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忘れ去られるべき記憶〜2〜

 そこで生じた問題とは、……揃ってしまったのである、十一人が。まさかのことだった。男子の約半分がサッカー部に入るという予想だにしないことが起こってしまった。更には学校側が一通りの道具一式を揃え、挙げ句の果てにゴールまで作ってしまったのである。北見イレブンナイナースがJ1に昇格した機運の余波があったかもしれない。

 しかし、これにはさすがに閉口した。あれだけ俺が望み、諦めてきたものを柳田はあっさりと手に入れたのである。

 環境の整ったチームは初出場の秋季大会で一年生だけながら初勝利を飾ると、三年次の大会では県大会に出場して学校中を沸かせた。その中心にいたのは柳田であった。中盤でゲームを掌握し、自らも得点してチームの快進撃を支えた。後で知ったことだが、彼は名門東京ゴールデンナイツの下部組織で活躍していたらしい。

 汗まみれ泥まみれ、冬は雪にまみれながら楽しそうにボールを追うサッカー部員達の姿を、俺は体育館の出入口から見つめるしかなかった。サッカー部に入ることを拒んだ罰だ、彼らの背中がそう行ってるかのようだった。

 そして、彼らがサッカーを始めたことを境に、俺はサッカーから離れた。ボールを蹴ることもなければ、以前のように観戦することもなくなった。ワールドカップだって見なかった。嫌でもサッカーから離れられない自宅の環境が嫌になったりもした。高校でももちろんサッカー部には入らず、帰宅部としてたまに予備校に通う程度である。


「だから、柳田の顔を見ると思い出すんだ。あのときもっと真剣に考えていれば……、って」

 全てを話すと、俺は七瀬さんから視線を逸らした。「ふーん、なるほどね……」

 汗も乾き、腕を組んで話を聞いた彼女は天井を見ながらうなった。

「七瀬さんには悪いことしたと思ってるよ。関係ないことに巻き込んで」

「二人の間にそんなことが合ったとはね。……あと、呼び捨てでいいよ。私もそれでいいから」

「そう、わかったよ。じゃあ、呼び捨てで」

 七瀬は頬杖をついて横を向いている。その口がわずかに動く。小さくて声が聞き取れない。

「え? 何?」

「え? あ、いや、……何て言うかな。私が聞いた話とはちょっと違うから」

「違う?」

 彼女は何か言いたげにしながら頭をかきむしってる。

「その、すぐ、わかると思うよ」

 何が違うというのだろうか。まぁ、向こうには向こうの事情があるのかもしれないし、サッカーを真剣に考えず、離れていった俺に非はあるだろう。

「……そろそろいいかな?」

 言うことは言ったし、もう帰ろう。

「ちょ、ちょっと待って。うんと、明後日の水曜日、また講義あるでしょ? それが終わったら駅前公園に来て」

「駅前公園?」

 屋代駅の近くにはわりと大きな公園がある。そこに?

「でも、その講義は……」

 柳田も来るのである。彼女もそのことには気付いているだろう。俺は場合によってはサボるつもりでいた。

「わかってる。だけど、来て。授業は後でDVDって手もあるでしょ? 私、このままじゃ良くないと思うの」

 彼女は訴えるように言う。断ってもいいが、予備校を辞めるわけにはいかない。もう授業料は払ってあるのだから。つまりは二人と顔を合わせる機会がまだあるのである。これ以上、予備校を居心地の悪い空間にしたくない。

「いい考えがあるの、だからお願い。このプレハブ小屋仲間、嫌な仲にはなりたくないから」

 彼女のしようとしてることはわかる。話に乗るだけ乗って、一学期だけで予備校を切り替えてもいいか。駅前にはまだいくつか塾や予備校はある。親を何とか説得してみようか。

「いいよ、待ってるからさ」

「本当!? 良かった。大丈夫、任せて」

 彼女は心底嬉しそうに言うと、胸に手をあてた。

「だから、これから仲良くしようね」

 美人じゃないが、笑うとそこそこ可愛い。百合ヶ丘の女子に笑みを浮かべられるのも悪くない。

「じゃあ、そろそろいいかな?」

 携帯を見ると、今日取っていた講義もほとんど終わっている時間になっていた。

「うん、またね」

 小さく手を降る彼女を背に俺はプレハブ小屋を出た。

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