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全員参加型ババ抜き(但し全員ババ持ち)

掲載日:2026/05/15

前世を思い出した瞬間、俺は神を呪った。

――なぜ、今なんだ!



とあるインフルエンサーに晒された短い動画。

1人の男が、優先席でスマホをいじっている。


顔は写っていない。

けれど、この動画を知ったのは、友人から連絡があったからだ。


『妊婦なのに、優先席を譲って貰えなかった。優しさは消えてしまったんだね』


付けられたテキストに、スマホを叩きつけたい衝動を必死で抑えた。

いつ撮られたのか。全く覚えがない。


「ひと声かけられたら、譲ったのに…!」


そう、呟いた時だった。

目の前にいくつかの光景がフラッシュした。


――前世だ。


ただ、理解した。

この動画を投稿したインフルエンサーは、前世の俺だ、と。

同じ時代の別人、こんなことがあるのか。

碌に信じていない「神」とやらの仕業か。


「――なんで、今なんだ!」


分かっていたら、回避したのに!

優先席になんて座らなかった。

バスの中でスマホなんて見なかった。

バスなんて乗らず――


「待て。なんで、前世の自分から逃げないといけないんだ」


たしかにあの頃、腹は重く、立っているだけでしんどかった。

見ればわかる妊婦なのに、なぜ配慮がないのかと腹を立てるくらいには。


だが。

気づかなかったから譲れなかっただけのことを、晒しやがって。

まるで後出しジャンケンだ。


「…くそったれ」


いいねの数が、また増えた。

前世の俺は、腹を立てただけではなかった。

妊婦全員に配慮をしてほしいという気持ちも、確かにあった。


俺は、人工の足を手に取った。

左足に装着し、玄関を出る。


すれ違う人の笑い声が嘲笑に聞こえて、振り返る。

俺の方を見ていなくて、ほっと息を吐いた。


ズボンに隠れた左足を見下ろす。

前世の俺は、周囲の人が察してくれるのを待っていた。

俺が義足であることに気づかずに。


俺は、前世の俺に気づかなかった。

他にも、気づかなかった瞬間があるのかもしれない。

見えるものも、見えないものも。


「…くそったれ」


足早に、コンビニを目指した。

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