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侵略戦争に勝ちました! 世界人口は1億未満になったけど、私は今日も元気です!  作者: とおエイ


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戦後半年 アラスカ

――半年後。

アラスカ。元最前線。

季節で言えば春にはまだちょっと早い頃。


雪は相変わらず冷たい。

でも、もう慣れちゃった。


あの直後、私を含めて三人しかいなかった基地跡は、

今では十人以上が暮らす小さな集落になった。

煙突から上がる白い煙。

魚の焼ける匂い。

誰かの怒声と、誰かの笑い声。


戦争中には絶対に戻らなかった種類の生活音が、

今の私たちの日常になっていた。


戦争で電子機器は壊滅した。

どうやったのかはわからないけど、電卓から軍用スパコンまで、

地球上のすべての半導体はヤツラの仲間になった。

コンピューターはわからないように間違った答えを出し続け、子供のおもちゃは

持ち主の居場所をヤツラに送り続けてた。


そんな状態で開戦したら、そりゃ勝てるわけがない。

初めのころは、どこの戦線も連戦連敗だった。

最新兵器だって、コアを握られた瞬間ただの裏切り者。

しかも、敗因を分析するコンピューターも、

観測データも、半導体を通るものは全部ヤツラに弄られてた。

戦況の共有だって、細かいところで致命的な嘘だらけ。


異常に気付いて、化石みたいな工場制の手工業に国民総動員どころか人類総動員で切り替えて、

化学反応で動く兵器と、第2次世界大戦終盤の実験兵器みたいな戦力でどうにか反撃に転じるまで6年。

私たち強化兵だってそのころの技術者たちの手作りの産物。

だから個体差も大きいしあんまり汎用じゃない。

最後に聞いた公式情報では、地球の人口は一億を切ってた。


だから、今はもう電子機器なんてどこにもない。



「ナツメー、そっちの外殻、こっちまで頼む!」


工兵のハロルドが、外で手を振ってる。


「はーい! ってうわ、これ、けっこう大きい!?」


十メートルはありそうなヤツラの宇宙船の外殻を、肩に担いで雪の上を歩く。

地球の金属よりは軽いけど、このサイズだとそこそこな重量がある。

でも生体強化兵の私には、このくらいなんてことはない。

でも、たまに普通の人のふりして「よっこいしょ」って言ってみる。

なんかそのほうが落ち着くんだよね。


「おまえさんならそのくらい平気だろ?」


「まあ見ての通り……余裕ですけど?」


「ほれ、使えるもんは使えだ」


むー。


「ナツメってどこの国製だったっけ?」


「メイド・イン・ジャパンのハンドメイドでーす!」


「そりゃコンパクトで高性能なわけだ」


「コンパクトってひどい!」


「ならもうちょい体にメリハリつけてこい」


「ぶーぶー、強化兵差別はんたーい!」


「はいはいはい。わかったからそこ置け、取り付けやるぞ」


作業台の横にしゃがんで外殻を下ろすと、金属がコンクリートにぶつかる音が周囲に響いた。

私は手袋を鳴らして、次の指示を待つ。


「よし、じゃあ――」


ハロルドが言いかけたところで、私はそっと指を立てた。


「その前にひとこと言わせてください」


「なんだよ急に」


「……レディに十メートル級の残骸任せるの、ひどくないです?」


「はいはい、じゃあ言い方変えてやるよ」


ハロルドは肩をすくめてから、にっと笑って言う。


「頼りにしてるぜ、ナツメ」


……ずるい。


「……もー! そう言われたら、働くしかないじゃないですかー!」


外殻の位置を建物の外壁に合わせてハロルドの指示どおりに微調整。建物の削られた部分にぴったりはまった。


「さすがですね」


「ほめても何も出ねぇぞ。でも、これでまた使える部屋が増える。一人部屋になれるかもな?」


「え、やだ。寂しいから合部屋でいいです!」


こんな日々の繰り返し。

かつて私たちを攻撃してた船の残骸が、今は家の壁。

なんか、それがいい。



「ナツメちゃん、今日も元気だねぇ」


次の仕事を探してたら、燃料の精製をやってる整備兵のグエンのおっちゃんが、マグカップ片手に声をかけてきた。

ここのみんなが使ってるアルコール燃料の生成を一人でやってくれてる。

この燃料が明かりから暖房、煮炊きまで全部賄ってる。たぶんこれがなかったら生存者は半分以下になってたんじゃないかな。

手伝おうにも原理が分かって操作できるのがおっちゃんだけなんだ。


「あはは、それだけが取り柄ですからー。あれ、お酒ですか?」


「おうよ。アルコール燃料の失敗作だ。飲んでも死なねぇって保証付きだぞ」


「それ不安なんですけどー! 飲みすぎちゃダメですよ!」


「飲みすぎるほど飲める味じゃねぇよ。……ああ、普通の酒が飲みてぇ」


そう言いながらまたグエンのおっちゃんがマグを傾ける。

この前みたいに寝込んでも知らないから。



「今日は大漁よー!」


海中適応兵のクローディアが、自分より大きなイルカを抱えて帰ってきた。

背中の網には魚や海藻がぎっしりだ。


「肉だああああ!!」


「クローディアお前最高!!」


作業してた人たちが駆け寄る。

魚ばかりの生活に、久しぶりに違う味が加わる。

軍用レーションだけだとやる気も出ないしね。


「久しぶりのお肉ー!!」

私が思わず叫ぶ。


「アイツら、陸は荒らしたが海はほぼ手つかずだったからなぁ」


グエンのおっちゃんがマグを揺らしながら言う。


「おかげで食料に困らないですからね。……まあ、クローディアさんあってのことですけど」


そう言うと、クローディアさんは照れたように鼻を鳴らした。


「手伝いますよ!」


「ありがと。じゃあ、処理の済んだのを保管庫までお願い」


「はーい!」



魚が山積みになったパレットを運んでいると──


「速報ーー!!! 芽が出たぞぉぉぉ!!!」

「「「おおおーーーー!!!」」」


畑のほうから大歓声が響いた。


身長2メートル級のセルゲイさんを中心に、

歩兵たちのはしゃぎ声。

……人ってほんと、強いな。


魚のパレットを保管場所に運んだ私は、

せっかくだし畑の新芽を見に行くことにした。


夕暮れの光が雪に反射して、畑全体がほのかにオレンジ色に染まっている。

みんなが集まっている先──

未耕作地との境目あたりに、黒い影があった。


そして、その横には転がったヘラジカ。


……あのシルエット。


「あ、クマタロー。元気ー?」


ただの挨拶。ほんとにそれだけ。


だけどクマタローの背中がびくっ!! と跳ねて、

耳はぺたんと寝て、

三メートルの巨体がセルゲイさんの背中にぎゅうっと押しつけられた。


なんで!?


セルゲイさんは鍬の柄を軽く肩に乗せ、苦笑した。


「まだナツメは怖いか。まあ、しょうがねえわな」


「ちょっとぉ!? どういう意味なんですかそれー!!」


私が抗議すると、

近くにいた最近合流したばかりのカイルさんが、混乱した顔でセルゲイさんを見た。

セルゲイさんは「ああ、こいつにはまだ話してなかったな」という顔で説明し始める。


「こいつが初めてここに来たときよ。哨戒してたナツメに喰われかけてな」


「わーーー!! わーーー!!

 それ濡れ衣です! 過失! 心神喪失だったので無罪なんですーー!!」


私は全力で手を振った。

だって、あの頃は……いろいろしょうがなかったんだから!


でもセルゲイさんはお構いなしだ。


「アレが落ちて俺たちがここに住み始めたころでな。

 まだクローディアもいなかったし、

 季節も悪くて食い物は毎食ほぼレーションだけだった。

 あの直後だ。レーションの匂いでも、こいつにはご馳走だったんだろうな。

 柵ぶち破って入り込みやがってよ。

 で、ちょうど見回り中のナツメと鉢合わせして──」


私は顔を真っ赤にして叫んだ。


「わーわーわー!!!

 違っ……違うんです!

 中華だと熊の手って高級食材って聞いたことあったから!!

 ちょっと食べられるのかなーって思っただけ!!それだけなの!!」


言ってて、フォローになってない気がした。


セルゲイさんは愉快そうに肩を揺らす。


「傑作だったぞ。逃げようとするこいつを押さえ込みながら、

 「食べられるのかなー」ってぶつぶつ言ってるナツメは。

 で、俺が引っぺがしたら、すごい勢いで逃げてったんだわ」


「絶対本気だった」と言いたげに、

クマタローが「グゥゥ……」と情けない声を漏らし、

セルゲイさんの影にぴたっと張りついて震えている。


セルゲイさんが肩をすくめた。


「……それからも何度か色々あってな。

 今じゃ、ナツメへのお供え物なのか俺へのお礼なのかよくわかんねえけど、

 こうして時々、獲物のおすそわけに来るんだよ」


「違いますぅぅ!!

 私そんなに怖くないですーー!!

 ねー、クマタロー!?」


一歩近づいた瞬間──


ひくっ。


巨体がはっきり跳ねた。

完全に怯えてる。

……解せぬ。

アレ以降は何もしてないよ!

ちゃんとクマタローってかわいい名前も付けてあげたのに!!


説明を聞いてもどういう顔していいかわからないって顔のカイルさんと、「そりゃわからねえよな」って笑ってるセルゲイさん。

そして必死に抗議中の私を無視して、ほかの人たちは慣れた顔で距離を取りつつ、農具の後片付けを始めている。


なんでー!!!


そんなことをしてるとサイレンが鳴って、アルコール燃料のガスライトが点き始めた。


「お、夕飯か」

「あ、サーモンの匂いするぞ!」

「やべぇ、遅れると医長に怒られっから急げ!」


さっきまで笑ってたみんなが、何事もなかったみたいに一斉に走り出す。

戦争が終わっても、食べそびれると怒られるのは変わらないらしい。

クマタローは、私と目が合わないようにそろそろと森に消えていった。

セルゲイさんもクマタローが帰ってくのを見届けて、私と食堂へ向かう。


「ほらナツメ! ちびっ子はちゃんと食わないとメリハリつかねえぞ!」

「ちょ、クマタローの件は!? まだ私の濡れ衣があああ!!」

「濡れ衣じゃねえだろ。ほら急げ!」


夕焼けに染まった雪の上で、

私の抗議だけが風にさらわれていった。


もう空襲も奇襲も来ない。

それだけで、歩く足取りが少し軽い。


「ナツメ、新作できたよ」


通信兵のユイが、食堂ですれ違いざまにこっそり耳打ちしてくる。


「行きます行きます行きます!!」


あの続き……司令と参謀長……尊い……。


戦争は終わった。 世界がどうなってるのかはわからない。

でも、私たちはここで生きてる。

……たぶん、それで十分だ。

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