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意外な事実

 途中で電車を乗り換えると、俺たちは一路、南へ向かう。まだ北陸新幹線は完成してないが、その先には長野があり、更に進むと関東・東京が見えてくる。

 遊園地前の駅に到着して、外に降りると目の前の遊園地はすでに賑わいはじめた。

「今日は乗り放題なんだよね」

「そ、チケットは向こう! さぁ、早く行こう」

「雪乃、走ると危ないわよ」

 喜ぶ七瀬とそれに引っ張られる椎田。泉も賑わいに驚きながらそれを追い掛ける。その中にあって、俺は一人駅を振り替える。

(思えば、この路線で俺は東京に別れを告げて北見県に来たのか)

 既に人影の失われた小さな駅は、何も言わずただそこにたたずんでいる。俺はは果たしてここに迎え入れられたのか? 賑やかな遊園地とは対照的に静かな人工物は次のダイヤまでまたじっと待ち続けるだろう。

「おーい、柳田ー」

「ぼーっとしてるとアンタだけ置いてくわよ!」

「あぁ、悪い」

 すでに三人は遊園地の入り口に達している。ひとりごちる暇もなく、俺は慌てて追い掛けた。


「さて、まずはどれから乗ろうか」

 山城リトルパークはそれほど大きくない。乗るアトラクションを選ぶほど広くはないが、一通り揃っている。地図の前に立ち、俺たちはどこへ行こうかと話し合おうとしていた。

「お化け屋敷!」

「ええ!!」

 七瀬が地図を指さして、いの一番に叫ぶ。

「何で一番最初にお化け屋敷なんだよ、最初はまぁ、小さめの乗り物系とかな……」

「今日の主役は私!」

 言い返す俺に対して、ビシッと指を立てて偉そうに七瀬は言う。まったく、聞き耳を持ちやしねえ……。

「そうね、今日はあなたが主役だもんね。いいわ、行きましょ、雪乃」

「瑞穂大好きー!」

 いちいち椎田に抱きつく七瀬。椎田も甘やかしてるんだか何だか……。

「しゃあねえな、ほら行くぞ」

「ちょっと待って!」

「あん」

 今度は何だと振り向くと、七瀬はトランプを持ってどれがどれか隠しながらその手をこちらに突き出した。

「遊園地だから、ペアでしょー。で、クジよクジ。これで黒同士と赤同士が組むの」

 そういや、アトラクションはペアのものが多いな。ここはコイツの話に乗ろう。

「男とか女とかは分けるのか?」

「分けないよ! 私と瑞穂が組むこともあるの」

 そうなると、俺は泉とか……。って泉、顔色悪いぞ。

「おい、大丈夫か」

「こ、ここのお化け屋敷怖いって有名なんだよね。だ、大丈夫だよね?」

「さあな」

 俺に聞くな、俺に。コイツ、ビビりなのか?

「じゃあ、引くぞ」

 まぁいいや、とカードを引くとハート。椎田と泉も各々カードを引いていく。「僕はクローバー」

「私はダイヤ、柳田君とペアね」

「じゃあ、私は泉とね。大丈夫ー?」

「よ、よろしく」

「椎田、行こうぜ」

「ええ」

 ペアが決まれば話は早い。目指すはお化け屋敷。どうせ、大したものでもないだろう。

 近づいてみるといかにもな外見で、田舎にしては少し頑張りましたというふうな建物があった。

「じゃあ、先に入るぞ」

 あの分だと、泉達を先に入れると追い付きそうだ。こちらが先に行くのが賢明だろう。

「行きましょうか」

 まだお化け屋敷が混む時間でないせいか、ほとんど待つことなく入ることができた。ガイドの指示に従って建物に入ると、中は薄暗くなっており、そこかしこに病院とおぼしき品々がある。赤く染まった床、散らばるカルテ、切り裂かれたベッド。

「大丈夫か?」

「ええ」

 横にいる椎田に聞くと、意外にも気丈な返事が返ってきた。ちょっとは怖がると思ったが、お嬢様は意外とたくましいようだ。

 更に進むと、手術室が見えてきた。手術台にはバラバラの人、いや人形か。いやにリアルに作られていて、正直気味が悪い。隣の部屋は準備室のようで、血塗られたロッカーが並び、中央にはテーブルとソファー。部屋の中に入ると……。 ガタン!

「ヴァアアアア!」

 ロッカーが突然開き、中から顔が半分欠け、片腕だけの医者のゾンビが現れた。

 ヒュン。

 そちらに気を取られると、顔に何かが飛んできた。掴んで見てみると、このゾンビの失われた半分の顔だった。かなり細部まで作り込まれており、目などは本物のようだ。

 なるほど、泉の言った通りこれはかなり怖いだろう。有名なことも納得できる。だがまぁ、この程度か……。

「大したことないな」

 飛んできた顔の半分を投げ返す。ゾンビもすごすごとロッカーに帰っていった。

「ちょっと驚いたわ」

 椎田は微笑んでいる。けっこう強いらしい。これなら大丈夫そうだ。

「サクサク行くか」

「ええ」

 俺は足を引きずったままだが、椎田はそれに合わせてくれている。気遣いもできるのか。

 道中、さらに看護師や患者のゾンビが襲ってきた。さすがに上半身のみで追い掛けられると少し驚いたものの、じっと見つめていると皆すごすごと帰っていった。

「拍子抜けだな」

 そろそろ5分経つ。泉たちも中に入ったか。

「柳田君」

「ん?」

 立ち止まって椎田の顔を見ると真剣な、だが柔和さを感じる表情だった。

「少しお話があるの」

「話?」

「雪乃のことなんだけど、……最近良く笑うようになったの」

 付いたり消えたりのライトが俺たちを包む。

「2年になってクラスが別々になって、あのコのこと心配してたの。あまり周りに馴染めてなくて、無理してて」

 頭の後ろで腕を組む。そりゃそうだろう。あんなお転婆、百合ヶ丘のお嬢様と気が合うわけがない。

「それが最近、予備校が楽しいって笑顔で話すようになって……。聞いたら、柳田君と泉君のおかげみたい。だから、感謝したかったの」

 そう言うと、椎田は再び微笑んだ。これは普通の男ならコロリと落ちる。すごい美貌だ。いや、清楚な雰囲気もあるだろう。烏の濡れ葉色も妙に艶やかだ。

「大したことじゃない」

「大したことよ! あのコ、家も大変だから」

 ん、と立ち止まる。家の中が大変というと、荒れてるとか? それを無理に振る舞ってるとか?

「雪乃、話してないのかな? ……あのコ、家政婦さんもいる豪邸に暮らしてるのよ」

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