ACT.2
美咲は私の机に肘をついたまま、にやりと笑った。
「ねぇ、彩花って……なんか雰囲気違うよね。大人っぽいっていうかさ」
不意を突かれて胸がざわついた。制服のタイの結び目を指先で直しながら、無理に笑みを作る。
「え? そ、そんなことないよ。普通だって」
でも美咲は引かない。青い瞳を細めて、じっと観察するみたいに私を見てくる。
「普通の子ってさ、もっときゃぴきゃぴしてるじゃん。彩花は落ち着いてる。なんか……“経験済み”って感じ?」
心臓が止まりそうになった。頭の中で赤ちゃんの泣き声が蘇る。あの日の冷たいタイルの感触が足裏に戻ってくる。
「……な、何のこと?」
「ほら、あたし勘はいいんだよ? 誰にも言わないから正直に教えてみ?」
美咲はぐっと顔を近づけ、囁くように言った。ツインテールが頬をかすめて、甘いシャンプーの匂いがした。
「彩花、なんか……秘密持ってるでしょ?」
――やばい。ばれる。
喉が乾いて声が出ない。指先がタイツの膝を無意識に掴む。
その時、チャイムが鳴って担任が教室に入ってきた。ざわめきが広がる中、美咲は私にだけ聞こえる声で言った。
「あとで話そ。逃げんなよ、相棒♡」
にっこり笑った彼女の瞳は、好奇心と確信でぎらついていた。
――ここから、美咲が“真相を探ろうとする”展開に深めていく?それとも逆に“守ってくれる存在”へ転じさせる?
昼休み。
教室は弁当を広げる子や廊下に出て行く子でざわめいていた。私は鞄からおにぎりを取り出して机に置いたけど、どうにも喉が渇いて、ご飯を口に運べなかった。
そんな私の前に、どすん、と勢いよく椅子を引き寄せて座る音。
「ほらね、捕まえた」
金髪ツインテールの美咲が、にやにや笑いながら腰を下ろした。机の上にはピンクのランチボックス、ふたを開けると彩りのいい卵焼きやウインナーが並んでいる。
「彩花、あんたの秘密、ちょっとずつ探らせてもらうからね」
箸を動かしながら、あっけらかんと言う。
「ひ、秘密なんてないよ」
声が裏返った。けど美咲は見逃さない。水色の瞳が、まるで顕微鏡みたいに鋭く私をのぞき込んでくる。
「ふーん? じゃあ聞くけどさ」
彼女は卵焼きを口に入れながら指を一本立てた。
「なんで朝から目の下にクマあるの? 昨日だって寝不足でしょ」
ドキッとして下を向く。昨夜は娘が夜泣きして、何度も起き上がったから。
「それにね……」
今度は小声。顔を近づけて耳元に囁く。
「彩花って、子供と一緒に歩いてるの、見たって子がいるんだよ?」
頭が真っ白になった。保育園の送り迎えのとき? まさか誰かに……。
「……ち、違うよ」かすれた声で否定する。
でも美咲は悪戯っぽく笑うだけ。
「ふーん。否定するんだ? ならますます怪しいねぇ」
彼女は箸を置いて、両手を組んで机に顎をのせた。
「いいよ、無理に言わなくても。あたしが勝手に調べるから♡」
その言葉が胸をえぐった。
心臓が早鐘を打つ。娘の存在を知られたらどうなる? 噂になったら、この学校に居場所なんて――。
美咲は小悪魔みたいに笑いながら、ツインテールをひと振りした。
「覚悟しとけよ、相棒。あたし、気になることは絶対突き止めるタイプだから!」
――彼女は本気だ。
胸の奥で警鐘が鳴り響いた。




