ハッピーカモーン 12
しばらく経ったある日の午後、いつものように「ただいま」と奈々子の元気な声が店内に鳴り響いた。菜々子が休憩から戻ってきたのだ。
「今日はお客さんをつれてきたの!」と拓也にウインクをして見せた。お客さんは小柄でショートボブの可愛らしいお嬢さんだった。ナツカワベーカリーのエプロンをしている。
「い、入江さん?」と浜本くんは驚いていた。そうか、彼女が入江さんか。浜本くんが好きになるのも無理もない、と拓也は思った。目のぱっちりとしたお人形さんのような顔をした可愛らしい女性だった。
「あ、浜本さん。いつもお買い上げありがとうございますね」と入江さんは少し照れくさそうに浜本くんに声をかけていた。
なんだ、すでに二人は名前を知っているぐらいの仲なんじゃないか。拓也は浜本くんが一方的に入江さんの名前を知っているだけなのかと思った。確かに浜本くんは店のエプロンをつけたまま休憩に行くので、ネームプレートで入江さんが浜本くんの名前を知ることはできるだろうが、単なるお客さんというだけでは記憶にとどめないだろう。浜本くんは浜本くんなりに、ナツカワベーカリーに定期的に通うことで、彼女と徐々に親しくなっているということだろう。
「このコーヒーショップ、来てみたかったんです。それで浜本さんと同じエプロンをした本山さんがお店に来られたので、お話をしたら、是非立ち寄ってきてくださいと言ってくださったので」と彼女は照れくさそうな顔をしていた。
「ささ、どうぞ」と浜本くんは素早く、カウンターの席に案内をしていた。浜本くんがメニュー表を渡すと、入江さんは丹念にページをめくった後、
「メニューにはいろいろな種類のコーヒーがありますけど、私、コーヒーには疎くて・・・。お勧めありますか?」と浜本くんに声をかけていた。
「店長おすすめブレンドコーヒーはおいしいですよ。店長が独自に豆を選んでブレンドして、どんなお客様の口にもあうようにしているんです」と浜本くんは言った。
「いいことを言うねえ」と隣で聞いていた拓也は少し機嫌が良くなった。
「じゃあ、それで!」と入江さんは元気な声で答えていた。
浜本くんはいつもの手順でブレンドコーヒーを淹れていたが、拓也から見るといつもより念入りに丁寧に気持ちを込めているように見えた。いいねえ、若いって。拓也は心の中でルルル~とハミングをした。
浜本くんは心を込めてつくったブレンドコーヒーを入江さんに差し出した。
入江さんはブレンドコーヒーを一口飲むと「おいしい!」と声を上げた。
そうでしょうとも、俺が独自に研究して完成したブレンドコーヒーなんですから、と拓也はまたもや心の中でハミングした。
「うちのお店にもコーヒーありますけど、やっぱり専門店は違いますね」と入江さんはしみじみと言った。
「お店も静かだし、今度からここで、学校の課題でもしようかしら」と入江さんは言っていた。




