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ママJKの日常  作者: まとら 魔術


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ACT.13

――プロジェクト会議室、午後三時。


生徒会室を間借りした小さな会議。窓の外ではセミが鳴き、冷房の風がゆるやかにカーテンを揺らしていた。

白いテーブルにプリントとメモ帳が広がり、数名の生徒が静かに座っている。


彩花もその一角にいた。隣にはいつものように美咲。彼女は彩花の膝の下でそっとタイツ越しに足を突っつき、「がんばれ」と目で伝えた。


「それでは、まず彩花さんから、自分のことを話してもらえますか?」

教員の促しに、彩花は緊張した面持ちで立ち上がる。

数人の視線が集まり、沈黙が落ちる。


深呼吸。彩花は両手を握りしめて口を開いた。


「……私は、中学二年のときに妊娠して、ひとりで子どもを産みました」


一瞬、空気が変わる。

誰かが小さく息を呑む音が聞こえた。だが彩花は視線を逸らさない。


「ずっと隠してきました。周りの目が怖くて、学校に来るのも、友達を作るのも。

 でも、美咲と出会って、支えてくれる人がいて……ようやく、“助けを求めていいんだ”って思えるようになりました」


彼女の声は震えていたが、ひとつひとつの言葉が、部屋の隅まで真っすぐ届いていた。


「いまは、支援制度を使って、娘を育てながら学校に通っています。

 誰にも言えずに苦しんでる子が、もし他にもいるなら……私の経験が、少しでも“隠さなくていい”って思えるきっかけになればって思います」


最後まで話すと、彩花は頭を下げた。

教室は静かだった。けれど、沈黙は否定ではなかった。


数秒後、男子生徒がゆっくりと口を開いた。

「……すごいな。俺、そんなこと考えたこともなかった」


他の女子生徒も、小さく頷いた。

「自分が同じ立場だったら、絶対耐えられないと思う。……強いよ、彩花さん」


彩花は戸惑いながらも、微かに微笑んだ。

横で美咲が誇らしげにうなずいている。


教員は締めくくるように言った。

「このプロジェクトの目的は、“支える側と支えられる側を、対立させない”ことです。

 彩花さんの言葉を聞いて、誰かの立場に立つことの意味を、みんな少しずつ感じ始めたと思います」


その日、会議室の空気は確かに変わった。

ただ“妊娠した生徒”だった彩花が、

“語れる当事者”として、誰かの視界に入った日だった。


会議が終わり、教室の外に出た彩花は、重たい扉が閉まる音を背に、ふうっと長い息をついた。

夕焼けが校舎の廊下を茜色に染めていた。


「……あの、ちょっといい?」


背後から声がした。

振り向くと、そこには同じ会議に参加していた男子生徒――拓海たくみが立っていた。

制服の胸ポケットに手を突っ込みながら、どこか気まずそうに目を逸らしている。


「……さっきの話、聞いてた」

「うん……」

「すごいと思った。俺……そういうの、想像もしたことなかったから」


彩花は黙って頷いた。

拓海はしばらく俯いたまま、言葉を選ぶようにしていたが、やがてぽつりと漏らした。


「……俺んち、母親いないんだ。小学校のときに出ていって、それっきり」


彩花は息を呑んだ。

「父親、朝早くから夜中まで働いてるから、ほとんど家にいない。

 妹と二人でメシ作って、掃除して、洗濯して。……それが“普通”だと思ってた。でも、違ったんだなって」


拓海の拳が、制服のポケットの中で震えていた。


「お前の話、聞いててさ。……なんか、俺だけじゃないんだって思えた。

 “家庭に事情がある”って言葉の重さ、今日初めて分かった気がする」


彩花は、胸の奥がふっと温かくなるのを感じた。

「ありがとう……話してくれて」


拓海は顔を上げ、ほんの少しだけ笑った。

「……俺も、誰かに話してよかったって、今思ってる」


彩花も微笑み返した。

その瞬間、目に見えない“壁”のようなものが、確かに一枚、消えていた。


「なあ……プロジェクトの中で、“家のこと話す”って企画、やってみてもいい?」

「うん。きっと、それも誰かの救いになるよ」


廊下の奥では、美咲が柱の影から様子を見ていた。にやりと笑い、手を振る。

彩花はその手を小さく振り返しながら、もう一度、拓海に向き直った。


「これから、よろしくね。……同じ立場の“当事者”として」

「おう。……一緒に、やってみよう」


夏の光が窓から差し込み、彼らの影を長く伸ばした。

それは、まだ形にならない“新しい連帯”の始まりだった。

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