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ハッピーカモーン 15
コーヒーショップ・TAKUのある通りは「桜通り」と名付けられており、桜の季節になると、通りの両端に植えられた桜の木が花をつけ、薄ピンク色の桜のアーチを作る。この桜を見物するために遠方からやって来る客も沢山いる。この日は平日だったが、それなりに人があふれていた。
「すごい、こんな綺麗な桜の風景はなかなか無いわよ」と奈々子は少し興奮したように言った。
「そうさ、俺はね、この桜並木を見て、あの店舗を借りたのさ」
「お店からも桜、見えるものね」と言ってから、「こんな日はコーヒーに桜の花びらを浮かべたら粋ね」と奈々子は言った。
「うむ、季節限定、桜コーヒーだね。伊藤老人なんかは喜びそうだな」と拓也は答える。
「ねえ、拓也。覚えている?」と奈々子は拓也に尋ねた。
「何を?」
「高校の通学路にあった桜並木」
「もちろん覚えているよ」
「一度だけ、部活さぼって桜を見に行ったよね」
「ああ、覚えているよ。あの日は地区予選で敗退して、二人とも、やる気をなくして、部活をさぼったんだ」
「そうだったね」と奈々子は頷き、「あの桜も綺麗だったね」と呟いて、それきり、その話題はしなかった。
ついさっき脳裏にふと浮かんだ、拓也も忘れていた思い出。奈々子はずっと覚えていてくれていたのだろうか?




