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望まぬ再会

 俺はそれからというもの、次の授業に出るか悩み続けた。授業に出れば、間違いなくアイツに出会うだろう。いや、その前に会うかもしれない。

 ……それは非常に気まずい。俺にとってそれはもう封印された記憶だったからだ。

 自然と予備校から足が離れていく。


 そして、今日も予備校で授業がある。違う科目だが、予備校に行くのは躊躇われた。

 行きたくなかった。

 予備校には来たものの、中に入る気がせず、二の足を踏んでいた。どこかで時間をつぶそうか。そう考えて、俺は予備校のあるビルの屋上に向かった。

 この予備校、西南予備校屋代校は六階建てのビルの一階から三階にある。四階から六階にはとある企業のオフィスが入っていて、自分は以前に間違ってエレベーターで六階に行ってしまった。偶然にもその時に屋上へ上り、なおかつその扉の施錠が緩んでいることに気付いたのである。

 ガチャ。

 屋上へ続く扉は案の定、緩んでいてすぐに開いた。ぼーっと上を見上げると、俺の心と対照的に澄んだ青い空が広がっている。

(はぁ……)

 溜め息をつきながら視線を元に戻すと、そこには小屋が一つ建っている。ここが秘密の隠れ家だ。いや、何故ビルの屋上に小屋があるのかは知らないけど。古びているし、たぶん工事でもしたときから残ってるんじゃないだろうか。

 とぼとぼと小屋に近づいて行くと、窓から中に誰かがいるのが見える。誰だ? 他にもここを知ってる人がいるのだろうか。企業の人だとちょっとまずいな。自分に残された聖域がすでに侵されたことに落ち込む。が、それとそこにいたのはこの前の七瀬とか呼ばれた女である。

 まずい。とっさに後退りしてしまう。そしてそれにタイミングを合わせたように目が合う。

(げっ!)

 こちらに気付いたそのコは腕をぶんぶん振っている。何なんだ。俺はすぐさまその場を離れようと屋上の出入口に向かう。

「待って!」

 扉の開く音と同時に背後からの声。もちろん返事どころか振り向きもせずに俺は走りだす。そして、屋上の出入口に着いた俺は鍵を開け――あれ? 開かない。

(何だ、この野郎。タイミング悪ぃ!)

「待って!」

 ガチャガチャやってると後ろからの声。ああもう、何でこんな時に開かないんだ。

 ガシッ。

 慌てて鍵を開けようとする右腕を掴まれる。

「もう、待ってってば……」

 そこには例の女。息を切らせている。片手を膝につけて前傾姿勢をしている。

「はあはあ……、何で逃げるのよ……」

 さすがにここまで来ては仕方がない。俺は観念して鍵からゆっくり手を放す。と、キィと音を立てながらわずかに扉が開く。今更かよ、という思いと引けばよかったことに気付かず、押していた自分に呆れる。馬鹿だ。

「……もう逃げないから手を放してよ」

 両手を上げようとして上げられず、片手だけ上げて降参のポーズを取る。自分で言うのもなんだが、顔は仏頂面だ。

「ホントに? もう手間を取らせるなぁ……」

 まだ息が切れるのか、肩をわずかに上下させながら、今度は両手を膝につけて前傾姿勢でこっちを見る。上目遣いで見られてドキリとする。そんなに可愛くはないが、さすがにちょっと胸に響く。

「自己紹介が遅れたね。私、七瀬雪乃。よろしく」

 屈託のいい笑顔で手を差し出す。

「……俺の名前は泉拓哉。よろしく」

 その手を掴む。柔らかい。

 ぎこちない握手は望まぬ再会を現していた。

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