戦後10か月 アラスカ ②
10か月後、2つに分けました。 内容はほぼ一緒ですが一部追記等あります
泣いて、ようやく息がつけるようになった頃――その夜、基地でささやかな宴が開かれた。
グエンさんが例のお酒を持ってきて、「今日は特別だ」と言った。
「味は相変わらずクソだがな」
「クソでも飲みましょうよ。これが飲み納めです」
「おう。……乾杯だ」
手作りの鉄カップを鳴らす。
焦げた魚の匂い、笑い声、風の音。
それだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
「ねえ、グエンさん」
「ん?」
「これが、自由ってやつですかね」
「さあな。でも、悪くねぇだろ」
私は笑った。
たぶん、本当にそうだと思った。
いつの間にか、会場はかくし芸大会になっていた。
「六番! アシュレイ!二分でリーマン予想証明します!」
いつも物静かだった情報分析官さんも、今日は盛り上がってる。
「十番! チャン! 外殻割ります!」
細身の歩兵さんが、ブロック二つの間に置かれた宇宙船の外殻に拳を振り下ろすと、バキリと割れた。
あれ、私たち強化兵でもなかなか割れないんだけどなあ。
そんなのを背景に――
「クローディアの姐さん! ずっと好きでした! 付き合ってください!」
「「「おおおおーーー!!」」」
ドノバンさんがクローディアさんに突撃した。
「……? ……!?」
グラスを片手に『え、私?』って顔をしてたクローディアさんは、周囲を見渡すと一気に耳まで真っ赤になった。
私のほうを見て、目で『たすけて』って言われても困ります。がんばってください。
……でも、その後ろでノヴァクさんがハンカチ噛みしめてるのは…あれ? まさか… え?
「ナツメちゃぁぁぁん!!」
真っ赤になったユイさんが、泣きながら抱きついてきた。
「どこか行っちゃやだぁぁぁ! 一緒にいるのぉぉぉ!!!」
私に、戦争だけじゃなくて娯楽を教えてくれた人。
何もない中で新作を描くたびにナイショだよって見せてくれて、
攻めとか受けとか、てえてえとかキマシタワーとかいろんなことも。
「う、あ、う、うぇっ……ぇぇぇぇぇぇ……ユイ、ざぁぁぁん……!!!」
抱き合って、ひとしきり泣いた。
やがて、宴会の騒ぎは歌になっていった。
誰かが廃材ででっち上げたギターを鳴らし、誰かが鍋を叩いてリズムを取る。
雪の舞う外とは別の時間が、そこにだけ流れていた。
焦げた魚の匂い、手作りの酒の味、
そして、この基地で一緒に過ごした仲間たちの声。
そんな光景のなかで――宴は、静かに続いていった。
翌朝。
雪上車が列を作って、基地の外で待っていた。
エンジンの立てる重低音が周囲に響いている。
声をかけてきたのはグエンのおっちゃんだった。
「ナツメ、寒くないか?」
「平気。――強化兵ですから」
そう言って笑ってみせたけど、胸の奥が少しだけ痛かった。
壁に使われた外殻が、朝日を跳ね返してきらめく。
かつて敵だったヤツラの外殻が、今は私たちのために使われている。
今度こそ、本当にガラクタになるんだね。
そんなふうに基地を見回していたら、セルゲイさんに呼び止められた。
「ナツメ。ちょっと付き合え」
セルゲイさんに連れられ、私は森の前まで歩いた。
「元気で暮らせよー!」
セルゲイさんの大声が森に響く。枝の雪がぱらぱらと落ちた。
「これもケジメだ。お前も言っとけ」
「――クマタロー!! 元気でねーーー!!」
セルゲイさんが頭をポンポンと撫でてくれる。ちょっと涙が出た。
雪上車のエンジンが低く鳴り、列がゆっくり動き出す。
遠ざかっていく基地の小さな煙突からは、もう何も出ていない。
さよなら。
いままで、本当に、ありがとう。




