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ママJKの日常  作者: まとら 魔術


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9/19

ACT.8

翌朝。

カーテンの隙間から差し込む光がやわらかく揺れている。

枕元では娘が小さく咳をしていた。額に手を当てると、熱い。


「……熱あるね」

彩花は時計を見た。登校時間が迫っている。けれど、このまま娘を置いて行くことなんてできない。


学校に「体調不良で休みます」とだけ連絡を入れ、保育園にも電話をした。

静かな部屋。時計の針の音がやけに大きく響く。


タオルを濡らして額にのせ、湯を沸かしてポカリを作る。

彩花の髪は乱れたまま、目の下には少しクマが浮かんでいた。


ピンポーン。

インターホンが鳴る。心臓が一瞬跳ねる。


ドアを開けると、そこに美咲が立っていた。

制服姿のまま、リュックを背負い、手には買ったばかりのコンビニ袋。


「……やっぱり休んでたんだ」

美咲は少し息を弾ませて笑った。

「学校で聞いたの。彩花が休みって。なんか心配になってさ」


彩花は驚きながらも、思わず笑みを浮かべた。

「美咲……ありがとう。でも大丈夫だよ、ちょっと熱があるだけ」

「でも、一人じゃ大変でしょ? これ、ポカリとゼリー」


袋を差し出す美咲。

「それにしても……彩花の家、かわいいね。ちゃんと“暮らしてる”って感じ」


彩花は少し照れながら娘を抱き上げた。

「ねえ、あの時の“おねえちゃん”だよ」

娘は熱で少しぼんやりしながらも、美咲を見て微笑んだ。

「……みさき、おねえちゃん」


美咲は膝をついて、そっと娘の髪を撫でた。

「早く良くなってね。ママが困っちゃうよ」


小さな手が、美咲の指をぎゅっと握る。

その温もりに、美咲の胸がじんわりと熱くなった。


「……やっぱり来てよかった」

美咲は立ち上がり、彩花の方を見て微笑んだ。

「ねぇ彩花、無理しないで。困ったら、いつでも呼んで。あたし、相棒でしょ?」


彩花は何も言えずに、ただ頷いた。

涙がこみ上げたが、笑ってみせた。


窓の外では、春の風がやさしくカーテンを揺らしていた。


午後の光がレースのカーテン越しに柔らかく差し込んでいた。

娘は毛布の上で浅い呼吸をしながら眠っている。頬はまだ少し赤く、額に冷えたタオルがのっていた。


キッチンからは、湯を沸かす音と包丁のまな板を叩くリズム。

エプロン姿の美咲が立っていた。制服の上から借りたエプロンは少し大きくて、腰のリボンがだらんと垂れている。

「……ねぇ、彩花。おかゆ、こんな感じでいい?」

鍋の中で米がゆっくりと煮えて、湯気が立ち上る。

「うん、すごく上手。ありがとう」


彩花は娘の側で洗濯物をたたみながら、微笑んだ。

部屋は狭いけれど、二人が並ぶと不思議とあたたかかった。

美咲はお玉を握ったまま振り返り、笑った。

「ふふ、こうやって家事するの、初めてかも。楽しいね」


「楽しい?」

「うん。なんか、落ち着く。あたしの家は、こういう“静かな時間”ってあんまりないから」


彩花は少しだけ手を止めた。

「……ありがとう、美咲」

「何が?」

「こうして、一緒にいてくれること。ほんとに助かる」


美咲は少し照れくさそうに、鍋の中を覗き込む。

「いいってば。あたしも彩花に会えて良かったし。なんか……ここに来ると、“普通に生きてる”って感じがする」


娘が寝返りを打って、小さく咳をした。

美咲はすぐに駆け寄り、タオルを替えてやる。

「……ねぇ、彩花。この子がもう少し大きくなったらさ、三人でどっか行こうよ。公園とかさ」

「うん。行こう」


外では夕立の後の風が吹き抜け、どこか遠くで子どもの笑い声が響いた。

湯気とともに漂うおかゆの香りの中で、穏やかな午後がゆっくりと過ぎていった。

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