ハッピーカモーン 11
確かに章子というガールフレンドがいたのは確かだし、章子の明るい性格や、優しさに好意を寄せていたのも確かだった。
でも、拓也が本当に心を通わせたいと願っていたのは、奈々子だったのだと思う。高校時代、教室の窓から同級生と戯れている奈々子の姿を追っては、今、奈々子は何を考えているのだろう、何をしようとしているんだろう、拓也は思い巡らせたことを思い出した。
奈々子は一緒に部活で練習をともにしている仲間であったが、何かこう、彼女の心の中はいつも読めないような感じがした。奈々子の好きなこと、奈々子が求めていること、拓也は知りたいと思ったことは度々あったが、ついぞ聞くことは出来なかった。
拓也が同じクラスメイトの章子と付き合うようになったのは、拓也が章子に告白をされたからだ。それを何とはなしに奈々子に相談したことがある。
奈々子は「ああ、章子ちゃん、私、あの子と話したことあるけど、いい子そうよ」とあっさりと答えた。それ以上は何も言わなかった。拓也は奈々子に反対してほしかったのかもしれない。焼き餅を焼かせたかったのかもしれない。それをあっさりと、認められて、拓也の心は萎んだ。それで、章子と付き合うことに決めた。今思うと、失恋だったのかもしれない。
でも、理由はどうであれ、章子とつきあい始めたのは、今とはなっては、正解ではなかったか?奈々子はその後、大学を卒業してからキャスターとして多忙を極めることになる。高校時代の拓也が想像しえなかったことだ。たとえ、奈々子と恋人同士になれたとしても、拓也のことなど構っていられなかっただろう。奈々子は拓也にとっては結局のところ高嶺の花でしかなかったのだ。
章子は短大を出た後、保育士として働いていたが、拓也が辛いときにはいつでも側にいてくれた。このコーヒーショップを立ち上げるときだって、反対もせず、黙ってついてきてくれたじゃないか。
奈々子のことは淡い、淡い恋。自分だけが知っていれば良い。
「拓也は恋愛に興味がない」と言った奈々子の言葉を思いだし、
「今とはなっては、言えないこともあるんだよ」と拓也は独り言を言っていた。
「浜本くんがくれたチョコデニッシュ、本当においしかったわ。私もナツカワベーカリーに行ってみようと思うんだけど」と奈々子は言った。
「ええ、他にもいろいろな種類がありますから、店員さんに聞いて、いろいろ試してみても楽しいですよ。ちなみに僕のおすすめはクロワッサンですよ」と浜本くんは笑顔で答えた。
「じゃあ、クロワッサンを買ってみるわ」
「それに、店内で食事ができるんです。コーヒーはうちのに劣りますけど、席もわりと広くてノンビリできますよ」と浜本くんは答えていた。
「じゃあ、休憩時に行ってみるわね」と奈々子は待ち遠しそうな顔をして答えていた。




