ありふれた非日常
1日目 『ありふれた非日常』
「…以上のことから、臓器移植に関する議論は続いており……」
退屈な講義は続いていく。
議論や法律や倫理やその他たくさんの『大切』は、きっと私達にとってはテストの点数にしかならない。
眠たくなるような調子の声に混じって、レジュメをめくる音とカチカチというシャープペンシルの芯を出す音だけが響く。
(講義が終わったら学食にでも行こうかな…)
ちょうどお昼時である。そんなことをぼーっと考えている。
ぽと。
何気なしに眺めていたレジュメの上に。黒い粒のようなものが落ちてきた。
大きさは消しゴムを使った時に出る消しカス程しかない。
なんだろう。
中指で押さえて横に払う。
すると、押さえていた点から直線に緑色の線が引かれた。
深緑というのだろうか。
黒に近い色を示しながらだんだんに薄くなっていき最後は黄緑色と言えるくらいに明るくなっている。
その線から察するに、先程の黒い粒から現れたものであろうか。
(やだな……)
何か虫でも潰してしまったのだろうかと指先を見るとうっすらと緑色の染みになっていた。
ため息をついて再びレジュメに目を落とす。
緑色の線を忌ま忌ましげに眺めながらも、講義が終わったら何をしようかと考えはそちらに向かっていく。
講義の終わりを告げる声がした。
慌ただしく席を立つ音と一緒に私も外へ出た。
頭の中は、食堂に行って何を食べようかということでいっぱいだった。
しばらくして。
ぽと。
誰もいない講義室に、黒い粒が落ちた。