「邪魔!」と言ったらピンチになった話
チンピラみてーな男が生き方を変える話です。
「邪魔!どけよ!!」
俺の歩行を邪魔する人間に、そう言って、どついた。
俺の前方にいた女は言う。
「おお……それはすまない。私はお前ではないから、わからなかった」
「思いやりはないのかよ!思いやり!」
女は黒髪で長い三つ編みをした、小柄な少女だった。
「お前は、いつもそういうやり方で他者を意のままに従えているのか?」
女が着ている黒のジャケットに黒のプリーツスカートが、やけに、テラテラと太陽の光を映す。
ジャケットの下に着ている白のTシャツがそれを緩和する。
「あぁ?!」
「喧嘩を売るスタイルはやめておいた方がいい。いつか、痛い目を見るぞ」
そういうと俺に謝らずに、女は去っていった。
「んだよ、あの女……」
俺がそう呟いた直後、前から男がぶつかってきた。
「痛ってーな!邪魔だ!」
「……痛い?痛い?痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い?」
ぶつかってきた男は、明らかに異質な男だった。
「ひっ」
悲鳴を上げると、男が言う。
「人間、この俺に喧嘩を売ったな?殺さない程度に遊んでやろう」
瞬間、体の自由がなくなり、ニタニタ笑った男の片手が俺の顔を鷲掴む。
ミシミシと音を立て、痛みと恐怖がやってくる。
「……!」
声を上げたいのに声が出ない。
その時。
「我が同胞よ。私の顔に免じて、この男を見逃してやってくれないか」
先ほどの女が、どこからともなく現れた。
「お前は……魔物でありながら魔物を殺す者!
俺を殺しに来たのか!」
「いいや。お前は人間を殺していない。だから、何もしない。
けれど、私は人間を傷つけない魔物として作られている。
だから、この男は見逃してほしい」
すると、男は少し考えてから俺の顔を離した。
皮膚に残る痛みに、心臓がバクバクする。
「……ふん。お前と事を構えたら面倒だ。人間。
一度だけ見逃してやる。次はない。」
男は煙のように消え、女は最後に俺にこう言った。
「これに懲りたら、人に喧嘩を売るような生き方は、もうやめるんだぞ」
――そんなことがあってから数週間後。
(邪魔だ……)
俺の歩行を邪魔する婆さんが、ヨボヨボ歩いていた。
以前なら邪魔だと言ってどかしてたろう。
だが、あんなことがあってからは、とてもじゃないがそんなことをする気分にはならなかった。
(にしても、ホントにこの婆さん遅いな……よし。)
「……婆さん。おぶってやろうか?歩くの大変だろ。」
「えぇ?!いいのかい?」
俺はガラにもなく婆さんをおぶった。
婆さんは家の近くの公園まででいいと言うと、俺に言った。
「ありがとうねぇ。助かったよ。お礼に、はい、これ!ミカンだよ」
「え……あ、ありがとうよ」
婆さんはお辞儀をして去っていった。
俺はもらったミカンを手で持ちながら、思った。
(今までの生き方は損だったのかもなぁ……)




