リンとオーウェン
リンとオーウェンは兄弟だった。ウォルフのベイリーという名の国にあるリップル村で2人きりで暮らしていた。両親はオーウェンが8歳、リンが2歳の時に死んだ。2人ともそれを村長から聞かされ、実際に死んでいる姿をみたわけでもなく死因を知っているわけでもなかった。リンもオーウェンも魔術はそこそこだが剣術に右に出る者がいないほど優れていた。村のすぐ隣には森があった。その森から魔獣や魔物が村に出てくるとすかさず2人が退治した。村人からの信頼も厚く2人は充分それこそ両親はいないが幸せと呼べるぐらいの生活はしていた。
「明日からアダム王の用心棒をすることになったんだ。」
夕食の時、オーウェンが急に話をきり出した。リンは口に運びかけていたスプーンを皿に戻した。
「用心棒って、カンテはどうすんだよ。」
カンテはオーウェンの婚約者で隣りの村に住んでいた。
「結婚式は3日後ってだろう。どこまで行くんだよ。」
リンは身を乗り出した。
「まあまあ落ち着け。」
オーウェンはリンにちゃんと座れとあごで示した。
「ヴェッカ王国のオスカー王と密会するみたいだ。それまでに無事に連れて行くのが任務なんだ。」
リンは呆れたように首を振った。
「兄貴はさあ、そんなに馬鹿だっけ。こんな小さな国から国へ行くだけで3日なんていらねーよ。」
オーウェンはため息を小さくついた。
「これは極秘任務なんだぞ。そりゃ魔獣を召喚して空を飛んで行けば2日だっていらないよ。でも魔法を使えばアダム王を殺そうと思っている連中ならすぐに感知して居場所をつきとめるだろ。普通の用心棒ならわざわざ田舎村の俺を指名しないだろ。」
リンは再びスプーンを口へ運び右腕にある蝶のタトゥーの傷跡を左手で抑えた。
「じゃあ、あたしはどうすればいいんだよ。もし、この蝶がまた封印をといたら、、、。時々、痛いんだ。もうすぐ封印が解けそうな気がする。」
リンの右腕には蝶のタトゥーが生まれた時からあった。1度だけその蝶のタトゥーがとてつもない魔力を出したことがあった。
3年前のこと。リンが15歳の時だった。突然、タトゥーからまばゆい光が放たれ、その光がリンを包みこんだ。リンは不気味なうめき声を上げてもがきだした。口からは牙がむき出して爪は魔獣のように長くなっていてとても人間とは呼べない姿になっていた。オーウェンは衝動的にリンの腕のタトゥーを近くにあった剣できりつけたのだった。リンはおぞましい叫び声を上げて気を失い倒れた。光は同時に消えた。光に包まれた後、牙や長かった爪は元に戻ったがリンの美しかった金髪の髪の毛や眉毛が真っ黒になっていたままだった。後で分かったのだが瞳の色も青色だったはずが黒色になっていたのだった。オーウェンはそれからリンを隣りの村の教会に連れて行きあのタトゥーを封印してもらったのだった。
「村には教会があるし、カンテの家に行ってきてほしいんだ。」
オーウェンはリンの黒い瞳をゆっくりと見つめた。
「えっ。」
リンは食べていたスープのにんじんを喉に詰まらせそうになりグラスの水を勢いよく飲んだ。
「ちょっと、待てよ。だって、あたしカンテとだって1度しか会ったことがないんだぜ。それに暴走したあたしをカンテが止められると思うか。」
「カンテの姉は槍の使い手だし魔術にも腕を磨いている。祖母は魔導師らしいしな。それにカンテだっ回復魔法はずば抜けてできるからこの村にいるよりはいいと思うんだけどな。」
オーウェンは腕組みをして椅子の背もたれにもたれた。
「そんな、見ず知らずの怪物にもなる男みたいな女、誰が引き受けると思う。」
リンは諦めたように言った。
「リンは怪物じゃない。それに言葉づかい以外は普通の可愛い女の子だよ。カンテだってもうじきお前の家族になるんだから大丈夫だ。もし何かあったら俺の大切な1人だけの妹だ、絶対に助ける。」
オーウェンはリンを真っ直ぐに見つめた。