶をするのが精一杯。
それでも好きな気持ちは止まらなくて、ただ見つめてた。
それなのに―――
2か月も経たないうちに、キミには彼女が出来た。
ショックだった。
いつか、あの笑顔が独占したいってどこかで思ってた。
だから……クラブのマネージャーと付き合っちゃうなんて、そんな王道しないで欲しかった。
どうして?
ねぇ、私だけだったの?
私だけが、キミにドキドキしてたの?
苦しくて、私は何度も泣いた。
独占できない、キミの笑顔に。
隣に立つことが出来なかった自分に。
隣で笑う、あの子に。
いつか。
いつかキミに気持ちを伝えたい。
そう思いながら3年。
私はずっとキミを想ってた。
それなのに……
私には入る余地のないほどに、キミは彼女に夢中で。
告白なんて出来る空気は、微塵もなかった。
ただ。
卒業式の最後に
「初めてできた女友達。一生忘れらんねー」
って言ってくれたから。
嬉しくて、涙が出た。
もちろん卒業式だったからみんな泣いてて。
私一人が泣いたところでどうってことなかったけど。
私が大好きだった笑顔を残して、キミは彼女の元へ向かった。
切なくて苦しくて。
それでもキミを想えた3年は私にとって幸せだった。
私は、キミに出会えたこと、後悔してない―――




