戦後10か月 アラスカ ①
保存ミスして先の展開が入ったままになってたので再投稿です
二か月後。
雪はもう積もりはじめ、地面はところどころ凍りついて白く光っていた。
その地平の向こうから、腹の底に響くような重い鼓動音がした。
燃料と油の匂いが、乾いた風に乗って流れてくる。
戦車の排気にも似た――戦場を思い出す匂いだ。
エンジンの唸りがひときわ強くなると、周囲の木々から雪がぱらぱらと零れ落ちた。
「……来たぞ!」
私たちが凍りかけた地面を踏みしめたその先で――、白い地平の向こうから迎えの雪上車の影がひとつ、またひとつ立ち上がった。
キャタピラの軋む低い唸りが、空気を震わせる。
前部ユニットと後部カーゴを関節でつないだ二連の巨体。
雪原用に太く張り出したキャタピラが、丘の傾斜をゆっくりと噛み込んでいた。
先頭車が稜線を越えた。
関節が折れるみたいに車体がぐっと沈み、後部が遅れて追いつく。
巨獣が四足で歩いているみたいな動きだ。
その後ろから、同じ形の車両が二台、三台――そして四台目が姿を見せた。
どれも風雪に削られた装甲に、補修の跡が黒く浮いている。
エンジンの排気が白く長く尾を引き、丘の上で陽光に揺れた。
「四台……大所帯だな」
セルゲイさんの呟きが、震え混じりに耳へ届く。
戦後、この規模の車列を見ることなど一度もなかった。
四つの巨体が一列で近づき、凍りついた泥を巻き上げる音が大きくなる。
やがて車列が速度を落とし、ひとつ、またひとつと私たちの前で停止した。
エンジンの唸りが低くなり、白い排気がゆっくりと流れていく。
その静けさの中で、ドアが開き、軍服の兵士たちが姿を現した。
若い。どの顔にも疲労と、安堵が混じったような色が浮かんでいる。
一歩前に出た士官が名乗った。
「人類連合・第七管区、ロバート中尉です。……お疲れさまでした。よく、生き延びてくれました」
その一言で、誰かが泣いた。
戦争の終わりが、ようやく「正式に」届いたからだ。
「手続きや打ち合わせの前に、まず、強化兵の皆さんはこちらへ」
呼ばれた方向に歩いていくと、
その場に立ったのは――私と、クローディアさんと、背の高いもう一人。
レン=ラウリー伍長。
偵察兵で、昔から無口で何考えてるかわからないけど……
母艦が落ちてから、アラスカの吹雪の中をずっと歩きまわって、
散り散りだった生存者を一番多く連れてきた人。
あの人が戻るたびに、基地の中がちょっと明るくなった。
......生き残ってこの基地にたどり着けた強化兵は、この三人だけだった。
軍の人たちが、軍用紙に印字された書類とコードを手渡してくる。
手のひらに乗ったそれには、ただ二語だけ。
『任務終了。帰還。』
たったこれだけ。
だけど、この二語がなかったせいで――
私たちは半年間、アラスカから一歩も動けなかった。
埋め込まれた命令コードが、
「ここがお前たちの配備場所だ」と私たち自身に命じていたから。
頭の奥に張りつめていた糸がぷつりと切れたみたいに、意識が軽くなる。
ふ、と息が漏れた。
「……終わりで、いいのね?」
クローディアさんが、震える声でつぶやいた。
隣ではレン伍長が、
いつも無表情だった目を瞬かせて、
信じられないように手の甲を見つめている。
「……解除された。確かに」
その言葉を合図にしたみたいに――
次の瞬間、三人とも一気に崩れた。
「……終わった……ほんとに……!?」
思わず声が裏返って、涙がこぼれた。
「よかった……っ……!」
「……やっと。……」
短いけれど、レン伍長のその言葉が一番重かった。
戦闘で泣いたことなんてなかった人が、
肩を震わせて私たちを抱き寄せる。
レン伍長の腕の震えが伝わってきた瞬間、胸の奥が決壊した。
クローディアさんの声が泣き声に変わり、それが引き金になって、私ももう堪えられなかった。
三人は泣いて、笑って、抱き合って、
ぐちゃぐちゃになった。
雪は冷たいはずなのに、
どうしてか温かかった。




