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図書館へむかう道すがら

作者: 小田秋雪

 図書館へむかう道すがら、出がけに麦茶を冷蔵庫にしまった時ふと目にとまったチーズかまぼこが頭を離れなかった。そのチーズかまぼこはもうかれこれ三年以上はそこにあったものだ。私は一度として、チーズかまぼこに食欲をそそられたことはないのに。


 それは私が一人暮らしを始めて二カ月か三カ月か経った頃、実家から送られてきた荷物に入っていたものだった。私が好きなチョコチップクッキーやお米と一緒に。箱のふたを開けて四箱も並んだクッキーのパッケージがまず目につき、それから小分けにされたお米、そしてチーズかまぼこを発見した時、この荷物を準備している両親の姿が目に浮かんだ。

 きっと最初にクッキーを詰めたと思う。それからお米、重さを分散して箱に詰めやすくするために袋に小分けにしたんだろう。全部合わせたらニキロ分ぐらいになったはずだ。それからなにか他に送ってやるものはないかと冷蔵庫を開けて、そして家族のお弁当用のチーズかまぼこが未開封なのを見つけた父か母が、それを箱にいれたのだ。他にもインスタントのお味噌汁やコーヒーが入っていたように思う。


 私が決して食べたいと思ったこともなく、また食べたことだってないチーズかまぼこ。それは結局いまだに未開封のまま、冷蔵庫にある。親がそのことに気付かなかったことくらいで自分が愛されていないだなんて、大げさなことを思ったわけじゃない。ただ、そんなもんなんだなって、三年以上もたった今になってはっきりと気付いたのだ。私だってきっと、家族にとったらそんなもんなんだ。

 親は私を愛してくれているからこそ、あの荷物を送ってくれたのだし、その後も何度か荷物は届いた。そのたびに私は嬉しかったし、家族が懐かしくて夏休みや冬休みが待ち遠しくなった。でもチーズかまぼこはなくならない。私には食べられも、捨てられもできない。

 いままでなんとなく確信していた、「自分以上に私を愛し、かわいがる事のできる誰かは絶対にいないだろう」という思い込みの根拠が、ようやく見つかった気がした。


 図書館へむかう道すがら、秋の風が冷たくて、清々しくて惨めだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今の季節のしんみり感にマッチしてて、個人的に好きです。
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