ハッピーカモーン 7
拓也の店は夜20時に閉店する。アルバイトの浜本くんは後片づけを終えると大きな声で「おつかれさまでした」と店を出ようとした。
「ちょっと、待った」と拓也は大きな声を上げた。
「何ですか、店長・・・。山本奈々子キャスターのことですか?今日、店に来たなんてほかの人に言ったりしませんよ。僕はこう見えて口が堅いんです。信頼してください」
「ああ、浜本くんのことは信頼しよう。それもそうなんだが・・・」と拓也は口ごもった。
「じゃあ、なんですか?」と浜本くんは不思議そうな顔をして尋ねた。
「実はな、彼女、明日から、ここで働いてもらうことになったんだ」と拓也はぶっきらぼうに言った。
「ええ!」と浜本くんは「え」に濁点をつけたような声を上げた。
「おーい、奈々子、来てくれ」と拓也は二階にいる奈々子に声をかけた。奈々子は「はーい」と声を出して、一階の店舗に降りてきた。
拓也はごほんと咳払いをし、
「浜本くん。君は気づいているが、こちら、キャスターの山本奈々子さんだ。俺の高校の同級生。訳あって、ここで働いてもらうことになった」と奈々子を浜本くんに紹介した。
「は、はじめまして。テレビではよく拝見しております」と浜本くんは奈々子を目の前にして、もじもじした口調で挨拶をした。
「奈々子。こちらは店でアルバイトをしてもらっている浜本くん。今、大学3年生なんだが、とても優秀らしく、ほとんど単位を2年までに取得し終わっているとのことで、週5日ぐらい、働いてもらっているんだよ」と拓也は浜本くんを褒めながら紹介した。
「はじめまして、山本奈々子です。事情あって、テレビ降板になっちゃったんだけど、しばらくここで働かせてもらうことになったの。このままだとバレちゃうから、変装して偽名を使って働こうと思っているの。偽名は『本山』なんていいかしら」と奈々子は笑いながら、浜本くんに話しかけていた。
「じゃあ、さっそく本山でネームプレート作るぞ」と拓也は言った。
「それに、しばらくの間、この店の2階に住まわせてもらうわ」と奈々子は言った。
「ぼ、僕、口堅いから、山本奈々子さんがここで働いているなんて、絶対言いませんから!」と浜本くんは拓也に言った同じ言葉を奈々子にも伝えた。
「ありがとう。心強いわ。それに昔、ウエイトレスのバイトをしていたんだけど、コーヒーを淹れるのはずぶの素人なの。ご指導よろしくね」
「そ、それはもちろん!」と浜本くんは力強い声を出していた。
「あ、あの、ちょっと、今日はびっくりしたな。と、とにかく帰りますね。おつかれさまでした」と浜本くんは興奮冷めやらぬ様子で、足早に店を去っていった。




