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絵描きの君とのラフな関係。「先生、進捗どうですか?」  作者: 葵依幸
【4】考えるな、感じるんだ。理想のおっぱいを。

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考えるな、感じるんだ。理想のおっぱいを。(2)

 目隠しである。

 突然に絵麻にタオルで目を覆われ、驚きや恐怖よりも困惑の方が勝る秀治であった。


 とりあえず膝をついた体勢のまま下手に動けず絵麻の姿を探す。


「なんで……?」

「だってほら、五感に頼るからいけないんだよ。ほら、指先の感覚に集中して? 指先で、おっぱいを感じて、どれがいいかを選ぶんだよ、秀治……! どんとシーンク、じゃすとフィールっ……」


 なんかの映画のセリフを引用しつつ絵麻が近づいてくるのが秀治にもわかった。

 視界は闇である。


「じゃ、まずはこれー」

「へいへい……」


 暗闇の中、秀治の持ち上げた指先がむにょりとシリコンに触れた。


「どう?」

「普通」

「んー、んじゃ、こっちは?」


 むにょり。


「……ちょっと硬すぎるかな」

「だよねー。んじゃ次はこっちー」


 むにょり。

 むにょり。

 むにょり。


 次々差し出されるシリコンを暗闇で感じつつ、秀治は逐一コメントを述べていくのであるが、正直、どれもパッとしなかった。


「なぁ、もういいんじゃないか……? 目隠ししても分からんもんは分からんて」

「えーっ……? でもまだサンプル半分あるしー……」


 どんだけあんだよ、おっぱいの感触のサンプル。

 もういい加減風呂にも入りたかった秀治は次を求め、ため息混じりに腕を伸ばし、むにょりと、それを掴んだ。


「……んー」


 むりょり。むにょり。


「……ん?」


 と秀治がそれまでとは違う何かに気づいた瞬間、それは引っ込められる。

 秀治の手の中に残るは、柔らかな感触である。


「……どう、だった……?」


 絵麻が尋ね、秀治は手に残る感触を思い出しながら告げた。


「今のが一番良かった気がする」

「そ、そっか! へーっ? なるほどなぁっ? 最後のが一番ねーっ?」


 バタバタ! と暗闇の先で絵麻が何やら片付けを始めたのを察し、秀治はタオルを取ると今そのことを思い出し、告げた。


「つかお前、さっきこのタオルで口拭いてなかったか? 牛乳飲んだ後。きたねーんだけど」

「ああっ、めんごめんごっ。間接きっしゅ?」


 てへーっ! と大袈裟にふざけて見せる絵麻だったが何やら空回りしているし、両手いっぱいにおっぱいマウスパッドを抱え、自室に引き上げようとして「うげっ」と悲鳴をあげたかと思えば、盛大に転んでみせた。


 おっぱいマウスパッドと共に床にダイブ。


「……大丈夫か、お前」

「大丈夫……。おっぱいに助けられた……」


 床一面のおっぱいマウスパッドである。

 衝撃は殆どおっぱいに吸収されたらしい。


「手伝うよ」

「ありがと……」


 いそいそと身を起こす絵麻と共に美少女おっぱいマウスパッドを回収し、段ボールに入れ、絵麻の部屋へと秀治は運んだ。


「んじゃ、風呂入ってくるから」

「おー、貴重なるコメントをどーもありがとー」


 気の抜けた返事を背に、秀治は風呂へと向かい、手に残る感触に少しだけ、ほんの少しだけ、おっぱいマウスパッドの良さを理解しかけたが、「……いや、ないな」


 それを自らのデスクに置いた光景を想像し、秀治は諦めた。


 絵麻はああ言っていたが、実際にそれを使っている自らの光景を見れば必ずと言っていいほど幻滅されるだろうし、そもそも絵麻自身『使うのは解釈違い』と言っていたではないか、と。


「難しいなー」


 幼馴染のことを理解したいとは思う。


 が、いつもながらに何を考えているのか分からない幼馴染に振り回される伊藤秀治、二十四歳。

 おっぱいマウスパッドの柔らかさを知った初夏の出来事であった。



「…………」


 秀治が扉を閉め、しばらく経っても尚、絵麻は動き出すことが出来なかった。


 バクバクバクと鳴り続ける心臓と、必死に押し隠した恥じらい。

 顔に出ないようにと慌てた末の転倒である。


 あまりの失態に別の意味でも慌ててしまい、うまく誤魔化すことは出来たが今回の『やらかし』は度が過ぎていた。

 絵麻は自らの胸元を見つめ、深く一つ、深呼吸をして自らを落ち着かせた。


 風呂上がりである。


 秀治と暮らし始めて二年。最初の数日は気を使っていたが、絵麻は寝る時に『着けない派』である。


 初夏の季節。それなりに厚手のTシャツを選ぶことで透けたり浮き出たりすることは予防し、風呂上がりはタオルを首にかけることで湿気による『透け』を覆い隠したりと絵麻は絵麻なりに実は気を遣っている。


 ならばちゃんと『着ければ良いのでは』と思われるだろうが、寝る時に外すのが面倒くさいし、正直言って絵麻はそれほど『大きくはない』。


 最近では五歳年下の妹にも負け始めていることを自覚している。


 故に、油断していた。

 故に、『事故った』のである。


 ビニール袋越しのシリコンの感触と、Tシャツ越しの『その感触』の違いに秀治が気づけなかったのはもはや奇跡としか言いようがなく、秀治が『感触』ではなく『弾力』に意識を向けていたことによる命拾いであった。


「バレて、ないよね……?」


 自らの胸に手を押し当て、ぷるぷると震える絵麻は段ボールの中。自らを見上げる美少女たちの上半身に僅かばかりの羞恥心を覚えた。


 結城絵麻、二十四歳。

 おっぱいマウスパッドとして揉まれる側の気持ちを知った初夏であった。


《続く》


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