戦後11か月 アラスカ~カナダ ②
狩りのあと、その晩のキャンプは久しぶりに活気があった。
雪上車を半円に止めて風よけにし、真ん中で焚き火がぱちぱちと音を立てている。
……のだが。
「ナツメ、クローディア、伍長。……あとセルゲイ達!お前らはそこ座ってろ」
「「「「「「「!?」」」」」」」
調理の人たちに、私たちはまとめて戦力外通告された。
「お前ら、料理させるとろくなことにならねぇんだよ!
まずナツメ、この前に焼き物任せた時、『時短』って言って火力最大にしやがったな?」
「だって、強火なら早く焼けるって……」
「火力と調理時間は比例しないんだよ!」
わああああん!
細かい火加減とか超苦手なんだよぉ!!
クローディアさんもむくれて腕を組む。
「私は綺麗に焼けた。ちゃんと綺麗な色になった」
「あれ、中は生だったよ……姐さん……」
「…………」
あ、視線そらした。
レン伍長は伍長で、
「……俺はレシピ通りに作ったはずだが」
「伍長! 「適量」って「全部」のことじゃないからね?!
焼いた肉が埋まるほど岩塩乗せたら一般人は死ぬの!!」
「……? だが、塩味はついたぞ?」
「味が付けばいいってもんじゃないんです!!!」
最終的に私たちは焚き火の前に並ばされ、
「絶対に!手を!出すなよ?」
とぶっとい釘を刺された。
そこで鼻で笑ったのがセルゲイさんたちだ。
「さすがの強化兵も、こっち方面じゃ形無しだな」
と調子に乗ったところで、料理班の怒号が飛ぶ。
「兵長! あんたたちも同レベルだからな!!」
「ま、まて! 俺たちはちゃんと『煮る』を知ってるぞ!!」
「そうだそうだ!」「横暴だ!」
「知ってればいいってもんじゃない!あんたら何でも煮ればいいと思ってるだろ!」
「……煮沸殺菌は基本だろ?」「煮とけば腹は壊さないよな?」「ああ。」
「はい同レベル! レーションから栄養剤までごった煮にするのは料理とは言わん!」
セルゲイさんたちは揃ってガーン!の顔になり、
結局、私たち7人は小さくなって焚火の前に並ぶ羽目になった。
クローディアさんは膝を抱えて小声で文句を言ってる。
「私だって魚はさばけるのに……」
「料理はさばいてからが本番なんですよ……」
「鱗さえとれば食べるのには十分」
「今問題になってるのは味なんです!」
伍長がぽつりと聞いた。
「……調理には鉄板は使わないのか?」
「え? 何の話です?」
「肉だ。鉄板で焼くのか? それとも直火で焼くのか?」
「伍長……料理って焼く以外にもあるんですよ……?
煮るとか、蒸すとか、炒めるとか……」
「……全部火を使うのは同じだろう」
「そうですけど!!」
そこへ料理班のアレックスが横から顔を出す。
「伍長、直接火で焼くのは原始人!
火加減を調整するのが文明!
……お願いだから覚えて……!!」
「……そうか。では焼くときには注意しよう」
「焼く以外を覚えろって言ってんです!!!」
アレックスと伍長のやり取りをみてセルゲイさんたちが笑う。
「俺らのほうがまだマシだな」
「同レベルだって言ってるでしょ!ああもうどいつもこいつも!!」
アレックスの叫びが森に響いた。
*********
そんな大騒ぎの中で、料理班が手際よく作業を進めている。
肉を切る音。
煮える匂い。
炭で少しずつ焼かれていく香ばしい香り。
「……いい匂い……」
思わずつぶやくと、伍長も珍しく小さくうなずいた。
「……旨そうだ」
クローディアさんは耳まで赤くして、
「……私も……うまく焼けるようになりたい」
と言ったので、私と伍長は顔を見合わせた。
「じゃあ今度、みんなで料理練習しましょうね。
火力弱めて、焦げないで、人が食べられる味になるように……」
「……がんばる」
「煮るなら任せろ。いくらでも教えてやる」
「セルゲイさんたちもこっち組ですからね?!」
7人で焚き火の周りに座りながら、
まるで子供みたいに、漂う食欲の匂いにお腹を鳴らし続けた。
こういう夜もある。
それだけのことで、旅路が少し楽しくなった。
あ、久しぶりのお肉は涙が出るくらい美味しかった。
次の日からしばらく見張りの人数が倍になったのは……しょうがない、よね。




