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事の真相〜3〜

(……!)

 力なくふらふらと歩く柳田の右足がぎこちない動きを、いや引きずっていると言ってもいい。

「わかった?」


「城川工業に入った柳田は選手としてとても期待されていた」

 ベンチに座り直した俺たちはうなだれる柳田を支えるように、彼を真ん中にして座った。

「新チームになった一年の秋にはベンチ入りするまでになっていた」

 西の古豪、城川工業。最近は見なくなったとはいえ伊達にサッカーバカやってない。県内四強の一角で、近年はかつてほどではないにせよ、必ずベスト8に顔を出す強豪だ。確か出身のプロ選手もいるんじゃなかったか。イレブンナイナースのユースができてから減ったとも聞くが部員数は多く、そこでベンチ入りするくらいだから相当な実力だったんだろう。

「……それは天ヶ崎との対抗戦だった」

 天ヶ崎学園も県内四強の一角であり、豊かな環境と私立の利点を活かして、こちらもプロ選手を輩出する実力がある。城工と天ヶ崎の一戦は県西ではちょっとした知名度を誇るダービーマッチだ。

 絞りだすように柳田の唇が動く。さっきまでの切れ味はなく、重たくすごすごとしている。

「後半から途中出場したセットプレーでの競り合いで相手選手と重なり、そして……」

 淀んだ瞳が感情もなく、右足を見つめる。

「クソッ」

「止めて!」

 右の拳を柳田が振り上げ、それを七瀬が体を乗り出して制す。

「もう止めて、柳田。……そして、柳田はサッカー選手としての命を絶たれたの」

 東京ゴールデンナイツの下部組織で活躍し、中学時代には無名のチームで快進撃を見せ、ユースの選手に負けず県選抜の候補にまでなった男を襲った悲劇だった。

「……俺は中学のサッカー部、皆の期待を背負っていた。だが、もう合わせる顔もない」

 柳田は両手で顔を覆い、絞りだすように声を出す。顎のあたりに光るものが見える。涙だ。

「だから、怖い。皆と会うのが。期待を裏切り、どんな顔をすればいいって言うんだ」

「柳田は悪くないよ。精一杯のプレーをして、その結果なんだから」

 七瀬が精一杯慰める。柳田は顔を拭うとすまない、と彼女に声をかける。

「偉そうなこと言うようだけど、俺もそう思う。サッカー部の皆が柳田を慕っていたのは遠くから見ていてもわかった」

 ホント偉そうだな、と思いながら、だから、と続ける。

「一年で城工のベンチ入りってすごいじゃん。胸を張っていいと思う」

 柳田も苦難の道を歩いてきた。それがわかった。自分のつまらない劣等感がバカらしく感じてきた。

「ありがとう。……七瀬から話を聞いた。俺たちはサッカーを愛しながらサッカーから離れざるを得なかったんだ」

 俺は、と柳田は続ける。

「こうやって泉と会ったのを機に変わりたい。あの時は何も決まってない中、無理を言ってすまなかった。気がはやっていた。最大の味方を得られると思ってとにかく声をかけてしまった。断るのも無理のないことだった。本当はこの前のときも走って追い掛けたかったんだが、足が、な」

 スマン、と柳田が頭を下げる。

「そんな……! 俺のほうこそ、勝手に劣等感抱いて……、柳田のそんな思いも知らず、サッカーから離れていって……」

 俺も頭を下げる。俺たちは同じ傷を負っている。わずかなタイミングの違いで、握手するはずの手でお互いに胸にナイフを突き刺しあってしまった。

「ハイ!」

 左側で一人、話を聞いていた七瀬が突然、胸の前で手を叩く。

「誤解は解けた! これからまた一緒にサッカーバカやればいいじゃん。同じプレハブ組同士さ。ねっ?」

 満面の笑みで問題解決、と言わんばかりに言う。根が楽天的なのだろうか。思わず俺と柳田は顔を見合わせる。

「私、いいもの持ってきたんだよ、これで万事解決!」

 ガサゴソと自分のカバンを漁ると、取り出したのは……サッカーボール?

「兄貴のをちょっと拝借してきてさー。ほら」

 ずい、と俺たちのほうに突き出す。いきなりのことにどうすればいいのかわからない。これは柳田も予想してなかったようで、珍しく目を見開いて固まっている。

「……え? ほら、アンタらの好きなサッカーボール」

 更に突き出す。

「いや、ほらって言われてもなぁ……」

「あぁ……」

 柳田も困惑気味だ。ちょっと前までトラウマだったものをハイ、と突き出されても……。

 途端に七瀬の表情が崩れる。怪訝そうにこっちを見ている。

「男同士ってさ、こうやって友情を深め合うんじゃないの? 違う?」

 何だそりゃ。再び俺と柳田は顔を見合わせ、そして、……笑った。

「お前、何わけのわかんねーこと言ってんだよ」

「ホントホント。第一、ココはボール遊び禁止だし」

「え、マジ?」

 どうやら何も知らなかったらしい。その上、サッカーボールさえ出せば、真剣に何とかなると思っていたのだろうか。その言葉を聞いて、俺達はまた笑った。

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