ハッピーカモーン 20
3日後はすぐにやってきた。昼の店の混雑が過ぎ、拓也がほっと一息をついていると、奈々子が目配せをしてきた。店内に掛けられているアナログ時計を見ると、もう2時半を回っていた。拓也はわかったよ、という素振りを見せ、エプロンをはずそうとすると、「待って」と奈々子が声をかけてきた。
「このエプロンが目印だって彼につたえてあるの」と言うので、じゃあ、このままで行くとするか、と拓也はナツカワベーカリーに向かい店を出ようとすると、奈々子は「雨が降るかもしれないから」と拓也に傘を渡した。
店を出ると、雨は降っていなかったが、怪しい雲が空に広がっていた。少しばかり肌寒い。
先日、奈々子と見上げた街路樹の桜はすっかり散り、鮮やかな黄緑色の新緑に覆われており、季節の移り変わりと奈々子との別れを感じさせた。
ナツカワベーカリーはコーヒーショップ・TAKUから歩いて5分ほどのところにある。浜本くんは毎日のように通っているが、拓也は月に一回程度行く程度だ。店内に入るとパンのいい匂いが立ちこめてきた。数人の主婦が様々な種類のパンを物色し、トレイに乗せていた。拓也はサンドイッチをトレイに乗せて、入江さんのレジに向かった。
「こんにちは、めずらしいですね」と入江さんは拓也に向かって言った。
「うん、ちょっと、人とここで待ち合わせでね。コーヒーもらえる」
「ええ、コーヒーショップTAKUのコーヒーには劣りますけど。このサンドイッチは美味しいですよ」と入江さんは言い、コーヒーを注いでトレイに乗せ「ごゆっくりどうぞ」といつもの接客のマニュアル通りの用語を笑顔で言った。




