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ハッピーカモーン 1

 平日の夕方前のまどろみがちの時間帯、拓也のコーヒーショップのお客は決まってまばらになる。常連客の老人が2、3人いる程度だ。

 「浜本くん、休憩に行って来ていいよ」と大学生のアルバイトの浜本くんに声をかけると「はーい」と大きな声が返ってきた。浜本くんは店のエプロンをはずすとそそくさと店を出て行った。

 大方、近所のナツカワベーカリーにパンでも買いに行くのだろうと拓也は想像した。浜本くんは時折、近所のナツカワベーカリーで働く女子学生の入江さんについて、拓也に話すことがあった。入江さんってネームプレートだけで話したことはないんですけど、目がパッチリしていてすごく可愛いんですよ、しかも、「ありがとうございました」という声も笑顔もめちゃくちゃ可愛いんですよお、などと雑談を持ちかけてくる。

 拓也は「とっとと、愛の告白でも何でもしてこい」とぶっきらぼうに答えるのだが、「はあ、店長には僕の恋心がわからないんですね」などと可愛げのない答えを返してくる。なるほど、恋をしている当人にとっては、自分の気持ちを伝えるのさえも勇気がいるし、最悪、その結果、相手に拒否されてしまうこともあり得るのだ。


 拓也は高校時代、陸上部に所属していた。陸上はいろいろな競技があるから、団体での練習というのは少なく、その競技ごとのメンバーで練習をすることが多かった。拓也はハードルを専門としていた。ハードルを選んだ部員は3名と少なく、その3名で毎日、ハードルを並べて練習していた。

拓也と田中くんという後輩と、もう一人は同級生の山本奈々子という女子だった。3人で練習方法を考えたり、互いにフォームの確認をしたり、今思い返せば、高校時代は授業を抜かせば、3人でいる時間が一番多かったような気がする。高校の部活は一学期に3年生は引退する。そのあとは受験勉強をせよという高校の方針なのだ。

 その部活の最後の日もいつもと違わず、ハードルを3人で倉庫に片付けをしていた。後輩の田中は、これからは一人で練習しなければならないと泣き言を言っていた。拓也は「引退してもたまには来るから」と田中くんをなぐさめた。

 ハードルを倉庫に片づけたあと、奈々子は、何か拓也に伝えたいことがありそうな顔をしていた。拓也は「今までありがとう」と彼女に言った。彼女はなにも言わず拓也の手を握り、そして耳元で小さな声で何かをささやいた。しかし、拓也は聞き取れず「え?」と聞き返すと「ありがとう」と今度ははっきりと聞こえる声で彼女は言葉を返した。

 彼女の最初の言葉は何だったんだろう。拓也は彼女に尋ねられぬまま、その場から彼女は去っていった。拓也は奈々子に密かに恋心を抱いていたのだったが、それっきりだった。


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