偶然の不運
初投稿です。よろしくお願いします。
体育館の出入口で、俺は立ち尽くしていた。
目の前にはグラウンドと、そこでサッカーをしている同級生達。
それをただ黙って見続けていた。
「……ねぇ、授業終わったよ」
誰かに肩をさすられて、俺は夢の中から引き戻された。ハッとして目を覚ますと隣の席にいる女の子と目が合った。
「起きた?」
「……うん」
ぼーっとしたままとりあえず頷く。寝ぼけ眼で周囲を見渡すと、皆は友人と談笑したり、帰る準備をしたりしている。
……そうだ。予備校で授業中だったんだ。寝てしまっていたのか。
「良く寝てたねー。半分くらいは寝てたんじゃない?」
隣の席の女の子はケラケラと笑う。俺は少し罰の悪そうな表情をして、頭をかいた。確かにノートはかなり中途半端なところで終わっている。別に真面目に授業を受ける気があったわけじゃないが、さすがに半分も寝ていたのでは何となくもったいない。
「あ、ノートコピーする?あまり綺麗じゃないかもだけど」
俺の視線が白の多いノートを向いていることに気付いた女の子が言う。
「え? あ、いや、いいよ…」
急に言われたのでつい断った。友人であればコピーをお願いしたかもしれないが、所詮は予備校の授業であるし、そのうち学校で同じ内容を習うだろうという思いもあった。
……というか、俺はそもそもこの女の子のことを知らない。ここまで仲良さそうに話し掛けられておいてなんだが。
「あ、他にあてがあった? まぁ、後でDVDを見直すこともできるしね」
じゃあ、という感じにその娘は参考書やノートを鞄に片付け始めた。彼女の言う通り、後で録画した授業を見直すこともできる。
「……あの、起こしてくれてありがとう」
今更ながら一応、礼を言っておく。
「え? いいよいいよ」
軽く手を振って彼女は答える。今更気付いたが、彼女は百合ヶ丘の制服を来ている。百合ヶ丘学院といえば名門女子高として近隣では有名である。中高一貫でお嬢様ばかりと噂に聞いたことがある。
目の前の彼女は気さくな感じだが、特別お嬢様という感じではない。良く見てみると顔は真ん中くらいだろうか? ……いや、自分も自慢するほど美形じゃないが。
「七瀬」
「あ、やっほー」
自分も帰る準備を始めようかというところで、隣の席の女の子が誰かに呼ばれたようだ。
「後ろの席にいたのか、気が付かなかった」
声の主が近づいて、……!!
(な、何でここにコイツがいるんだ?)
俺はその場を離れようと急いで片付けをする。
バサッ。
慌ててしまって、カバンの中身を床に盛大にぶちまけてしまった。
「大丈夫?」
七瀬と呼ばれた女の子が手伝おうとしゃがむ。
「だ、大丈夫」
俺は下を向いたままカバンに中身を掻き込む。急がないと。
「……泉?」
その声が俺の名前を読んだ。背筋がゾクッとする。紛れもなく、彼の声だ。俺は振り向くことも、返事をすることもなく、無理やりカバンに落とし物を突っ込むと、急いでその場を去った。
「お、おい」
「あ、ちょっと!」
二人の声を背に教室を出る。
何だってアイツがこんなところに……!
感想・批評お待ちしております。