表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

ハッピーカモーン 14

 窓の外の桜を眺めていた奈々子が拓也に話しかけてきた。

 「拓也!この通りの桜の木が満開ね。さっき歩いてきた時、とても綺麗だったわ」と奈々子は目を輝かせて言った。

 「ああ、今日が一番綺麗かもしれないね。明日になると、花びらが散り始めるよ」と拓也も窓の外を見ながら言った。

 「お店が少し空いたら、浜本くんにお店頼んで一緒に花見見物でもしましょうよ」

 「ああ、いいね、そうしよう。浜本くん、お店頼んでいいかな」拓也は浜本くんに訪ねた。

 「僕はいいですよ、いってらっしゃい」

 浜本くんは、入江さんがこの店にやってきたこともあって、すこぶる機嫌が良いようだった。きっと、拓也や奈々子と桜見物をするより、入江さんとの桜見物を想像しているに違いない。


 奈々子とこうやって、一緒に仕事をしていると、忘れかけていた高校時代の思い出がふとよみがえって来るものだ。

 高校2年生の春のある日のことだった。田中くんがまだ一年生で陸上部に入部していない頃。拓也も奈々子も前週の地区予選に出場していた。それまで地区予選のために練習に練習を重ねていて、全国大会にいけるようなタイムが練習では出ていたのだ。しかし練習のようには行かず、良い成績が出せなかった。それだけに二人はひどく落ち込んでいた。そんなわけで二人は練習を放棄した。高校へ向かう通学路は川沿いにあり、そこにはたくさんの桜の木が植えられていた。練習をさぼって桜を見に行こうじゃないかと、二人のどちらかが誘った。たぶん誘ったのは拓也だったような気がする。

 桜は満開を過ぎて桜吹雪となって、あたりに美しい花びらを散らしていた。

 奈々子は木を見上げて「きれいだね」と言ったその瞬間、拓也は桜だけでなく桜を見上げている奈々子がきれいだと思った。でも純情だった16歳の拓也とって口には出せないことだった。拓也も「本当にきれいだ」とだけ言った。

 桜の木の下には沢山のタンポポも咲いていて、拓也はタンポポの花畑に敷物も敷かず、寝ころんだ。タンポポだけでなく、クローバーや他の草花が生えていたから、拓也のトレーニングウェアは土などで汚れたりはしなかった。

 「こうやって寝転んで見上げてみると、大粒の雪がふっているようだぜ」と拓也が言うと、奈々子も拓也のまねをして寝ころんだ。

 「ほんと、きれい」と言ってから、奈々子は拓也の方にゴロリと向きをかえた。

奈々子の整った美しい顔が拓也の顔に近くなったものだから、拓也は顔を赤らめた。そんな拓也の様子に気づきもせず、奈々子は会話を始めた。

 「もうさあ、練習さぼっちゃって、毎日こうしてのんびりしようか?」と奈々子は少し苦い顔をして言った。

 「そうだなあ、でも、そんなことしたら笠原に絞られるぞ」と拓也はのんきな声で答えた。笠原とは陸上部の担当教諭だった。数学の教諭だったが、学生時代はマラソンの選手で、それなりに良い成績を残したそうだ。(彼、曰くだが。)そんなわけで笠原は部活動に熱心だった。

 「笠原なんて、ハードルなんて、たいして教えてくれないじゃない。力を入れているのなんてマラソンだけじゃない。私たちがいなくても気づかないわよ」と奈々子は答えた。

 「それも、そうだなあ」とまたしてものんきな声で拓也は答えた。

そうだなあ、そうだなあ。奈々子と一緒にこうやって、のんびり会話したり、デートみたいでいいなあ、なんて拓也は思ったりした。でも部活をさぼったのは、この1日だけで、次の日から二人ともきちんと練習に参加した。

 奈々子はあの日のことを覚えているだろうか?俺は少なくとも桜の木の下の君に恋していたんだぜ。奈々子は俺の気持ちなんてちっとも気づいていないんだ。

 「まあ、いいさ」と拓也は独り言を言って、「じゃあ、二人でデートとしゃれ込みましょうか」と奈々子に向かって答えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ