ハッピーカモーン 16
いかん、自意識過剰だ、と拓也は心の中で呟いた。
そういえば先日…。奈々子が病院に行っており、休暇だった日に浜本くんと話したことを拓也は思い出していた。
拓也と浜本くんはカウンター内で二人、いつものように仕事をしていた。浜本くんはコーヒーカップを丁寧に洗いながら、拓也に話しかけてきた。
「本山さんって、恋人いるんですかねえ」
浜本くんは例のプロデューサー事件を知らないから、素直に聞いたのだろうと拓也は思った。
「どうなんだろう。俺も聞いたことは無いや」
「いや、この前、二人でナツカワベーカリーに行って休憩取っていたときに突然、本山さんの携帯に電話がかかってきたんです。」
「へえ」
「あんまり、他人の電話の内容を話すのもなんですけど…。」と言いながらも、浜本くんは奈々子の会話の内容を教えてくれた。
(ええ、今もまだ病院に入院しているの、だいぶ良くなったから。心配しないで。何処の病院かって?それは言えないわ。お見舞い?私も貴方に会いたいけれど、マスコミに貴方との関係がばれたら、スキャンダルになるし、貴方にも迷惑がかかるわ。とにかく退院したら、連絡するから、それまで待っていて欲しいの)
「きっと、恋人からの電話ですよ。でも有名人ですからね。簡単に会えないんですね。それにしても、本山さんは事情があって、キャスター降板したって言っていましたけど、恋人にも内緒にしなければならない事情って何でしょうねえ」と拭き終わったコーヒーカップを棚に戻しながら、浜本くんは言った。
確かに本気ではないとは言え、プロデューサーと関係があって、怪我をしたとなったとばれたら、恋人とも破局せざるを得ないだろう。だから、それを隠すために奈々子は恋人にも会えずにいるのだろう。
奈々子には恋人がいるんだ…。奈々子は拓也と同じ37歳とは言え、見た目は30歳そこそこにしか見えない。下手をすれば、二十代と嘘を言っても通るかもしれない。まだまだ綺麗な奈々子だから恋人がいたとしても自然なことだろう。拓也は少し切ない気分になった。もし願いが叶うのであれば、高校時代に戻って、奈々子への気持ちを伝えたい。
そう思ってから、俺はすでに妻帯者じゃないか、馬鹿なことを、と拓也は自分に言い聞かせた。




