ACT.7
夕暮れ。保育園を出た帰り道、アスファルトの上に三つの影が並んで伸びていた。
彩花は娘の小さな手を握り、美咲は反対側に並んで歩く。
「ママ、このおねえちゃん、だあれ?」
娘が首をかしげる。
美咲は笑ってしゃがみ込み、目線を合わせた。
「私は美咲。ママの大事なお友達だよ」
「みさきおねえちゃん?」
「そう、みさきおねえちゃん」
小さな手が遠慮がちに伸び、美咲の指をつかんだ。
その瞬間、空気が少しやわらいだ。夕風が金髪のツインテールをふわりと揺らす。
「ママね、がんばりやさんなんだって。私、今日いろいろ知ったんだよ」
娘は不思議そうに首を傾げて笑った。
「がんばりやさん?」
「そう。ママは世界一のがんばりやさん」
彩花は頬を赤らめながら、娘の髪を撫でる。
「……美咲、あんまり変なこと言わないで」
「変じゃないって。ほんとのこと」
夕日が沈みかける中、スーパーの袋を片手に、三人は家路を辿る。途中、アイス屋の前で娘が立ち止まった。
「ママ、あいす……」
小さな声に、美咲がすぐ反応する。
「よし、今日は特別だ! 私がごちそうしてあげる!」
「えっ、美咲、いいよ、そんな……」
「いいのいいの! 相棒の子どもだもん!」
彩花は苦笑しながらも、結局ベンチに腰掛け、三人で小さなバニラアイスを分け合った。
スプーンを持つ娘の口元にアイスがついて、美咲がハンカチで拭う。
「なーんか、こういうの悪くないね」
「……うん」
「ねぇ彩花、これからもたまに三人で帰ろ?」
彩花は小さく頷いた。
風の中、街灯がぽつりと灯る。
三人の笑い声がゆっくり夜に溶けていった。
夜風が肌を撫でる頃、三人は街角の自販機の前で足を止めた。
娘はすっかり眠そうで、彩花の腕の中にすっぽり収まっている。
「……寝ちゃったね」
美咲は笑いながら、紙コップの自販機でホットココアを買った。
湯気の立つコップを彩花に差し出す。
「ほら、あったかいうちに」
「ありがとう」
二人は並んで歩きながら、黙ってココアをすする。
ふと、美咲がつぶやいた。
「……あたしさ、うちの親、ずっと仲悪いんだ」
彩花は驚いて顔を向ける。
「そうなの?」
美咲はうなずいた。
「父親は仕事ばっかで、母親はそのことでいつも怒ってる。毎日、家でケンカの声ばっか聞いてるんだよ。
それがイヤで、外にいる時間が長くなった。放課後とか、意味もなく遠回りして帰ったり」
彼女の声は穏やかだったけど、どこか寂しさを含んでいた。
「だからさ、今日、彩花とその子見て……なんか、いいなって思った。大変なんだろうけど、ちゃんと“家族”してる感じ」
彩花は少し黙り、眠る娘の髪を撫でた。
「……ありがとう。でもね、私だって完璧じゃないよ。泣きたくなること、いっぱいある。でも、それでも生きていくしかないの」
美咲は微笑んで、夜空を見上げる。
「うん。……でも、そういうの、かっこいいよ」
「かっこいいなんて言葉、初めて言われた」
「じゃ、これからは言ってあげる。相棒だからね」
二人は顔を見合わせて、くすっと笑った。
夜風の中、街灯の光が二人の影をやわらかく繋いでいた。




