全員参加型ババ抜き(但し全員ババ持ち)
前世を思い出した瞬間、俺は神を呪った。
――なぜ、今なんだ!
とあるインフルエンサーに晒された短い動画。
1人の男が、優先席でスマホをいじっている。
顔は写っていない。
けれど、この動画を知ったのは、友人から連絡があったからだ。
『妊婦なのに、優先席を譲って貰えなかった。優しさは消えてしまったんだね』
付けられたテキストに、スマホを叩きつけたい衝動を必死で抑えた。
いつ撮られたのか。全く覚えがない。
「ひと声かけられたら、譲ったのに…!」
そう、呟いた時だった。
目の前にいくつかの光景がフラッシュした。
――前世だ。
ただ、理解した。
この動画を投稿したインフルエンサーは、前世の俺だ、と。
同じ時代の別人、こんなことがあるのか。
碌に信じていない「神」とやらの仕業か。
「――なんで、今なんだ!」
分かっていたら、回避したのに!
優先席になんて座らなかった。
バスの中でスマホなんて見なかった。
バスなんて乗らず――
「待て。なんで、前世の自分から逃げないといけないんだ」
たしかにあの頃、腹は重く、立っているだけでしんどかった。
見ればわかる妊婦なのに、なぜ配慮がないのかと腹を立てるくらいには。
だが。
気づかなかったから譲れなかっただけのことを、晒しやがって。
まるで後出しジャンケンだ。
「…くそったれ」
いいねの数が、また増えた。
前世の俺は、腹を立てただけではなかった。
妊婦全員に配慮をしてほしいという気持ちも、確かにあった。
俺は、人工の足を手に取った。
左足に装着し、玄関を出る。
すれ違う人の笑い声が嘲笑に聞こえて、振り返る。
俺の方を見ていなくて、ほっと息を吐いた。
ズボンに隠れた左足を見下ろす。
前世の俺は、周囲の人が察してくれるのを待っていた。
俺が義足であることに気づかずに。
俺は、前世の俺に気づかなかった。
他にも、気づかなかった瞬間があるのかもしれない。
見えるものも、見えないものも。
「…くそったれ」
足早に、コンビニを目指した。




