ハッピーカモーン 19
「何?」
「私、隠していたけど、恋人がいるのよ」と奈々子はそういってから顔を赤らめた。拓也は浜本くんに既に聞かされていたから、特に驚かず「うん」と答えた。
「それも、うんと年下の」
「それで?」
「例の事件のことは彼に話せないし、お見舞いに来るっていう彼を電話で断り続けて、とうとう彼がぶち切れたのよ」
「そりゃあ、そうだろう」と拓也は言った後、「いやいや、相手が山本奈々子であれば、しかたないこともある」と言い直した。
「彼、まだ大学院生なのよ」
「え、そうするといくつなの?」
「今年、26歳かしら」
「天下の山本奈々子さんの恋人が26歳の若造だと?」
「まあ、そういうこと。そんな若い男性を好きになるなんて、拓也は驚くかもしれないけど、彼のことは尊敬しているし、本気で愛しているのよ」と奈々子は言った。愛している?10歳も年下の恋人を?拓也はほんの少しばかり嫉妬の気持ちが心に現れた。
「出会いは?」
「ロボット選手権。2年前の取材で知り合ったの」
「それは随分…、オタクな彼なんだね」と少々、拓也は面食らった。奈々子につりあう相手となると青年実業家か医者か、などと想像していたからだ。
「うん、ロボットに関してはオタクよ。拓也がコーヒーオタクであるようにね」拓也が「オタク」と言ったのが癪に障ったのか、奈々子はそういって、そして続けた。
「彼に会ってほしいのよ。で奈々子は元気でいてもうすぐ会えるからって伝えてほしいの」
拓也は少し考えて答えた。
「俺から一体何て言えばいいんだ?」
「高校の陸上部の同級生で私に頼まれたと言えば、それでかまわないから」
「うーん」と拓也は頭を抱えてしまった。
「あまり考え込まないでよ。何か尋ねられたら、彼女はマスコミに嗅ぎ付けられるのを嫌がっている、とか何とか、適当に答えればいいのよ」と承諾を避ける拓也をはやし立てるように言った。
「そおかあ?」と拓也は生返事をした。
「拓也しか頼める人がいないのよ」と奈々子に上目遣いで頼まれると嫌とは言えない。
「わかった。何とかやってみる、よ」と拓也は頼りなげに答えていた。
「ありがとう」と奈々子は深々と頭を拓也に頭を下げていた。
「え、そんな、頭を上げろよ」と拓也は言ったが、
「本当にありがとう」と奈々子は頭を上げない。
そんなわけで拓也は奈々子の頼みを断わることが出来なくなった。
奈々子はすぐさま恋人に連絡したらしく、拓也は奈々子の恋人と3日後の午後3時にナツカワベーカリーで会うことになった。




