ヘドバン
今日も真っ黒です! (^-^;
『ANRI』ってハンドルネームだったからてっきり女性かと思ってたら男性だった。
しかも年配の……
きっかけはチケット譲渡サイトだった。
BEX-JAPANの復活コンサート!
それはもう!
プラチナ中のプラチナで……それを譲ってくれるだけで“神“だったから!
例えどんな人が隣に座ろうが構わないけど……
私が不安だったのは『壺商法』みたく抱き合わせ販売されるのかもと言う事!
まあ、ある程度のものは“チケット代”として吞み込もうと思っていた。
パート代から貯め込んだヘソクリもそこそこの額になっていたから。
けれど、彼はこのプラチナチケットを正価で譲ってくれた。
ライブ会場近くのカフェでそれを受け取った時、手が震えた。
「でも、まさかとは思うけどこのチケット、偽物だったりして……」
一瞬、頭の中にこの言葉がよぎる。
そんな私の“思い”がカレに伝わったのだろう。
「お金はコンサートが終わってからでいいですよ」と言われた。
「どうして?」
「それはカオルさんが図らずも私の夢を叶えてくれたからです」
「“夢”ですか?」
「ハイ!」
「私が最後にBEX-JAPANを観た……その時はまだBEXでしたが……1997年の第1期解散コンサート。私は17歳で独りで観に行きました。だからもしBEXが復活する事があったら……その時は女の子と観に行きたいと……」
「第2期の……BEX-JAPANになってからは観に行かなかったのですか?」
「はい、その頃はもう社会人で結婚も出来ましたがチケットが取れませんでした」
「そうですよね。プラチナチケットだから……」
「けれど、二度目の復活の今回! やっとチケットが取れました! そしてはるばるこのフェスティバルホールまで遠征して来ました!」
「あの、どちらからいらしたんですか?」
「神奈川です」
「ええっ??! 私、東京なんですよ!」
「じゃあ、お一人で? お仕事を休んで?」
「ええ、私はパート勤めだし子供も居ないので……主人が出してくれました」
「ご理解があられるのですね。ウチのは……もうBEX-JAPANには興味が無いみたいで、今回もずっと誘っていたのですが……最後にはため息をつかれました。それでチケット譲渡サイトへ登録したんです」
「それじゃあ、私が今日観に来れたのは奥様のお陰ですね! 奥様には申し訳ないけど……」
「いえいえ『カオル』ってお名前だったから、まさか女性だとは思わなかったのですが……私もこうして“夢”を叶える事ができました! 女房には少し申し訳ないけど『チケット2枚も買ってどうするの?!』って叱られてしまいましたからね」
こう言って笑うカレは……まるで少年みたいだ。
細身のデニムが良く似合うし……
私のキャップとサングラスを貸してあげたら一気に若返った!
だから私は迷うことなく彼の腕を取り、コンサート会場へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
コンサートの熱狂が醒めやらぬ中、私達の隣のカップルともノリノリになって4人でカラオケへ行き、“持ち歌”の歌合戦、というか合唱みたいな感じになっちゃったんだけど……カレともバラードを何曲かデュエットした。
めちゃめちゃ楽しい!!
その後、ジモミーの彼女達のなじみのお店へ誘われた。
「じゃあ! ちょっとだけ」とカレと二人でお邪魔したら気さくで賑やかな“同好の士”ばかりで……私達は最終の新幹線を諦め、皆で撮った写メをくっ付けて各々の“家族”へメッセを送った。
若いコ達は「朝まで騒ごう!」ってノリだったけど“カップル”さんが気を遣って、ホテルを二部屋リザーブしてくれたので、半分開いたウィスキーとワインのボトル、お店ご自慢の熱々のピザを持たされてホテルへ向かった。
取りあえず荷物を置いて隣のカレの部屋へ
熱々のピザを挟んで再度の乾杯。
と……トロトロのチーズが絡んでカレが取りづらそうにしているので私はカレの隣に座り直してもう片方のピザのピースを摘まんであげた。
そこからなんとなくくっ付きながらまたまたコンサート談義
で、何かの流れでヘッドバンギングの話になり、酔ってハイテンションになっていた私達は『ヘドバン合戦』を始めた。
ゲラゲラ笑いながらヘドバンしていた私の手がブレてグラスの中身をカレのズボンにぶっかけてしまった。
あいにく手元にタオルなどが無く、カレはズボンを脱ぎバスルームへ駆け込んだ。
私は私で慌ててクローゼットの中のバスローブを取り出したのだが戻って来たカレと鉢合わせしてしまった。
笑いが抑え切れず肩をヒクヒクさせているカレの下半身は……私が久しく見た事が無かったボクサーパンツだった。
「勝負はまだ終わってない! カオルさんのヘドバンにオレ、勝てるよ」
いささかも怒っていないカレにホッとした私は笑いを爆発させた。
「私の熱演に勝てるわけがないでしょ!」
「なんの! オレには古の奥義があるんだ! 仲間内で門外不出にしたんだけど……」
「なんだ! 見せられない奥義なんてクチだけじゃん!」
「カオルさん! 門外不出って意味分かる? 見るとヤバいって事だよ」
「そんな事言って……ブラフかましてんの?」
「じゃあ! 見せてやるよ! 息子との共演だ!」
とカレはボクサーパンツの腰ゴム? へ指を掛けた。
その“演技”に私は爆笑したが、カレの息子は途中からノリもの酔いになったらしく親が激しくヘドバンしてもぐったり動かなくなった。
「なんだ!つまんないじゃん!」
「……おかしいな……」とカレ、ますます激しくヘドバンするが、さすがに首をおかしくしそうなので私が止めた。
「仕方ない! 私が一肌脱ぐよ!」
そう言って私はぐったりしている息子さんに手を伸ばし……
私は自分の部屋へ帰る事無く、一晩中シャウトし続けた。
帰りの新幹線でも隣の席のカレが新横浜で下りるまで……カレのブルゾンと私のひざ掛けの下で私達はずっとネチネチし合っていた。
もちろん“二人で行く”次のコンサート参戦の予定も組んである!
この『ライブ遠征』が……今の私の生活の張り合いになっているんだ。
おしまい
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