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事の真相〜2〜

「暴力事件だっけ?」

 外部招聘したコーチが部員に暴力を振るったとか。確か俺が小学生のころの話だ、挨拶をしなかった部員の髪の毛をコーチが掴んで張り倒したと聞く。田舎では噂の伝達が早い。

「それのおかげで野球部に入るヤツがかなり減った」

 それは間違いないだろう。いつもは学年の半分は野球部に入るところが自分たちの時は片手で数えるくらいだったのだから。

「そして、予算が余ったのは知ってるか?」

 再び柳田が俺に視線を向ける。俺は首を振り、それに応える。

「野球部への一極集中に危機感を感じた大人達は“もう一つの野球部”を作ろうとした。そこへ、俺が話を持ちかけた」

 再び柳田は目前に視線を向ける。もう赤から黒へと空の色は変わり、外灯の灯りがわずかな力で闇へ対抗し、俺たちを包んでいた。「折しも、北見イレブンナイナースのJ1昇格で学校は沸いていた」

 外灯の細い灯りが噴水を照らし、キラキラと輝く。さながらそれは闇の中で必死に自己を象徴する蛍のようだ。

「スケープゴートみたいな感じ?」

 七瀬は百合ヶ丘の制服から伸びた足をぶらぶらさせている。上空を見上げ、うっすらと見える星々に何か合図をしているかのようにも見える。風が吹き抜け、フワッと彼女の短い髪が浮いた。ライトに照らされ、彼女の顔はくっきりと陰影が付いている。

「それに近い」

 また、柳田はまっすぐ前を見る。

「おかげで内容と結果、共に得ることができた」

 大げさに言えば、確かに奇跡みたいなことを起こしたのだ。柳田自身も県選抜の候補に入ったって噂も聞いている。

「だが、一人の友人を失った」

 突然、柳田の目が俺を見据える。思わず、俺は自分自身を指差す。相変わらず意思の入ったその瞳は頷くかのように瞬きをする。

「俺は悪かったと思っている」

 そして、彼はこちらを向き直った。足がぶつかりそうになったようで、七瀬が足をこちらに寄せた。

「それを夢見ながら諦めてきたヤツに、中途半端な状況で声を掛けてしまった」

 だから……、と柳田は続ける。

「断れたのは仕方ないと思っているし、それをきっかけにサッカーから離れてしまったことを悔やんでいる」

「うん、続けて」

 七瀬が柳田に声を掛ける。柳田は再び膝に肘をつき、両手で口元を押さえる。静かにはっきりとその口元が動く。気付くと俺は、膝のうえに置いた握りこぶしを強く握っていた。

「……転校してすぐ、風の便りで学年一、いや学校一サッカーに詳しくて、好きなヤツがいると聞いた。様子を見に行くと、そこには楽しそうにサッカーについて話す泉がいた」

(やっぱり俺だ)

 確かに俺は学年でも学校でも一番サッカーの話ばかりするサッカーバカだった。イレブンナイナースの近況をインターネットでチェックして、逐一話題にあげていた。

「得られるはずの友人を失ったことに気付き、そして気付いたころにはもっと大きな物を失っていた。

 中学を卒業して城川工業に行った俺は……、俺は……」

 急に嗚咽へと変わる。サッカーの古豪城川工業で何かあったのか? 両手に顔を埋め、途切れがちになりながら、柳田は言葉を続けようとする。微かに音を作り出そうとするその唇を支えるかのように、そっと七瀬が柳田の背中に手を添える。

「後は私から話すよ」

 柳田の耳元で七瀬が小さく言う。よくがんばったよ、そんな声が聞こえる。

「……ねえ、噴水まで歩かない?」

 優しい、そしてきっぱりとした意志を持った瞳がこちらを向く。促されるかのように立ち上がった俺に続き、俯いたまま柳田が立ち上がる。

(……!!)

 そして、俺は気付く。衝撃の事実を……。

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