のらねこ日記
のらねこ日記
足音を立てずに歩く。
そーっと。そーっと。
まぁ、肉球があるから走っても音は立たないんだけどね。
ちょっと驚かしてやれ。
禿げ上がった頭の魚屋の店主のすぐ後ろまでにじり寄る。しかし魚屋の店主は気がつかない。
そこをさっと走りぬけてやる。びっくりした客が悲鳴を上げる。魚屋が怒鳴る。
俺は一目散に茂みに入る。これがなかなか楽しい。
茂みの先は小さな公園になっていて、いつもの婆さんから餌をもらう。
婆さんは花壇の近くにいる。
俺がミャアと鳴くと、婆さんはいつものように布のバックから猫缶を取り出して蓋を開けて中身を黄色いトレイに入れてくれた。
本当はもう少し高級な猫缶がいいのだけれど、贅沢は言わない。
食べ終わったらもう一度ミャアと鳴く。
これで大概の人間はイチコロだ。頭を撫でて明日も餌をくれる。
次の日も、魚屋を冷やかしてから公園に向かった。
茂みから出て婆さんを探す。
婆さんはいつものように花壇の近くにいた。俺は近づいて婆さんの作業が終わるのを待った。
婆さんがいつものように、バックからしわしわの肉の塊を取り出すとシャベルを使って花壇に埋める。
今日の塊には、婆さんの手に付いているような爪がついていた。
よく人間はあんなものでネズミや虫を捕まえることができるなぁと思う。
婆さんがこちらを振り向いた。
俺はミャアと鳴いた。