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お嬢様のお誘い

椎田さん登場しました。

「椎田さんはそこのと同じ学校?」

「そう、一緒」

 そこの、と言われてちょっと、と突っ掛かる七瀬は無視する。

「去年まではクラスも一緒だったの」

 椎田さんはニコリと微笑む。大きすぎない目に長い睫毛、スッとした鼻と口。なるほど、これはなかなかの美人だ。

「今は別れちゃったけどねー」

 あーあ、と七瀬が両肘をテーブルにつけ、顎の辺りで顔を支えながら呟く。こちらはぺちゃ鼻で中の中か、口に出したら激怒するだろうな。

「文系と理系だからね、仕方ないよ」

「だって、同じクラスの人つまらないんだもん」

 今度はテーブルにもたれかかって指遊びしている。落ち着きがない。

「じゃあ、椎田さんは文系なんだ」

 へー、と泉が話し掛ける。こちらは美人を前に少し緊張しているようだ。

「えぇ、保育士志望なの。それと、さんはなくていいわよ」

「じゃあ、椎田。それなら、なるほど、文系だな」

 保育士とはまた、お嬢様だな。子供の育児を考えてじゃなかろうか。

「瑞穂も英語取ってるの」

「福崎先生のね」

「『福崎の勝つ英語』? すごいね!」

「じゃあ、俺たちの次の時間か」

 福崎というと、けっこう成績は上だ。俺たちが取っている西野がセンターレベルだから、二段階上で上位国立クラスだ。百合ヶ丘の中でも英語は間違いなく上の方だろう。

「瑞穂はねー、語学が得意なの!」

「理系が苦手なだけよ」

「だいぶすごいよ! 上位国立レベルでしょ? 自分なんかセンターですら危ういのに」

「つか、お前が威張ることじゃねーだろ……」

 しゃしゃり出る七瀬を制す。コイツもコイツだが、泉も目をキラキラとして尊敬の眼差しで椎田を見ている。さっきから泉は驚いてばかりいる。もしかして俺、泉を買い被っていたか……? いや、相手の強さを認めるヤツは上達が早いし、うーん……。

「どうしたの?」

「あ、いや……」

 泉と目が合ったので、再び椎田に視線を戻す。

「他の科目は講義取ってる?」

「数学の2Bを取ってるわ」

「あ、そういえば同じ講義室にいたよね?」

「川崎先生のね」

 と、なると数学はセンターレベルか。確かに理系は苦手みたいだが、こういうヤツは努力するからな。侮れない。

「私と柳田は物理を取ってるよね!」

「あぁ、一応専門だからな」

 俺は城川工業の物理工学科に所属している。一年から物理があるという珍しい学科だ。もちろんレベルはそんじょそこらの工業高校だから、進学希望は少ないが。

「私も物理は負けないよ。この前の小テストは93点!」

「す、すごい。俺は64点……」

 百合ヶ丘と泉の通う屋代南ではレベルに差があるが、七瀬の物理レベルはホンモノらしい。ちなみに二人は二年から物理が始まったらしい。

「や、柳田は?」

「俺は一年のころ、平均で94点」

 だいぶレベルを落としたから以上、専攻する科目の基礎なら90点代は維持したい。

「そ、それもすごいね。あちゃー」

「あー、1点負けた。チクショー!」

「誰が畜生だ、誰が」

 泉は苦笑いしながら頭を抱え、七瀬はまたわーわー騒ぎ立てている。

「すごいことね」

 椎田は笑顔だ。その笑顔はまさに女神の笑顔で、普通の男子ならメロメロだろう。

「大したことじゃない。うちのレベルじゃそれでも国立が見えるかどうかだよ」

 城川工業は地方のスポーツの得意な工業高校。国立を目指す俺にとって、それは最低条件だ。

「何の、一年の数学は平均87!」

「95」

「また負けたー」

 七瀬は頭を抱えて、テーブルにもたれかかる。百合ヶ丘がほぼ進学ということを考えると、単純比較はできない。

「でも、次は負けない! 瑞穂のこの前の英語は91なんだから!」

「あ、雪乃」

「それは反則だろ……」

 この椎田という女、英語は相当なレベルだな。さすが『福崎の勝つ英語』なだけある。俺も早くもう一つレベルを上げないといけないな。

「へへーん、これは勝ったでしょ」

「だから、お前が威張ることじゃねーだろ……。二度言わせんな」

 相変わらず何なんだ、コイツは。

「皆すごいなぁ」

 泉はポリポリと頭をかく。こう言っちゃなんだが、泉の通う南高は特に進学やスポーツに力を入れていないのだから、競っても難しい。ちなみにサッカー部も弱小で通っている。

「イレブンの谷田部選手の出身高校は?」

「広島短大付属高校」

「あら、すごい」

「そ、そうかな?」

 へへへ、と笑う泉は即答で返していた。おいおい、脳みそ使うところ間違えてねーか。

「まぁ、勉強するためにあるのが予備校だ。時間はまだある。すぐにこんな女抜けるさ」

「ちょっと失礼ね。簡単に負けないわよ」

「雪乃も気が抜けないわね」

 談笑した時の時間の流れは速い。もう講義の時間だ

「さぁ、時間だ。そろそろ行くか」

「あ、もう? 予習してないや」

「なら、私は自習室に行こうかしら」

 各々が立ち上がる。で、一人だけそれを止める者がいる。七瀬だ。

「ちょっと待った! 本題に入ってない!」

「本題?」

 七瀬は忘れてた、と呟く。椎田もそういえば、と立ち止まる。

「来週、ゴールデンウィークでしょ! 皆で遊園地行こう、遊園地」

 それは突然の、お嬢様だかお転婆だかのお誘いだった。

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