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ハッピーカモーン 21

 ナツカワベーカリーの2階では買ったパンをセルフサービスで食べられるようになっている。店内の掛け時計を見てみると、まだ待ち合わせの3時まで10分あった。

 拓也は一番奥の席に座って、ポケットに忍ばせて持ってきた文庫本を読みだした。読みだしてはみたものの、緊張のせいか文章が頭に入ってこない。奈々子の恋人とはどんな奴なんだろう。26歳の若造なんて、本気で奈々子は付き合っているのだろうか?

 「清水拓也さんですか?」と3時になる5分前に拓也に声をかけてきた若者がいた。若者は白いシャツに黒い細身のジャケットを着ていた。背丈は拓也と同じぐらいであろうか。

 「あの、野口啓介です。山本奈々子さんに言われてここに来ました」と彼は落ち着いた声で拓也に話しかけていた。

 26歳と聞いていたが、見た目は21歳の浜本くんとそう違わない年齢のように感じた。拓也が年をとったからであろうか?彼女と付き合っている青年がこんなに自分とかけ離れた年齢であることに正直、拓也はショックを受けていた。

 「ああ、はじめまして、清水です」と拓也は答えた。

 「すみません。清水さんにご足労させてしまって」と啓介はまずわびた。

 「本当は奈々子さんと直接お話したかったのですが、彼女がどうしても無理だと言うものですから」と言ってからうつむいた。

 「私は山本奈々子さんの高校の同級生で、訳あって、彼女から伝言を受け取っています」

 拓也は出来るだけ落ち着いた風に声にした。

 窓の外でゴロゴロと雷の音が鳴り始め、ザザーッと雨が降り出した。

 「雨のようですね」と啓介は呟いた。

 「春雷ですね」と拓也は窓に激しく打ちつける雨を見ながら頷いていた。

 「奈々子・・・、奈々子さんは元気でいますよ。しかし、あなたに会うことでスキャンダルを恐れております。もう少しで奈々子さんは復帰されますから、それまでもう少し待ってほしいと言っていました。」と拓也は言った。

 「僕は奈々子さんのことを本当に愛しています。僕みたいな未熟な人間を相手にしてくれたことを夢のように思っています。親しくなるうちに、彼女も自分のことを愛していると言ってくれました。僕はその言葉を信じて・・・」と啓介は言い、少し黙った。

 さらに雨が激しくなり、稲妻が光り、雷鳴がとどろいた。

 「彼女の言葉を信じています。今は未熟な学生ですが、将来、彼女を幸せにしたいと思っているんです。だから、今、彼女がどうしているか、本当に心配で・・・」と啓介は目を赤くして拓也に訴えた。

拓也は啓介が奈々子を本当に愛しているのだと本能的に感じた。彼は誠実な人間だ。平凡で未熟な彼だが、何年かすれば立派な青年になり、奈々子を幸せにすることが出来る人間であると拓也は感じた。拓也は奈々子の幸せを心の中で祈った。

 「奈々子さんのことは、しっかり、あなたが守ってやってください。・・・少し、強がるところがありますが、優しく見守ってあげれば、きっとうまく行くと思いますよ」と拓也は啓介に伝えた。

 「では私は失礼します」と拓也は店を後にした。


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