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絵描きの君とのラフな関係。「先生、進捗どうですか?」  作者: 葵依幸
【1】履いてない方が可愛いに決まってんじゃん!

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履いてない方が可愛いに決まってんじゃん!(2)

「履いてない方が可愛いに決まってるじゃん!?」

「女子高生がパンツ履いてなかったら問題だろ!?」

「……はぁ!?」


 秀治は言ってからいつも後悔する。

 売り言葉に買い言葉ではないが、分からないからとムキになってしまう自分の未熟さに。


 しかし、いつものこととはいえ秀治も体力的には限界だったのだ。


 一週間の疲れが出始めた木曜の夜だ。まだ仕事は残ってるし、明日も早い。夕飯だって、秀治はまだ食べていなかった。


「大体、なんで履いてないのが可愛いになるんだよ……」


 機関投資家向けの資料作成、市場調査。秀治には明日までに片付けねばならない仕事もあってのやり取りだ。

 頭痛に肩を落としながらも液タブの画面を見やるが、秀治には『パンツを履いていないことで可愛さがアップする』とは微塵も思えない。


 本当に、中高生向けのライトノベルで下着を描かないことになんの意味があるのか……? 寧ろ悪影響なんじゃないか?


 そのようなことを考えつつも、頬を膨らませ、あからさまに不満を表す絵麻を放っては置けなかった。


「可愛いに理由とかないし」

「それで編集さんが納得してくれると……?」

「してくれると思うよ。秀治とは違うもんっ」


 ふんっ、とそっぽをむいてしまった幼馴染に、……なけなしの気力も折れてしまう秀治である。


「ああそう……? でも、青少年育成なんとかに引っかかるといけないからパンツは履かせた方がいいともうよ。せめて履いてるけど履いてないように見えるようにするとかさ……」


 疲れと幼馴染への想いを天秤にかけ、結局は呆れの方が優ってしまった秀治はネクタイを外し、廊下を出て自室へと足を向けた。着替えを持って脱衣所へ行き、シャワーを浴びて、買ってきた駅前チェーン店の唐揚げお弁当での夕食だ。


 言うまでもなく、絵麻は料理ができないし、する気もない。秀治の帰りが遅い日はカップ麺で済ませるし、既に今日は遅くなると連絡してあったから、適当に済ませたのだろう。


 ――故に、シャワーを浴び、髪を乾かしてリビングに戻ってきた秀治を出迎えたのは制服姿の絵麻であった。


「……なんで?」


 思考が止まる。


 ソファに座っていたのは膝丈のチェックなスカートに白のブラウスにネクタイ。茶色のカーディガンを羽織った、女子高生姿の絵麻だった。


「可愛いでしょ」

「全く成長がないな」


 ふふん? と得意げな絵麻に動揺を悟られぬよう、秀治はお弁当を電子レンジへと入れ、オレンジ色の光を前に思案する。


 ……まるで変わっていない。


 胸周りは少々変化している気がするけれど、六年前、高校に通っていた頃のままだった。


「持って来てたんだな、制服」

「当たり前じゃん。資料だよ、資料」


 絵麻は再び鼻で笑い、立ち上がって見せるとスカートの裾を掴み、あらわになった白い太ももが無駄に眩しかった。

 そして、当然のようにその視線を絵麻は目ざとく察知する。


「えっち」

「うるせー」


 そんな秀治の様子を見て絵麻は満足げに頬を緩ませるのをみて、モヤモヤする秀治は温め終わった唐揚げ弁当を持ってダイニングテーブルへ。

 椅子に腰掛け、弁当を開けながら目の端でこちらをニヤニヤ笑いで伺う絵麻を見る。


 なお、今更であるがこの二人は恋人関係にはない。


 ……大事なことなのでもう一度言うが、決して二人は恋人関係ではない。無駄なイチャつきを見せているが、あくまで居候と家主である。


 幼少期より共に多くの時間を過ごし、それなりの時間を幼馴染として過ごして来た上に、同棲のような形に落ち着いてはいるが、絵麻は秀治のことを『家主』として扱い、秀治は絵麻のことを『居候』として認識している。


 それが事実であり、パンツがどうのと言っている割に、案外二人ともウブであった。

 故に、このような暴走事故が起きるのだ。


「ねー、しゅーじー?」


 甘ったるい甘えるような声音を作って見せ、ソファに片足を乗せてスカートの端が捲れるがままに誘惑するのは絵麻の悪ふざけであり、抵抗であった。


「履いてるのに履いてないように見えるってこういうことぉー?」


 スカートの布が持ち上がり、太ももが露わになるとさらにその先、足の付け根、腰との境目まで肌色が覗き始める。


 否、覗くまでもなくガン見していた秀治は慌てて顔を背けた。


「な、何してんだよ、お前」

「いや、だって秀治、履いてない可愛さが分かんないっぽいからさ、分からせてやろうかと」

「はぁあ?」


 普段よりアホな幼馴染ではあるが、秀治にとってもこれはなかなかに『ど阿呆』な絵麻だった。


「ほらほら、エロくなーい? 可愛くなーい?」


 チラチラと布を揺らし、肌色を露出させる絵麻。

 それを見てしまいそうになる誘惑を食欲で上書きしようと唐揚げを口に頬張りつつ視線を逸らす秀治。


 木曜の夜十時前。

 なんともアホな光景ではあるが、本人たちは至って真面目に主張をぶつけ合っていた。


 否、客観的に見ればかなりイチャコラしていた。


「ほらほらー、見なさいよー、ほれー」

「やめろって。見えたらどーすんだよ……」

「えー? 大丈夫だよー見えないし。ほら、えっちでしょ?」

「話が変わってきてる……! 可愛いかどうかだったはずだろ? エロいのは違うだろ!」

「違うの?」

「違う、と思う……!」


 自信はないがここで押し切らねば大変なことになると秀治は理解していた。

 絵麻は絶対に折れることはない。だからこそ、強引に押し切る必要があるのだ。納得はしなくとも。


「ていうかさ、さっきから全然こっち見ないけど、それが答えじゃないの?」

「え?」

「だから、秀治が私のスカートの中、見えそうになるのに必死に我慢してるの、それが答えじゃん」


 つまり、見えそうになるものを見てしまいそうになるのが男のサガだというのであれば、見えてしまいそうになること自体に引力が発生し、魅力となっているのではないかと絵麻は説明した。意味不明ではあるがつまるところ『見えそうなのに見えないのってエロいよね』と言いたいらしい。


「見えたら興醒めでしょ? 私の下着」

「……お前の下着なんて物干し竿でいつも見てる」

「いやんっ」


 いやんじゃねーよ、少しは気を遣えこの引きこもり、という言葉を飲み込む秀治であったが顔には出ていた。

 絵麻は微塵も気づいてはいなかったが。


「でさー、やっぱ見えないのって可愛いよね? 見えちゃダメだと思うんだ。パンツ」

「パンツが見えて喜ぶ人もある一定層いると思うし、そういう需要もあると思うから好きにすればいいよ。俺はどっちでもいい」

「本音は?」

「……言わねーよ」

「それって答えじゃん」


 ……いや、答えではないだろ。


 言い返しかけた秀治だったが、唐揚げを頬張ったせいで機を逃した。


「じゃ、履いてるけど履いてないように見えるってことで履いてない絵にしとく!」

「おー、なんかよく分からんけど解決したらよかったよかった」


 ありがとねー! と自室として間借りしている部屋に引っ込む絵麻を横目にテレビをつけ、その日一日のニュースを眺めつつ秀治は口の中のものを飲み込み、「……はぁああ……」


 盛大に。

 それはもう、深々と、ため息をついて、自分の顔を両手で覆い隠すようにして項垂れた。 


「かわいすぎかよ……」


 伊藤秀治、二十四歳。

 幼馴染の結城絵麻への恋心を自覚してから八年目の春の出来事であった。




「はーっ、やっぱ、履いてない方が可愛いに決まってんじゃんねー?」


 自室兼作業部屋に戻った絵麻はベットの上の皇帝ペンギンのぬいぐるみ、炎ペラーの頭を撫でながらベッドの上に倒れ込み、左右に転がった。


 久しぶりに引っ張り出してきた制服は少し胸の部分がキツかったが、全然現役でも通用するレベルだ。

 どうせなら資料用に何枚か写真を撮っておこうとスマホに手を伸ばし、ふと部屋の端にあるものに目を止める。


「……ていうかさ、ここまでやって手を出してこないとか、どーなってんでしょーね、ウチの幼馴染くんはー?」 


 ねぇ、炎ペラー? とペンギンをつつき、絵麻はパンツを履くとべくスマホを手に取った。


 結城絵麻、二十四歳。

 奥手な幼馴染に見当違いなアピールをし始めて二年目の春の出来事であった。



 ――尚、これは余談になるが、『履いていない』イラストを納品した絵麻は後日、『謎の光』でお尻を隠す処理をさせられることになった。


 作家先生からは「是非そのままで」との強い要望もあったことはここに書き添えて置こう。


 恨むなら、履いていないように見えるだけ実は履いているのだという設定を理解できない編集長と世の中を恨んでほしい。


 まぁ、実際は履いていなかったわけだけれども。



《続く》

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